第121話 選手紹介とくじ引き
我はゴーレムなり。
ファルコンコンでの武闘大会の本戦が始まったのだ。どうやら本戦はトーナメント形式で行われるらしい。だれと当たるかはこれからくじ引きで決められるみたいだ。運も実力のうちと言うことかな。
「小さな身体に巨大なハンマーを扱う怪力ドワーフ、ゴリン!」
大会の運営委員が選手を紹介すると、紹介された選手がリングの中央に進む。そして、くじを引くみたいだ。
最初はドワーフだ。我が天敵とも呼べる、恐るべき種族ドワーフ。あやつにははちあわぬように気を付けよう。身体の倍以上もあるような巨大なハンマーをよく扱えるのだ。
「次は我がファルコンコンが誇る勇者ロメン! 前大会の優勝者です! 今年もロメンが優勝をするのか!」
おわ! すごい歓声なのだ。ロメン様っていう黄色い声もかなり飛び交っている。さすがはホームといえるのではないだろうか。
リング中央に進む鳥人のロメンは結構大きい。ワシ? イーグル? あっ、ワシとイーグルは一緒なのだ! トゲトゲした長い槍を持っているね。
「上級魔法を連発できる驚異の魔法使いシーナ! 今大会では女性で2人だけ本戦出場を果たしたうちのひとりです!」
多分、人族だと思う。ローブを着ている魔法使い。魔女っこといえるほど若くない、三十路くらいの女性なのだ。
「7つ星目前の6つ星冒険者のスマカット・ブオ・サンアレキドリア! 普段は4人で活動している冒険者ギルドのエースとも言える存在です! 勇者ロメンの前に立ち塞がるのはこの男か!?」
おや? あれは迷宮都市で会った6つ星冒険者のリーダーっぽい男ではないか。へぇ。スマカットって名前なんだ。知らなかった。というか、名前が長いのだ。
「ちゅ、ちゅちゅちゅ!?」
(あっ、あれは前に親分に勝負をしかけた愚か者ですか!?)
むしゃむしゃと屋台で買った食べ物を食べていたジスポも、冒険者に気づいたようだ。我はうむと頷く。
それにしてもエースか。彼らがエースなら、我はなんと呼ばれるなのだろう。我はノートを取り出して、横にいるがたいのいい男へ質問を書く。
<彼らが冒険者ギルドのエースなら、我はギルドの何になるのだろう>
「そりゃ、ゴーレム殿は、ギルドのキケ、いや、切り札だよ! 切り札だから、ゴーレム殿はどっしり構えておいてくれ」
ほほぅ。我は切り札か。なかなか良いではないか! 我はいそいそとメッセージを書く。
<困った事があれば呼んでくれ!>
<我はいつでも力を貸すよ!>
「あ、ああ。何かあった時は頼むよ」
我はうむと頷く。我のメッセージを見たがたいのいい男は、我のあまりの気前のよさに驚いたようなのだ。
「奴隷から剣の腕のみで自由を勝ち取った剣の達人、イスカ! 巨大な大剣で相手に反撃を許しません!」
うお、なんてまがまがしい大剣なのだ!? あの大剣を自由自在に扱えるというのか、すごいな。まぁ、我もないわーポーチを自由自在に扱っているから負けていないけどね。外せないという最大の欠点があるが、それ以外は自由自在なのだ。
「巨人族のイキュウ! 脅威の回復力を有しているこの男を倒しきれる者はいるのでしょうか!」
デカい。5メートルほどあるのではないか。身体の色は褐色だ。巨人というと緑のイメージがあったんだけど、映画の影響かな。
「次は今大会最年少にして、女性で本戦出場した2人の内の1人、白き獣人の少女ハク! 圧倒的な素早さで予選を無傷で勝ち上がりました!」
おお! ハクなのだ! おっ、4番を引いたみたいなのだ。3番は誰だろう、ロメンだ。初戦は鳥人との戦いか。優勝候補らしいけど、ハクなら勝てるはずなのだ。
「蜥蜴人族の格闘家、すばやい動きと強烈な打撃で相手を一方的にボコッた恐るべき戦士、キカ!」
へぇ、蜥蜴人族か。リザードマンだね。我がやっていたゲームに出てくる敵キャラにも似たようなのがいたのだ。3体も仲間になったしね。
どうやら、スマカットと戦うようだ。
「闇の精霊魔法に長けたダークエルフ、ゴイチ!」
おお、ダークエルフ。イパアードのようにエルフだった者がダークサイドに落ちたのだろうか。それとも生まれつきなのかな。
「陸に上がっても脅威の強さを発揮している魚人の兵士、ナナバ! 予選では水魔法で相手の動きを封じて勝ち上がってきました」
魚人なのだ。へぇ、魚人は陸上でも活動できるのだね。水中でしか呼吸ができないのかと思ってたよ。
「私は初めて見ました。殺しても死なない脅威の種族、不死族のカミン! まるでアンデッドのようなその姿に驚きを隠せません! 死に場所を探して旅をしているという変わった男です。今大会の優勝賞品で死んでやると意気込んでいました」
えっ!!? あれってガイコツじゃん! アンデッドのような姿って、あれはアンデッドだろ!?
