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第127話 赤き獅子

 我はゴーレムなり。


 今回はハクの希望で我はあくまでもサポートに徹することにした。


「私の力でどこまでできるかやってみたいんです」


 ハクが我の目を見て力強く言ってきたのだ。そこまでいうならば、ハクを信じて見守るのが我の役目であろう。


 ハクはルーフたちと一緒にどのように襲撃するかを話し合っている。我はその様子を見てうむうむと頷く。我の出る幕はないな。


 我はその間にイチロウとジロウの群れの犬たちに芸を仕込む。我はあまり時間をかけずに、基本のお手、おかわり、伏せを覚えさせることができた。


 ふっふっふ。我の手にかかればこの程度造作もないぜ。



 ◆



 我らは襲撃の日に合わせて、赤き獅子が建設させているという天にも届かんとする巨大な塔が見える場所へと移動する。


 あれは塔と言うよりも、ピラミッドだな。大きな石をドンドンと積み上げているのだ。まぁ、ピラミッドなんていう言い方はこの世界にはないのかもしれぬ。


 天にも届かんとするというくらいだから、あれを土台にしてその上にさらなる塔を建てるのかもしれんな。なんにせよ、巨大な建造物なのだ。


 我らは赤き獅子が訪れる日を静かに待つのだった。



 ◆



 とうとう赤き獅子が姿を現した。


 赤き獅子と呼ばれる獣人は、堂々たる体躯に赤いたてがみをたなびかせている。赤き獅子は巨大なオスのライオンにまたがって進んでいる。あのライオンは何を食べたらあんなに大きくなるのだろうか。


 赤き獅子に従うように揃いの赤い鎧を身につけた獣人達が歩いて行く。結構な数がいるのだ。


 これはハク達やイチロウ、ジロウ達が危なくなったら、我がかっこよく助けねばならんぞ。我なら出来る。ラインライトマスターの我なら、軍団相手でも戦えるのだ!



 ◆



 なんか違うのだ。我の思っていたのとはなんか違うぞ。


 もっと乱戦になって、敵味方入り乱れて戦うのかと思っていたのだけど。獣人達は、どうどうと名乗りをあげて、一人ずつ戦っているのだ。


 あれ、こういう戦い方なの?


 これなら赤き獅子が視察にくる日じゃなくても良かったのではないだろうか。


 いや、考えるな。きっと今日だからこそ、このような戦い方なのだ!


 

 ルーフ達が赤き獅子の側近の戦士たちに1対1で戦いを挑む。こちらが勝つこともあるが、負けることもある。一進一退の攻防だ。だが、敵の数の方が多いので、自然とルーフ達が追い詰められていくことになる。


 我はイチロウ、ジロウ達とともに、がんばれ、がんばれと応援している。ここまでの戦いで我が手出しするような状況には追い込まれていないのだ。まぁ、このような戦い方であれば、我が手出しをするのはちょっと違うと思うので、特に何もしないで終わりそうだ。


 塔を建設するために働かされていた獣人達もその手を休めて、遠くからこの戦いを見ている。働きを監視している兵士たちもそれを咎めていないので、獣人というのはこういうものなのだろう。



 ああ!?


 我が周りを見ている間にルーフが負けたぞ。やっぱり、オーク程度に手こずっていたから、ルーフはそんなに強くないみたいだ。


 とうとうルーフ達が全員負けてしまったのだ。おっ、ハクが前に進み出た。とうとうハクの出番みたいだ!


 我は『がんばれ!』と応援する。最近、ないわーポーチにこもりきりだったジスポとイパアードも、ポーチから顔を出してハクを応援しているのだ!


 ハクよ、おぬしは一人ではないのだ! 赤き獅子たちをぶっ飛ばせ! 我は一人でシャドーボクシングのように拳を繰り出しながら、ハクの応援をする。



 ◆



 ふっふっふ。やはり、我が鍛えているだけあって、ハクは強いのだ。我との厳しい特訓は伊達ではないのだよ。名コーチゴーレムの熱血指導は伊達ではないのだ!


