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SS第20話 絶望する天界

 私は運命の女神です。

 天界にいる12の神々、聖天十二神の代表をしております。


 1000年ほど前、大魔王が地上を制覇し、天界まで攻めてこようとしていました。その時の天界では大魔王を魔界に退ける力がなかったために、大魔王に1つの交渉を持ちかけました。


 期限は1000年、その間、大魔王は迷宮を作成し迷宮内にこもる。大魔王に挑戦する者達を迷宮に送り込み、大魔王が倒されたり、迷宮を放棄したら、大魔王は地上から手を引くという約束を取り付けました。もしも1000年経っても、大魔王が迷宮を放棄しなければ、天界は大魔王に屈するという条件をつけてようやく成り立ちました。


 最初は地上の者達に力を与えて、大魔王の作った迷宮に挑戦させていましたが、まったく歯が立ちませんでした。天界の者の被害はないため、まだ落ち着いていられます。


 勇者と呼ばれる者を仕立て上げ、大魔王の迷宮に挑戦させましたが、これもまた失敗しました。できるかぎりの力を与え、サポートをしたのですが迷宮の50階で諦めて帰ってきてしまいました。代わりは用意できるので、死ぬまで突き進んで欲しかったのですが、こればかりは仕方ありません。


 やはり、大魔王は強大な力を持っているようです。


 もう迷宮を攻略して大魔王を撤退させるのは難しいでしょう。迷宮を監視していた天使達を他の仕事に割り振ることにしました。


 大魔王は1000年の時間を律儀に守ってくれています。この間に私たち天界では、対大魔王を想定して戦争の準備を着実に進めていくことにしました。



 ◆



 まず地上の力を大魔王に気づかれぬよう少しずつ天界に吸収していきます。そのため、地上では時折、飢饉や災害が発生してしまいました。ごめんなさいね、地上の者達。でも、これも神の与えし、試練のひとつなのです。しっかりと生き抜きなさい。


 天使達には地上へ降りるのを禁止しました。大魔王を刺激しないよう、念の為です。天界に住まう天使の数は3億ほどいます。その3億の天使たちの中には色々な役割があるのです。


 一例を挙げれば、地上で罪を犯した者や天界に反逆しようとする者たちを断罪したり、神罰を与えたりする神の兵たる天使が100万ほどいます。この100万の天使兵に対大魔王を想定した戦闘訓練をするように審判の神にお願いしました。



「まかせておけ、運命の女神。まだまだ時間はある。その間に100万の兵士を鍛え上げ、大魔王を返り討ちにできるようにしてみせよう」


「ええ、お願いします。天界が魔界の者に屈するわけにはいきませんからね」


「ああ、我々は全ての者を正しく導かねばならん。大魔王の行動を認めることなど出来ないからな」


「昔から地上の者に裁きを与えてきた審判の神になら、安心してまかせられます」

 


 私は審判の神に微笑み、その場を後にしました。戦闘面は審判の神に任せておけばいいでしょう。私は神々の会議にはかり、天界の構造自体を作りかえることにしました。


 会議では反対意見も出ず、私の案が承認されました。


 天界を5層に分けます。一番下の層に頑丈な門を設置しました。地上の力を1000年かけて少しずつ吸収し、その力を使って完成させるとても頑丈な門です。これならば大魔王でも、たやすく天界へと攻め込んで来れないでしょう。


 1層目は、天界への門が破壊された場合、ここで大魔王たちを食い止めます。審判の神も自信があるようですし、1層目で全てカタが着くと思います。


 2層目に攻め込まれる場合は圧倒的に不利な状況ですので、その場合は層自体を崩壊させ、大魔王たち魔界の者を滅ぼす予定です。


 3層から上が居住区域になり、3層目は下級天使たち、4層目は上級天使たち、5層目が私たち神々が住まうようにしました。



 ◆



 審判の神が私のところにやってきました。どうやら訓練は順調のようですね。


「運命の女神よ、大魔王がいつせめてこようとも大丈夫だ」


「まぁ、それは素晴らしい! 訓練は順調のようですね」


「ああ。個々の天使の力も大分上がった。そして力を合わせて合体魔法を放つことができるようになった。1万の大天使たちの力を俺が制御し放つことで、想像を絶した破壊を引き起こすことが出来る」


