SS第4話 勇気を出して
私は小さな人魚のピンキーといいます。
私たちの国を救ってくださいとお願いするだけなのに、どうしても人形様にお声をかけることができない臆病な人魚です。
でも、人形様との距離は徐々に狭まっています。やさしい人形様は決して私を邪険にしません。人形様にすごい近づいても決して私に手をあげようとはしないのです!
そんな私は人形様の目の前までいき、ぐるぐると泳ぎます。私だって好きでぐるぐる廻っているわけではございません。
お声をかけよう。はー、やっぱり無理。
お声をかけよう。はー、やっぱり無理だわ。
お声をかけよう。うーん、緊張する。
お声をかけよう。ドキドキ。
というようにどうしても行ったり来たりとしてしまうのです。
人形様はそんな私を避けるかのように大きく弧をえがいて先に進んで行かれてしまいました。
あぁ、私はどうしてあと一歩が踏み出せないのだろう。国のみんなは今も大変な目にあっているのに。どうして・・・・・・。情けなくて涙が出てきます。私は力なく、海底に沈んでいきました。
ーー3日後
今日こそ行けそうな気がします!
人形様の周りをぐるぐると泳ぎ回り、自分自身を奮い立たせます!
人形様が歩みを止められました。これはチャンスです!
さぁ、勇気を出して声をかけるのです!
パシュ! 突然、何かが海藻を貫いていきました! いったい何が!?
!!? あ、あれは。トゲマンボン! 辺り一帯の海藻を食べつくしてしまうためにトゲマンボンが通り過ぎた後には残骸しか残りません。海藻だけでなく、魚もそのトゲで仕留めて捕食してしまう恐ろしい相手です。私たち人魚も年に1人犠牲者を出してしまうことがあるのです。トゲマンボンは海の嫌われ者です。
私は慌てて人形様の後ろに隠れさせていただきます。ごめんなさい! 人形様!
人形様にはトゲマンボンのトゲも全く効きません。カッカッカッとすべてトゲを弾いています! すごいです。
私を庇うかのように人形様がトゲマンボンと向かい合われます。あぁ、やはり人形様はお優しい。
気を抜いた私はうっかりと人形様の後ろから出てしまいます。するとすかさずトゲマンボンが私に向かってトゲを撃ってきます。私はぎりぎりのところでトゲをかわせました。
胸がバクバクと大きな音を立てています。怖い。怖すぎます。
トゲマンボンは休むことなくトゲを撃ってきます。すべてのトゲを人形様が防いでくださいます。こそこそ隠れるしかない私は本当に情けないです。
人形様はゆっくりとトゲマンボンに近づき、拳を振るわれました。トゲマンボンをたった1発のパンチでやっつけてしまいました! 私はなんとも言えず安心しました。
人形様の目の前に泳いでいきます。緊張します。緊張で体が震えてしまいます。こんな時は深呼吸です。大きくスーハースーハーと呼吸を繰り返して自分自身を落ち着かせるのです!
私は意を決してモジャモージャの魔法を解除し、身にまとっていた海藻を脱ぎ去ります! 海藻が辺り一面に広がりました。
あぁ!!? 人形様が海藻に埋もれている! ご、ごめんなさい!!
人形様が海藻を払いのけられ、私と視線が合う。人形様の表情は変わることがないからわからない。微動だにされない。私の行動を待ってくれているみたいです。やはり人形様はお優しい。
落ち着け! 落ち着くのです、私。深呼吸をして自分自身を落ち着かせるのです! 最後に両手を広げて大きく息を吸い、手を前にしながらハーっと息を吐き出します。
勇気を振り絞って人形様にお声をかけます!
「い、い、い、いと強きお方。どうか私たちを助けてくだしゃい!」
あぁ・・・・・・、噛んじゃった。