SS第1話 小さな人魚ピンキー
私は小さな人魚のピンキーといいます。
ピンク色の髪の毛が私の名前の由来だそうです。安直です。ちなみに私はこの国の3番目の王女です。
私たち人魚の国は平和で美しい国です。陸からは結構近いのですが、人間達が入ってこれないように結界で守られています。
人間達は私たちを見つけると捕まえようとしてくるので、陸にはあまり近づきません。ただし、人間達は私たちにはない金属を加工する技術を持っています。
切れ味のいい包丁やナイフは人間との交易でしか手に入れることができません。私は行ったことがないですが、海の交差路というところで人間と人魚の交易がされているそうです。
そんな平和な私たちの国に突然魚人が現れました。
魚人とは私たち人魚とは逆で、魚の上半身に人間の下半身を持つ者達です。魚の上半身には手もあり私たちと同じように道具を使うことができます。
私たちは魚人とあまり交流を持っていません。昔は人魚と魚人は同じ国に住んでいたそうなのですが、大きな諍いがあり、人魚と魚人は別々の国を持つことになったと聞いたことがあります。
別々の国に住むようになってからは、お互いに不干渉を決め込んでいたのにどういうことなのでしょうか。
魚人達は海のギャングとも言われるシーサーペントを3匹も従えた上に、300名ほどの兵士で私たちの国を包囲しました。
1匹でも手に負えないシーサーペントです。どうやって従えているのでしょうか。怖くて震えが止まりません。
私たち人魚も負けずに戦いましたが、シーサーペントのブレスの前に隊列を乱され、一気に国の中まで攻め込まれてしまいました。
人魚の国の女王であるお母様から呼ばれました。私だけでも逃げなさいとのことです。でも、王族である私が逃げるわけにはいきません! 私は決して首を縦にはしませんでした。
そしてついに王宮の中にまで魚人たちが攻め込んできます。国民達も避難しているここにまで攻め込まれてしまっては降参するしかありません。
お母様がもう一度私にいいました。
「あなただけでも逃げなさい」
そうしている間にも怒号や悲鳴が聞こえてきます。怖いです。逃げたいです。怖がっている私にさらにお母様はいいます。
「ただ逃げるんじゃないの。あなたには助けを呼んできてほしいの。これはあなたにしかできないことよ」
お母様は私が逃げるための言い訳を与えてくれました。ただ逃げるだけじゃないんだ。助けを呼ぶためなんだという言い訳を。
助けを呼ぶといっても、シーサーペントたちを倒せるような人がいるわけがありません。そんなこと私だって知っています。
知ってはいるんですが、私は怖さに勝つことは出来ませんでした。コクっとうなずくとお母様が魔法をかけてくれます。
「モジャモージャ!」
私の体を海藻が覆います。身を隠すための上級魔法モジャモージャ。この魔法を使えるのは現在ではお母様だけです。怒号が近づいてきます。
「さぁ、早く!」
臆病な私はお母様の声を聞きながら、隠し通路に入ります。涙が止まりません。泣きながら私は人魚の国を後にしたのです。