 すでに10人の赤き獅子の取り巻きを相手に勝ち抜いている。ハクにはまだまだ余裕がある。体力的にも余裕シャクシャクなのだ。


 塔を建設させられていた獣人たちのザワメキが聞こえてくる。


「あれは、まさか。4番目の」

「赤き獅子が処刑したって言ってたじゃないか」

「いえ、間違いないわ。あの白い髪に尻尾は私たちの子よ」

「あいつがあんなに戦えるなんて、何があったんだ」


 ん? 私たちの子って声が聞こえたぞ?


 我は声のしたあたりにいる獣人達を見るが、よくわからぬ。ハクのように白い髪をした獣人はいないのである。みんな黒髪に黒い尻尾なのだ。


 我の聞き間違いかな。我のゴーレムイヤーの調子が悪いのだろうか?


{ログ:ゴーレムイヤーというスキルはありません}


 おぅ。別に使おうとしたわけじゃないのに。世界の声の突っ込みが早くなっている気がするのだ。


 おっと、とうとう赤き獅子がでかいライオンから降りて、ハクの前に進んで来るようだ。よそ見をしている場合じゃないぞ!



 ◆



 赤き獅子と呼ばれる赤いたてがみの獣人がハクの前へと進み出る。でかいライオンはぐるるとうなりながら、後ろで待機している。


「小娘、なかなかやるようだな。どうだ、オレの部下にならんか? お前の力は惜しい。手加減できずに殺してしまってはもったいないからな」


 赤き獅子がハクを部下に勧誘しているのだ。これはよくあるラスボスのセリフだ。まさか、本当に言ってくるやつがいるなんて!?


 我は、お約束は本当にあるんだと思い、ぎゅっと拳を握りしめる。


「お断りします。私は昔の私ではないから。あなたに魔法をかけられて飛ばされてしまった、あの頃の私じゃない!」


 その言葉に赤き獅子は眉をひそめる。


「魔法をかけられて飛ばされてしまっただと?」


 ハクは右目を覆っていた眼帯をとって、赤き瞳でまっすぐに赤き獅子を見つめる。その目に見つめられて、赤き獅子は驚愕の表情を浮かべた。


「なっ!? その目、この能力、お前はあの時の小娘か!!」


 赤き獅子はハクに向かって大きく吠えた。我の知らぬエピソードを軸に二人の間でのやりとりが進んでいくので、どういうことなのだと我はハクと赤き獅子に交互に視線を送る。


 誰か!? 誰か解説をして欲しいのだ!


「そうか、貴様はあの時の小娘であったか。ならばお前は生かしておくことはできん。死ぬが良い!!」


 赤き獅子は、そう叫ぶなり、羽織っていたマントをバッと投げ捨てた。ブワッと広がるマントを見て、我は衝撃を受ける。


 か、かっこいい!!


 マントを投げ捨てるだけで、ちょっとかっこいいじゃないか! 我も今度マントを買おうと決意する。ないわーポーチからノートを取り出し、マントを買うとメモをした。


 ノートをないわーポーチにしまい、ハクと赤き獅子の戦いに目を向ける。


 どうやら、赤き獅子は拳士のようだ。赤く燃えるような爪状の武器を両手に装備して、ハクを攻め立てている。そして、拳士でありながら、魔法も使えるらしい。ハクが赤き獅子の拳を躱して距離をとっても、魔法で遠距離攻撃を繰り出している。


 赤き獅子は、獣の大陸を支配しているというその力は伊達ではないらしい。我はぎゅっと両手の拳を握りしめて二人の戦いにじっと視線を向ける。


 赤き獅子はその巨体に似合わぬ素早い動きでハクを攻める。ハクも2本の剣を使い、赤き獅子に攻撃を繰り出す。二人の戦いは一進一退の攻防を見せていた。



 ◆



 ハクと赤き獅子の戦いは徐々に勝敗が見え始めた。レガリアを有しているハクに、赤き獅子の攻撃がほとんど届いていないのだ。持ってて良かったレガリアだね!


 ハクの斬撃が赤き獅子の手足を少しずつ傷つけていく。最初は赤き獅子の傷も自己治癒していたが、今は流れる血が止まっていないのだ。


 これはハクの勝ちだね! 我は無意識にハクの勝ちだと判断し、両手の拳から力を抜く。


 ハッ!!?