「それを天界で放つのは危険ではなくて」


「安心しろ。天界門の外で放つことができる。地上には大きな被害が出るかもしれんが、天界には被害はない」


「さすがは審判の神ですね。戦闘面に関してはこのままあなたにお任せします」



 ◆



 大魔王と約束した1000年が近づいてきています。しかし、この1000年で大魔王を迎え撃つ準備は整いました。大魔王が約束を守る者でよかったです。


 口約束を信じる甘ちゃんがよく魔界を支配できたと感心します。



 ◆



 1000年の期限がすぎましたが、大魔王が攻めてくることはありませんでした。大魔王が作った迷宮がどうなっているのか確認するように天使に指示をします。するとすぐに、跡形もなく迷宮が消えていたと報告があがってきました。


 いったい何があったのでしょうか?


 こんなことなら、迷宮を監視する天使を残しておけば良かったですね。


 万が一、大魔王が再び天界を目指してきても、すでに撃退できるだけの力を準備できました。これからは再び地上を正しく導いていくことにしましょう。地上は私たち天界の者が管理してこそ、正しい道を歩めるのです。


 地上の力を少しずつ天界に吸収するのは、継続していくことになりました。1000年の間にひずみが生じかけていましたが、なぜか地上に力があふれ、修復されてきています。このまま地上の力を吸収していても問題ないでしょう。地上の力を使えると天界での生活が便利になるのですよ。



 ◆



 地上を監視する役目の審判の神のところが最近慌ただしいです。何かあったのでしょうか?


 念の為、審判の神に確認にいくと、世界を滅ぼそうとした者を断罪している最中だということです。世界を滅ぼそうとしただけの力があるようで、かなり手こずっているみたいですね。


 審判の神の配下の者だけでの対応が難しいようでしたら、天使軍の派遣を会議に提案するように伝えました。



 ◆



 ある日突然、天界に轟音が鳴り響きました。


 何事かと思っていると、なんと天界門に穴が開いたと報告が上がってきました。対大魔王を想定して作った門です。私は信じられず、天界門までおもむくと確かに穴が開いていました。


 一体誰が!?


 審判の神がやってきて謝ってきます。


「すまない。世界を滅ぼそうとした者が攻撃を繰り出してきたそうだ。そのため、天使軍を使おうと思うので、すぐに神々を集めて会議をしたい」


「ええ、これは放ってはおけません。天界への反逆です」


 会議では反対の意見も一部出ましたが、私と審判の神が主導してなんとか天使軍の使用の許可が下りました。ただ100万の全ての兵士を使うのは認められませんでした。


 合体魔法を放てる1万の精鋭を使える許可が下りたので十分でしょう。


「それでは任せましたよ、審判の神」


「任せておけ。地上の者達に天界と神々は健在であると示してやろう。ここで見ておくがよい」



 ◆



 審判の神が1万の天使軍を率いて、1層目の天界門の周辺に展開しました。そして、合体魔法の構築に入ります。


 私たちは5層目からその様子を眺めています。圧倒的なまでの力で、地上の者に神罰を与えるこの時が神であるということ実感できる一番の時ですね。


 すると地上から魔法が飛んで来ました。巨大な光の魔法です! 天界門に直撃しました。穴が開いていますが、天界門を壊すことはできないようです。


 少し驚きましたが、これで終わりでしょう。あれほどの魔法を連発できる訳がありません。


 さぁ、審判の神、天界への攻撃を許しておいては示しがつきません。跡形もなく消し去ってしまいなさい。


 審判の神と精鋭の1万の天使が合体魔法を構築していっています。完成まで時間がかかりそうですが、すばらしい威力がありそうですね。


 なんと再び地上から魔法が飛んで来ました。先ほどと変わらぬほどの巨大な光の魔法です。今度は何発も飛んで来ます。天界門に直撃していき、天界門にヒビが広がっていきます。恐るべき力を持っているようですね。


 しばらくすると攻撃が止みました。ようやく力が尽きたようですね。


 それにしても一体何者でしょう?


