第122話 本戦開始
我はゴーレムなり。
組み合わせのくじ引きも終わったところで、屋台で買った食べ物がすべてなくなったので買いに行くことにした。
ジスポは前より動くようになったからか、前より食べるようになったのだ。
「ゴーレム殿、どこに行くんだ? もうじき1試合目が始まるぞ」
がたいのいい男が尋ねてきたので、我はノートにメッセージを書く。
<食べ物と飲み物を買ってくる>
<ハクの試合までには帰ってくる>
「はやく試合が終わることもあるから、早めに戻ってきた方がいいぞ」
我はこくりとうなずき、食べ物の買い出しに行った。今度はすぐになくならないように少し多めに買うのだ。
◆
我が買い出しから戻ってくると、すでにハクの試合が始まっていた。なんと!? そんなに時間を無駄にはしていないのに。
1試合目はどうなったのだ?
「1試合目はゴイチが、闇の魔法で相手の精神を揺さぶってすぐに終わったぞ。本戦に出てくるだけあって、なかなかの使い手だよ。あのダークエルフは」
おお、ダークエルフが勝ったのか。まぁ、今はハクを応援しよう!
鳥人族の勇者ロメンは石で出来たリングの上を飛び、上空から攻撃を仕掛けている。槍を振ると槍からトゲトゲが飛び出している。ハクはその攻撃を華麗に回避している。当たらなければどうということはないね。うんうん。
それにしても、上空からの一方的な攻撃か。あれはなかなかやっかいそうなのだ。ハクも風の精霊魔法で攻撃を仕掛けているが、ロメンがすばやくかわしていく。
鳥人族の勇者というのは伊達ではないらしい。
しばらく同じような攻防が続いたところ、ロメンが槍を構えて動きを止めた。なんだろう。なんで止まる?
おや、ロメンの槍がうっすらと光り出したのだ、これは力を溜めているのだろうか? ハクの風の精霊魔法なら回避できると考えたのかもしれないが、それは悪手なのだ。
リングの上には風の精霊達が集まって、1グループに10体ほどの精霊がスクラムを組んでいる。ハクが風の精霊に頷くと、風の精霊達が「いくぞぉ!」と叫び、上空へと飛び上がっていった。全部で30近くの風の精霊のグループがリング上空のバラバラの位置に飛び上がった。
力が溜まったのかロメンが攻撃を繰り出した時に、ハクはジャンプしてかわす。ロメンは追撃するために空中にいるハクに向かって槍を振るう。通常ならば、攻撃を食らうところだが、ハクが向かった先には風の精霊達がスクラムを組んでいるのだ。
風の精霊達が「せいや!」と叫び、一瞬空気の壁を作る。その壁を足場にハクが空中でさらにジャンプした。
あの技かっこいいのだよ。我もマネしてやってみようとしたのだけど、空気の壁を突き破ってしまって、「ゴーレムとはもうできない」と風の精霊に断られてしまったのだ。
ジャンプする時の力加減が難しいのだよね。
そのままハクは風の精霊達による空気の壁を利用して、ロメンの高さまで駆け上り、斬撃を繰り出す。ロメンは槍で防御をするが、ハクの魔法の剣から飛び出した魔力の斬撃がロメンを襲う。
ハクはそのままロメンの身体を蹴り、風の精霊達の方へと跳躍する。その後は一方的な展開だった。
空中を縦横無尽に飛び回るハクの攻撃に対処できずにロメンが傷だらけになり、最後に真上からハクのかかと落としをモロに頭にくらってリングに叩き付けられた。
ハクがロメンの首筋に剣をつきつけたところでロメンが降参した。
我とジスポにイパアードはハクの勝利に大きな声で声援を送る! まぁ、我の声はハクとジスポくらいにしか聞こえないんだけどね。
がたいのいい男は驚いているが、我と特訓しているのだ。あの程度で驚いてもらっては困るのである!