 いかん。勝ちだと思うのは逆転負けフラグにつながってしまうのだ! 我は力を抜いた手に再び力を入れ直して、二人の戦いをじっと見つめるのであった。


 赤き獅子が地面に向かって魔法を放つ。辺りが土煙に包まれてしまった。その隙に赤き獅子はハクと距離をとって、魔法の詠唱に入った。赤き獅子の足下に魔法陣が浮かび上がる。


 何が起こるというのだ!?


 ハクは風の精霊魔法で土煙を吹き飛ばし、赤き獅子に向かって走り寄る。赤き獅子の魔法が発動する前に、ハクの攻撃が先に届くぞと思った時に、今までだまって見ていた巨大なライオンがハクに向かって飛びかかろうと前に出てきた。


 ハクは巨大なライオンの攻撃を横に転がりながら躱す。その間に赤き獅子の足下の魔法陣は輝きを強めていく。


 これはまずいのである。レガリアがあるから大丈夫だろうけど、あっちがライオンをけしかけるのなら、こっちも我がちょっと手助けするのだ!


 我はダッと赤き獅子に近づき、背後から赤き獅子の頭を狙ってパシッと叩いた。



{ログ:ゴーレムは赤き獅子に200のダメージを与えた}


 ふっ、他愛ない。我が倒れていく赤き獅子に視線をむけると、赤く立派なたてがみが宙を舞っていた。


 えっ!!?


 あ、赤き獅子の立派な赤いたてがみが飛んでいっているのだ!? えええ!? 息絶えたってログが聞こえなかったけど、殺しちゃった!?


 うっそ!? まじで!?


 いやいやいや。ないない。世界の声も息絶えたって言っていないよ!


 な、なんてこった! やっちゃった!? 我がやっちゃったのか!?



{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}


 ハクに攻めかかっていた巨大なライオンも、ハクも、周りにいる獣人達も全員の動きが止まり、歓声も止んでしまった。


 ま、まずい。非常にまずいのである。


 我は急いでと赤き獅子の頭のところへ向かう。今ならば、まだすごい傷薬で復活出来るやもしれぬというかすかな望みにかけて。


 我は赤い獅子の頭に近づく。あれ、でもおかしいのだ。ペちゃってなっているのである。


 我がおそるおそる赤いたてがみを持ち上げると、そこには頭がなかった。どういうことだろうか?


 我はたてがみを持ち上げつつ、赤き獅子の胴体の方に視線を向ける。すると、ちぎれて飛んだと思った頭が胴体とつながっているではないか!!!


 ど、どういうことなのだ!?


 我はおそるおそる赤き獅子の胴体に近づく。我が手に持っている赤いたてがみときらきらと光る赤き獅子の頭を交互に見る。


 ?


 我は首を傾げてしばし考える。



 ◆



 わかった!