 地上観測班の天使に、攻撃をしてきている存在を映し出すように指示します。


 どうやら、小さい銀色の人形のようですね。あれが天界に攻撃をしてきているとは、信じられませんね。あんなに小さい人形にそこまでの力があるものでしょうか?


 私が疑問に思っていると、銀色の人形が巨大な光の魔法を発生させます。すさまじいまでの数です!


 力が尽きたわけではなかったのです! とてつもない力を秘めた魔法をあれだけ発生させ、完璧にコントロールするとは。そのまま光の魔法を撃ち出してくるのかと思ったら、なんと光魔法を合体させ始めました。


 私を含めた神々の空気が凍り付きます。


 あれは審判の神と天使達が構築しようとしている合体魔法と同じ性質の魔法です。神と天使が500年ほどの時をかけて作り上げた合体魔法なのに、あの銀色の人形は使えるというのですか!?


 1つ1つの魔法でも巨大なのに、あれを合体させようとするとは。


 恐るべき事に、銀色の人形は次から次に光魔法を発生させ、合体させていきます。すでに恐ろしいまでの力になっています。いったいどこまで力を集めるのでしょう。


 審判の神に、未完成でもいいので合体魔法を撃ち出すように指示を出しましたが、地上からの攻撃の方が早かったのです。


 地上から放たれた光の合体魔法が天界門に当たると同時に閃光を発し、ドゥゴオオオオオオオンという轟音を鳴り響かせました。


 しばらくして目と耳が元にもどると、天界門どころか、1層目の全てと2層目の一部が消滅していました。


 壊されたではありません。


 文字通り跡形もなく消え去っているのです。1層目にいた審判の神と天使の精鋭1万も消滅してしまいました。



 私も周りの神達も目の前の状況に理解が追いつかず呆然としていると、尚も地上から光の魔法が飛んで来ます! これほどの攻撃をしてなお、力が尽きていないということに愕然としました。



 ◆



 しばらくすれば力つきるだろうから、その隙を見計らって残りの天使軍を全て投入すべきだという意見も出ましたが、絶え間ない攻撃を受け続けているうちにそのような意見は出なくなりました。


 すでに天界門があった場所からの射線上にあるものは5層目まですべて消え去っています。


 射線上に入ろうものなら、恐るべき光魔法にあっという間に消し去られるのです。停戦の使者となる天使を何度か送りだそうとしましたが、すべて消し去られてしまいました。


 天使が無理ならと、創造の神が、自ら使者になって地上を目指そうとしましたが、一撃で行動不能に追い込まれました。


 それから絶望の日々が始まります。絶え間なく繰り出される光の魔法。徐々に消し去られていく範囲が広がっていきます。我々神々も天使達も、光魔法が届かぬ天界のすみへと身を寄せ合い、いつ消し去られてしまうのかという恐怖と絶望に包まれていきます。



 ◆



 瀕死の創造の神が、精霊達に救援を頼んではどうかと提案してきました。大魔王対策をしていたので今の天界は精霊界とのつながりが薄いのですが、恥を忍んで私たちは精霊達に救援を頼むことにしました。