ええええ!!?
あれが出場できるなら、我も出場してよかったのではないか!?
<あれはいいのか!?>
「あ、ああ。まぁ、不死族は魔物じゃないからな」
なんとも答えにくそうにがたいのいい男が答えてくれる。魔物じゃないって本当か? まぁ、この男は大会の運営委員じゃないから、どうにもできないのだろうけど。
不死族か。アンデッドじゃないなら、祈りは通じぬはずなのだ。試してみようかな。我は両手を合わせ、カミンに祈りを捧げてみる。
{ログ:ゴーレムは不死族のカミンに400のダメージを与えた}
{ログ:不死族のカミンは塵となり天に昇っていった}
あっ。効いたのだ。
「えっ!? えええええええ!! な、なんと突如カミン選手が光に包まれ消えてしまいました!? な、何が起こったのでしょうか!? 少々お待ちください!!!」
大会の運営委員が驚き、騒いでいる。リング状にいるハク以外の選手達も、騒いでいるのだ。
ま、まずい。えらいことになってしまった。カミンを殺してしまったのだ。
どうしよう。我はドキドキしつつ、隣のがたいのいい男をチラ見する。男は目を見開いて驚いているのだ。ここは、ばれないように我も驚いたフリをしよう。我は両手を上に上げて、なんてこったというジェスチャーをする。
会場のざわめきがなかなか収まらない。ま、まぁ、いきなり選手が消えるとか意味不明だからな。そりゃ、ざわめきが収まらぬよね。我がやっちゃったってばれたりしないだろうか。
ドキドキだ。ちょっとソワソワするよ。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
でもさ、冷静になって考えてみると、カミンは死に場所を探してたっていうし、カナエールを使わずに、願いが叶ったのだから、良かったと思うよ。うむ、我は良いことをしたと思う。
堂々としていよう。
◆
しばらくして大会の運営委員が、「不死族の生態はよくわかっていないので、突然消えることもあるのかもしれません。よって、カミン選手は試合開始までに現れない場合は棄権となります」と発表があった。
不死族だから、再生してくるかもしれないが、世界の声いわく、天に昇っていっただからな。無理だと思うのだ。安らかに眠れと我はカミンの冥福を祈った。
{ログ:ゴーレムは再生中の不死族のカミンに400のダメージを与えた}
{ログ:再生中の不死族のカミンは消滅した}
……。
カミンは再生していたのか。不死族の生命力、おそるべし。ただ、今度は消滅したと聞こえてきたから、本当に死んでしまったのではないだろうか。
ま、まぁ、願い通りに死ねたのだから、カミンも本望なのではなかろうか。我以外に世界の声は聞こえていないはずなので、黙っておこう。
気を取り直して、くじ引きに集中しよう。
「勇者ロメンのライバル、黒き翼の大戦士、ドウブ!」
うむ、あれはカラスだな。カラスとワシではワシの方が強いと思うんだけど、どうなのだろう。ロメンとドウブの戦いを見たいけど、ハクとロメンが1回戦で戦うので無理だろう。
「次も我が鳥人族です! 魔法を使って自身の身体を強化し、全てを貫く槍と化すパンイ!」
あっ、ペンギンだ。あれはどう見てもペンギンなのだ。確かにペンギンも鳥だから、おかしくはない。
「いつからか放浪する大賢者と呼ばれ始めたはぐれ魔人族、モスモ!」
じゃらじゃらといろいろな魔道具を身につけているのだ。見た目は初老だけど、あんなにチャライ恰好で恥ずかしくないのだろうか。
それにしても、16名もいるとくじ引きだけで大変なのだ。予選で8名くらいに絞ってくれればよかったのにね。もう最初の方の選手の名前なんてわからないのだ。
「傭兵団、赤き獣の団長、獣人のモンレ! 剣を使った戦いも得意ですが、その爪と牙も恐るべき威力を秘めております」
立派な髪の毛とヒゲなのだ。あれは多分、ライオンの獣人なんじゃないのかな。
「最後の紹介になります。恐るべきクワの使い手、農家のリーチェです! 今回ははるばる作物を売りに来て、記念に出場したら、見事予選を突破できたそうです!」
麦わら帽子にちょっと小太りのおっさんだ。まさに農家って感じなのだが、よくあれで予選を突破できたな。人は見かけによらぬということか。
最後だからくじを引いても引かなくても同じだろうけど、一応引くのだな。運も実力のうちなのか、リーチェの1回戦の相手は不死族のカミンみたいだ。
これでトーナメント表もできあがり、いよいよ試合が開始される。
途中でハプニングもあったけど、がんばるのだハク!