 これはカツラなのだ! 我の頭への攻撃で赤き獅子のカツラが飛んでいったのだな。はー、よかったのだ。あぶないあぶない。殺しちゃったかと思ったよ。


 我がほっとしていると、赤き獅子がうめきながらゆっくりと上半身を起こした。


 巨大なライオンは、ハクに襲いかかるのをやめ、赤き獅子から距離をとっている。ハクが我の方へと近づいてきた。


 赤き獅子は、頭を左右に振りながら、「何が、起こった」と辺りを見回した。我はそっと赤き獅子の前に赤いたてがみのカツラを差し出す。


 赤き獅子は、顔を青ざめさせ、自分の頭に手をやった。つるつるの頭をなでながら、赤き獅子の顔色が青から赤へと変わっていく。


 赤き獅子は我の手から赤いたてがみのかつらを奪い取ると、焦ってつけ始めた。


「お、おのれ! 貴様! オレの秘密を知ったからには生かしておけぬ!」


 真っ赤になった赤き獅子は我に向かって拳を振りかぶってくる。我は甘んじてその拳を受けた。


 ガーンと大きな音を立てて、赤き獅子が手にはめていた爪状の武器が壊れた。力一杯殴ったからか、赤き獅子はかなり痛そうだ。


 我は赤き獅子の肩に手を置き、ふるふると首を振る。そして、あたりを見ろよと、手を周りにかざす。そこにはひそひそとささやきあう獣人達がいた。


「お、おい。赤き獅子様ってカツラだったのか!?」

「いや、そんな。まさか!?」

「でも、たてがみだけが飛んでいったぞ!?」

「信じたくないが、しかし」


 もうみんなにばれちゃったのだ。ごめんねという意思を込めて我は赤き獅子に頭を下げる。


「なっ!!?」という声と共に、赤き獅子はまた顔を青ざめさせた。両手を地面につき、ふるふると身体を震わせている。


「な、なんてことだ。お、俺の秘密が皆にばれてしまった」


 ぽたり、ぽたりと赤き獅子の瞳から涙がこぼれ落ちる。な、なんだろう。我がすごく悪いことをしたみたいな気分になってくる。


 今の我には髪の毛がないけど、たしかに人間だった時は髪の毛の後退に恐れおののいたものだ。


「も、もう終わりだ。俺はもうこの大陸でやっていけない」


 赤き獅子は身体を震わせながら、泣いている。我の横に来たハクが、赤き獅子を見下ろしながら問いかける。


「あ、赤き獅子、私との戦いはどうするの?」


「もう、お前の勝ちでいい。俺にはもう何もない。お前に魔法をかけて飛ばしたのも、この俺の秘密を鑑定されたと思ったからだ。だが、もうみんなにばれてしまった。俺はこの大陸から去ることにする」


「えっ、私に魔法をかけて飛ばしたのは、これが理由だったの? こんなことが理由だったの!?」


 ハクが驚いて声を上げた。赤き獅子はそのハクの言葉にくってかかる!


「こんなことだと!? お前には髪のない苦しみがわからぬのだ! 特に獅子でありながら、若くして髪の毛をなくした苦しみがお前にわかるものか!!」


 ハクが、ええぇと言いながら、一歩あとずさる。我は赤き獅子の言葉にうむうむと頷く。髪は重要だからな。その気持ちはよくわかるのだ。


「天にも届かんとする塔を建てようとしたのも全ては、このたてがみをはずして寝てもいいような場所を作りたかったからだ。だが、もうすべて終わってしまった。もう、俺には何もない」


 な、なんと!?


 そのためだけにこの巨大な建造物を作ろうとしたのか。我は目の前の男のスケールの大きさに圧倒され始めた。コンプレックスを隠すためだけに、この獣の大陸を支配下に治め、さらにしょうもない理由で巨大な建造物を建てようとしたこの男こそ、男の中の男と言えるのではないだろうか。


 無駄なところに力かけ、己の望みを押し通そうとする! これこそが男の姿なのだ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、感激状態が解消しました}



 感激していた我の様子を横に見つつ、ハクが赤き獅子に声をかける。


「それじゃ、生け贄は何のために差し出させていたの? そしてなんで誰一人として帰ってこないの」


 赤き獅子は、もう終わりだとでもいうように、たてがみを頭から外して、地面を見ながら、吐き捨てるようにつぶやいた。


「生け贄か。それは、このたてがみの手入れをさせるために集めた者達だ。オレの秘密を知るからには、自由にすることはできん」


 ハクはその言葉を聞いて、顔をしかめる。


「それじゃなんで私には魔法をかけて飛ばしたの?」


「貴様にはいきなり鑑定されたからしかたがなかろう。その場で叫ばれでもしてみろ。すべてが水の泡になってしまう。オレの装備品にカツラがあるのは、鑑定してわかっただろうが」


 ハクの質問に、赤き獅子はハクに視線を合わせずに答えた。ハクはさらに顔をしかめた。我は、カツラも装備品になるのだなと、ないわーポーチからノートを取り出しメモしておく。