◆
第3試合は、スマカットが勝った。キカも強いのだろうが、7つ星が近い6つ星冒険者は伊達ではないのである。特にすごいと思う場面もなく終わった。やはり、拳と剣では剣を持っている方が有利だね。我くらいの実力がないと素手での戦いは難しいのだ。
第4試合はナナバが、リング上に巨大な水を発生させて、水の中で動きが鈍ったモンレを一方的にボコった。特に魔法を使った様子はないので、魔道具を使ったのかもしれない。しかし、あの水の中に引きずりこまれたらやっかいだな。我は水の中でも余裕だけど、ハクは少し前まで泳げなかったので厳しいかもね。
第5試合はリーチェの不戦勝。カミンは結局現れなかったのだ。やはり消滅してしまったのだろう。我はむやみに祈ってはならんな。
第6試合はイキュウが勝った。パンイの突撃を両手を盾にして受け止めて、そのまま両手でパンイの身体を掴み、リングに叩き付けた。潰れたカエルのように内臓を吐き出すことはなかったが、パンイは立ち上がることができず、そのまま試合終了となった。
回復魔法をかけられたパンイは自分の足でリングを降りていった。
第7試合は、我の天敵ドワーフのゴリンと剣の達人イスカの試合だったのだ。良い試合になるのかと思ったが、イスカがゴリンをハンマーごと真っ二つにした。
なんと恐るべき切れ味なのだろう。ゴリンは真っ二つになってしまったので即死だ。観客達もその様子に息を呑んでいる。本戦で初めての死亡者になってしまった。
あっ、カミンがいるから二人目なのだ。
第8試合は、魔法合戦だった。モスモもシーナも上級魔法を使う派手な試合になった。我はラインライトしか使えないので、いろいろな魔法を使える彼らが少しうらやましい。やはり精霊達と協力して、ラインライトっぽくない使い方も模索していかねばならんな。
ちなみに8試合目の勝者はモスモ。モスモが魔力量の差で最後は押し切った。
今日の試合はこれで終わりかと思ったら、2回戦も今日行うらしい。なんともハードなことなのだ。
◆
2回戦第1試合はハクとゴイチの試合だ。ゴイチは闇の精霊魔法でハクに精神攻撃を仕掛けていたのだと思う。「なぜ効かない!?」とゴイチが焦ってたしね。そりゃ、レガリアを装備しているから、精神攻撃もハクには効かないはずなのだ。
ハクが首を傾げながら、すたすたと歩いてゴイチに近づいていき、剣の腹で首筋を打って気絶させた。なんとも内容としては盛り上がらぬ試合であった。
なにはともあれ、ハクの勝利に我らは歓声を送る!
2回戦第2試合はスマカットとナナバ。ナナバが試合開始と共にリング上に水を発生させたが、1回戦でそれを目にしていたスマカットは大きく上空へとジャンプした。
その後どうするのだろうと見ていたら、なんとスマカットは水の上に立ったではないか!
立った! スマカットが立った! 水面に立っちゃったよ!
すごい!! 水面に立てるのかよ! なんだそりゃ!!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
我も右足が沈む前に、左足を前に出せばいけると思って、海で挑戦したけど無理だったのだ。それを可能にするとはおそるべしスマカット。
多分、魔法の力なのだろうけど、すごいのだ!
その後は、スマカットが剣に魔力を溜め、水の中にいるナナバを攻撃した。ナナバは回避したけど、水は切り裂かれ、ざばぁっと流れてしまった。その後はスマカットの猛攻でナナバが降参した。
やっぱり、魚人は水の中にいてこそ本領を発揮できるのだね。
2回戦第3試合はリーチェとイキュウの試合だった。クワ使いの農家リーチェはどんな戦いをするのだろう。リーチェがクワを振りかぶり、イキュウに向けて振り下ろす。腰の入った良い一撃なのだ。
伊達に農家はしてないぜって感じだ。クワがイキュウの肩に食い込む。リーチェが追撃をかけるためにクワを振り上げようとしたが、イキュウが筋肉に力を入れて、クワを抜けないようにした。
そのままイキュウがリーチェに向かって拳を振るう。リーチェはクワを離して遠ざかる。
さぁ、どうする農家!
イキュウがクワを抜き取り、クワの柄をバキッと力任せに折った。クワを投げ捨てたイキュウがリーチェに襲いかかる。その様子にリーチェは驚愕の表情を浮かべ、「まいった!」と大声で叫んだ。
お、終わってしまったのだ。どうやら、クワがあってこその農家だったらしい。リーチェは観客に向かってお辞儀をし、リングを後にした。
本日最後の試合。2回戦第4試合はイスカとモスモの試合だ。
剣士と魔法使い、いや、賢者の試合だ。どんな戦いになるのだろうか。我はワクワクするぞ! モスモが開始早々イスカに向かって上級魔法を放つ。
イスカが魔法を避けるのかと思ったら、なんと剣で上級魔法を切ったのだ! そんな事ができるのかよと思ったが、出来るらしい。伊達にまがまがしい大剣ではないみたいだ。
イスカがその場で剣を振るった。モスモと距離が離れているのに、なぜと疑問に思ったが、剣から先ほどモスモが放った上級魔法が飛び出してきた。威力はモスモが放った魔法と同じか、少しよわいくらいだろう。
モスモも驚愕しつつ、新たな上級魔法を放って相殺する。
その後は、イスカがモスモに近づこうとすれば、モスモが魔法を放ちながら距離をとるという戦いが続いた。しばらく、同じような展開が続いた後、イスカが剣を構えたままモスモに突っ込む。
モスモが何発も上級魔法を放つがイスカは止まらない。上級魔法が直撃して傷を負っているのに、あれは人間なのだろうか。勢いをそのままにイスカがモスモに大剣を突き刺した。
胸を貫かれたモスモはそのまま死んでしまった。会場がざわついている。
我が黙って会場の様子を見回していたので、がたいのいい男が察して説明してくれた。死亡したら負けというルールはあるが、実際に選手が死ぬことは滅多にないらしい。それが立て続けに2度起きたのだから、観客も戸惑っているのだろうと言っていた。
リングを去って行くイスカは心なしか傷が癒えているように見える。
うーむ、あの男は要注意なのだ。