SS第7話 乱暴なる野心
我が輩はボーマン。魚人の国の筆頭将軍を務める我が輩はマンボーの魚人である。
我らの国は元老院が政治を担っている。大昔に人魚達と結んだ不干渉の契約をご大層に守っている。今、我ら魚人の置かれた状況をどうにかしようともせず、日々を無駄に過ごす老人どもだ。
我らの住む海は昔は暖かく穏やかな海であったそうだ。しかし、150年前に起こった災厄により海の流れが変わってしまった。魚人の国は冷たく流れの激しい海になってしまったのだ。食べるものも減り、遠くまで食料を探しに行かねばならなくなった。
冷たい海流が暗き海から強力な魔物を連れてきてしまう。シーサーペントに襲われて死んでしまう者が我が国では後を絶たない。今の魚人達は日々生き残るためだけに生活している。この状況を我が輩達はなんとかしなくてはならない。子供達の世代にはもっとよい状態にして引き継ぐ必要があるのだ。今日も犠牲者を減らすために、シーサーペントや他の魔物を警戒しつつ、我らは魚人の支配域をパトロールする。
そんな中、海の交差路で取引をしてきた者達が我が輩に報告をしにやってきた。なんでも太った人間から怪しい話を持ちかけられたそうだ。人魚の国を攻めてみてはいかがでしょうか、と。
人魚の国は、我らの国とは違い暖かく穏やかな海にある。我が輩とて、何度攻め入ろうと思ったことか。だが、あの国は余所者を拒む強力な結界がある。あの結界を破り攻め落とすには、我らも多大な犠牲を払わなければだめだろう。現状では、人魚の国を攻め落とすだけの力がない。
無理だと一言伝えると、部下はさらに信じられぬ事を口にする。
人間がいうには、シーサーペントを使役することができる杖のアイテムがあるそうだ。それも杖を使う者の力量によって複数のシーサーペントを従えることができるらしい。そんな便利なアイテムの話は聞いたことがない。シーサーペントを従えた者など誰もいないのだ。
部下が言うには、「この話を詳しく聞きたいのであれば、次の満月の日に海の交差路までおいでください。他にもこの杖を欲しがる方は多いので断ってくれてかまわない」と言われたらしい。
我が輩は考える。もしもシーサーペントを従える事ができるのであれば、この海の中を我ら魚人が支配することも可能になる。暗き海は無理だが、我らがその他の海に覇をとなえることも夢ではあるまい。
人間がどんな要求をしてくるのかはわからぬが、実際に会ってみて判断すれば良い。部下には元老院には伝えないように念を押し、次の満月を待つことにした。
約束の日に太った人間と会った。人間が我が輩達に望むことは、人魚の国を攻め落とし、若い人魚の女たちを人間に売って欲しいということだけだった。我が輩が思ったのは、たったそれだけでいいのか、ということだ。人魚どもを売ることに抵抗はない。
我が輩は人間と契約を交わし、支配の錫杖を受け取る。3回後の満月の日にまたここで会うことを約束した。その時までにシーサーペントを捕まえなくてはならない。
支配の錫杖の使い方は簡単だ。シーサーペントの体に支配の錫杖を触れさせて呪文を唱えればいい。それだけでシーサーペントを支配できるそうだ。シーサーペントの寝床を調べ、睡眠薬を寝床に流し込む。寝ているシーサーペントに支配の錫杖を当て、呪文を唱えた。すると、支配の錫杖を介して我が輩とシーサーペントがパスで繋がった。
その後も同じようなやり方で、さらに2匹のシーサーペントを支配下に置いた。ただし、これ以上は無理だ。3匹が限界だ。これ以上は私の精神が、魂がもたない。
シーサーペントを使役し、シーサーペントを操る訓練をしていると、元老院から呼び出しがかかった。どうせつまらぬ小言をいいたいのだろう。
我が輩は支配の錫杖を隠し持ち、元老院に向かった。そこで待っていたのは、元老院と槍を手に我が輩を取り囲む元老院直属の兵士達だった。我が輩の罪状は国家転覆罪だそうだ。
勝手に人間と取引をしたこと。人魚の国を攻め落とすためにシーサーペントを支配下に置いたこと。それらを元老院にも諮らずに独断で進めていること。そして部下達を勝手に人魚の支配域に送り込み諜報活動をさせていることなど、色々とよく調べている。
その熱心さも国をよくするために使えばいいものを。
我が輩は呪文をつぶやき、シーサーペントを呼びつける。それと同時に大声で叫んだ。
「元老院議員諸君! 諸君の時代は終わっているのだ! これから我らは海を統べるために行動する。日夜不安におびえて過ごす時代は終わりを迎えるのだ!」
シーサーペントが元老院の天井を破壊し姿を現す。壊れた天井の下敷きになった者も数多い。シーサーペントは我が輩の指示を待つ。
「やれ」という短い言葉に反応し、シーサーペントはその場にいた我が輩以外の者達をすべて亡き者にしたのであった。