「もう終わりだ」


 赤き獅子はそう言うと、腰の後ろにさしていた短剣を引き抜くと自分の首に突き立てようとした。


 我は、はっとなり、赤き獅子にビンタをくらわせる。


{ログ:ゴーレムは赤き獅子に100のダメージを与えた}



「へぶわっ!?」と声を上げて赤き獅子は横に転がった。我は赤き獅子の近くまで歩み寄り、ハクに我の言葉を赤き獅子に伝えるように頼む。


 赤き獅子が目を回しているので、我はすごい傷薬を赤き獅子の頭にかけて目を覚まさせる。



『赤き獅子よ、カツラがばれた程度で生命を絶とうとは情けないのだ!』


 ハクが、ゴーレムからの言葉よと断って、赤き獅子に言葉を伝える。


「赤き獅子よ、カツラがばれた程度で生命を絶とうとは情けない!」


 赤き獅子はうつむいている。


『髪の毛があろうとなかろうと、お前はお前ではないか! 何を恥じ入るというのだ!』


 赤き獅子はぐっと地面に爪を立てる。


「お前に、お前のような人形にオレの苦しみがわかるものか!」


 赤き獅子は地面から土を掴んで我の方へと投げかけてきた。その様子にハクは顔色を変え、赤き獅子のこめかみにトウキックをくらわした。


 ちょ、ハクさんや!! いったい何を!?


「ぐへ」と叫びながら、赤き獅子が横に吹き飛ぶ。我が赤き獅子に近づくとまた赤き獅子は目を回していた。我の手持ちのすごい傷薬がなくなっていたので、ハクから一本受け取り赤き獅子の頭に再度かけた。


 赤き獅子は頭に手をやりながら、身体を起こす。我はハクに、我のお話中は手も足もださないように注意して、再度、赤き獅子に向かって話を始めた。


『たしかに、お前の苦しみは我にはわからぬ。だが、それはお前自身が背負っていくしかないのだよ』


 我は赤き獅子の目をじっと見つめながら、やさしく声をかける。赤き獅子は我の目をじっと見つめ、しばらくすると口を開こうとした。


「ふん、口先だけならなん、と……」


 赤き獅子は、途中でしゃべるのをやめ、その表情がないわーっていう顔つきになる。なんだろう? 我は赤き獅子の視線の先を見る。


 !!?


 なんと赤き獅子は我のないわーポーチを見ているじゃないか! 我はイラッとして、赤き獅子の顔にビンタをくらわす!


「ぐはぁ」と叫びながら、再度赤き獅子が転がっていった。


 はっ!!? しまった。ついつい手が出てしまったのだ。ハクからの視線がちょっと痛いのである。我はハクと視線を合わせるのが気まずかったので、今度はすごいよくなーるをないわーポーチから取り出して、赤き獅子の頭にかけた。


 赤き獅子はふらふらになりながらも身体を起こした。そして、我のポーチに目をやりつつ、問いかけてくる。


「そのポーチは外せないのか?」


 我はこくりと頷く。赤き獅子は、目に哀れみを浮かべて我の方を見てくる。そして、静かに口を開いた。


「すまなかった。苦しいのはオレだけじゃないのだな」


 なんだろう。我のないわーポーチは、こやつの中ではハゲと並び立つくらいの苦しみになるのか? 我はちょっとイラッとしつつも、グッとこらえる。我は【悟りしモノ】なり! こんな事では心を乱されないのだ!


『わかってくれたか、赤き獅子よ』


 我はそう言って赤き獅子に右手を差し出す。


「あぁ、オレが間違っていたようだ」


 赤き獅子も、目に涙を浮かべながら我の右手を掴んでくる。赤き獅子の瞳は穏やかに我を見つめてくる。すると世界の声が我の頭に響いてきた。



{ログ:条件が満たされました。称号【信仰されしモノ】の効果が発動}

{スキル【救済】により苦しむ者に救いが与えられます}


 すると我の身体と赤き獅子の頭が光り輝き始める。その光景に横にいたハクはもちろん、赤き獅子も驚いて目を見開いている。


 な、何が起ころうというのだ!?


 すると我の目の前では信じられない奇跡が起こりはじめた。赤き獅子の輝いていた頭が、うっすらと赤くなっていく。その赤は徐々に伸び始め、1センチメートルほどまで長くなった。


 こ、これは一体!?


 我が左手で赤き獅子の頭を指さすと、赤き獅子は首を傾げながら、左手で頭をなでた。


「そ、そんな。まさか!?」


 赤き獅子は驚き、両手で頭をなで繰り回している。きゅっきゅと頭の髪の毛を引っ張っているが、その髪の毛は抜ける様子はない。赤き獅子は両手で顔を覆った。


「ぐ、ぐぅおおおおおおおおおおお」


 それは、赤き獅子が今までの苦しみを吐き出すかのように長く長く続いたのだった。


 我はその様子を、苦しかったんだなと頷きながら見守った。

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