 邪竜の復活も精霊達だけで食い止めて、邪竜を消滅させたようですので、精霊達の力を借りることができれば、この危機を切り抜けられるはずです。


 あまり気は進みませんが私が使者となり、天界にある精霊の樹から精霊界へと旅立ちました。



 ◆



 精霊界についた私は光の精霊王のもとに向かいます。


「光の精霊王、どうか私たちをお救いください」


「久しぶりやね。新しき神々の一人、運命の女神やったっけ?」


「はい、私は運命の女神です」


「いきなりあらわれてお救いくださいとは、どういうことかさっぱりわからんわ。邪竜が復活しそうやから力を貸してと頼んだ時にはお前さんらは断ってきたのにな」


「あの時は申し訳ありませんでした。大魔王が天界へと攻めて来る期限が近づいていたので、地上には降りられなかったのです」


「はぁ。古の神々はもっと世界のことを考えてたんやけどね。今は自分たちの事ばかりやな」


 やはり、光の精霊王は邪竜が復活しそうだった時の事を言い出してきました。たしかに邪竜が復活すると世界のバランスが崩れてしまう可能性もありました。しかし、邪竜は何者にも従わないので、邪竜と大魔王を地上で互いに争わせ、力を削れるかもしれなかったのです。


「本当に申し訳ありません。しかし、精霊の皆様の尽力のおかげで邪竜を消滅させたとうかがっております。どうか、その力をお貸しください」


 そういって私は頭を下げました。どのように倒したのかまではわかりませんでしたが、精霊達はあの恐るべき邪竜を消滅させているのです。なんとしても、精霊達に力を貸してもらわなければなりません。このままでは天界が滅びます。


「ワイらの尽力っちゅうか、気の良いやつが助けてくれただけや。ワイらには何もできへんかったわ」


「で、では、その御方を紹介してください! お願いします! 天界は今、地上からの攻撃にさらされ、破滅の危機に瀕しているのです!」


 私は知らず知らずの間に涙を流して、光の精霊王にすがります。必死で頼み込む私の姿に、光の精霊王は話を聞いてくれる気になったようです。


「天界が破滅の危機か。天界が崩れると、三界のバランスが崩れてまう。あんまり気は乗らんが、ゴーレムに頼んでみたるから、天界を攻撃してる相手の事を言うてみ」


「はい。天界を攻撃しているのは、世界を滅ぼそうとした者の一味です。大天使が断罪をしていたところを反撃してきたのです」


「断罪ねぇ。お前さんらは自分が絶対に正しいと思いすぎてるからなぁ。まぁ、ええわ。世界を滅ぼそうとした者の一味の特徴はどんなんや?」


「恐るべき光魔法の使い手です」


「光魔法やて?」


「はい、天界への門だけでなく、審判の神と天使の精鋭1万が一瞬で消滅させられました。そして絶え間なく光魔法を放ち続けてくるのです」


 私の言葉に光の精霊王が表情をしかめます。


「その相手は、精霊王様の半分にもみたない小さな銀色の人形なのです。どうか、邪竜を倒した御方を私たちに紹介してください!」


 私は必死に頭をさげてお願いをしますが、精霊王はなんの声もかけてきません。紹介していただけないのでしょうか。


「顔をあげや。多分、いや他にはおらんやろな。天界を攻撃しとるんが邪竜を滅ぼしたゴーレムやろう。せやから、お前さんに紹介してやるんは無理やと思うで」


「そ、そんな!? それでは私たちはどうすれば!?」


「とりあえず、天界の連中はもう戦意がないんやな?」


「はい。もう天界は絶望に包まれております。いつ消し去られるかという恐怖に支配されているのです」


「わかったわ。ワイがゴーレムに話をしに行ったろう」


「あ、ありがとうございます!」


「ただこれが丸く収まったら、お前さんら天界の者は地上にあんまり干渉すんなや」


「ええ! もちろんです」


 光の精霊王は厳しい表情で私を見つめてきます。


「言うとくけど、地上の力をこっそり天界に吸収してることもわかっとるんやからな。それもやめるんやで」


 大魔王にも気づかれていなかったのに、精霊王には気づかれていたようです。私は顔色を青ざめさせ、頷きました。


「……はい。もちろんです。大魔王の脅威もなくなったので、今後、地上の力を利用することはありません」


「おし、それじゃあ、行ってくるわ。お前さんは天界に戻って待っとき」


 光の精霊王はそれだけ言い残すと、エルフの国の近くにつながっているという精霊の樹のもとへ向かっていきました。


「よろしくお願い致します」


 私は光の精霊王に深々と頭を下げてお願いをしました。

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