SS第2話 信じられない光景
私は小さな人魚のピンキーといいます。
私たちの国が魚人に攻め込まれたのに、逃げ出した臆病な人魚です。王族なのに情けないです。お母様の魔法モジャモージャで体は海藻に包み込まれています。だれも私を人魚だとは思わないでしょう。海藻につつまれたこの姿がよりいっそう私を惨めにします。
助けを呼ぼうにも国の外に知り合いはいません。そもそもシーサーペントを倒せるような人はいるのでしょうか。おとぎ話に出てくる勇者様達くらいしか倒したことがあるとは聞いたことがありません。
考えた末に私は海の交差路を目指すことにしました。今の世界に勇者様がいるのかはわかりませんが、人間に話を聞いてみるしかないと思ったのです。どうやって人間が海の中で戦うのかまでは考えが及びません。ただただ必死だったのです。
国の外は危険がいっぱいです。大きなサメ、毒イソギンチャク、大王イカ。時折シーサーペントも通り過ぎます。怖いです。
モジャモージャの魔法は、私の意思で解除しない限りずっと海藻に身を包まれます。認識阻害の効果もあります。びくびくとおびえながら私は海の中を進みました。
キラッと何かが光りました。金属に光が反射したようです。包丁か何かが落ちているのでしょうか。近づいてみると人形です。キラキラとしています。きれいです。まっすぐに歩いています。あちらは暗き海と呼ばれる世界でもっとも深い海がある方向です。迷いない歩みを見ると何か目的があって暗き海に向かっているのかもしれません。
そんな時に私の上を影が横切りました。声が出そうになるのを必死に抑えながら、見上げるとシーサーペントでした。魚人達と一緒にいたシーサーペントよりも大きいです。
シーサーペントは人形に近づきます。そういえばシーサーペントは竜の一種で、キラキラ光るモノを集める習性があると聞いたことがあります。
シーサーペントが人形に襲いかかりました。水のブレスを人形にぶつけます。私にはどうしようもありません。ただ人形がやられるのを黙って見ているしかありません・・・・・・。
ブレスが終わり、巻き上がった砂が落ち着いてくると、そこには変わらぬ姿の人形がありました。傷ひとつついていません! 私は目の前の光景が信じられませんでした。
シーサーペントも傷一つない人形に気づいたのか、今度はかみつこうと大きな口開けて人形に襲いかかります。人形は水の中なのに素早い動きでシーサーペントの顔の前まで移動すると、パンチを繰り出したようでした。私には殴った瞬間は見えませんでした。ただ殴った後のような姿勢の人形と吹き飛んだシーサーペントがいたので、きっと人形が殴ったのだろうと思ったのです。
シーサーペントはふらふらになりながら逃げています。海のギャングとも呼ばれるシーサーペントがです! 信じられません!
人形は後を追うでもなくシーサーペントが逃げていく姿をじっと見つめています。その不動の姿はまるで王者のようで、私はその姿から目が離せませんでした。