第117話 やられる前に
我はゴーレムなり。
なぜか大天使長ゴレに天界を敵に回したと言われてしまった。我はあんまり気にしないけど、普通の者だったら、恐ろしくて眠れなくなるのではなかろうか。あっ、我はいつも眠れないから一緒だね。
ハクやジスポ、イパアードと一緒にエルフの国に戻る。戻りながらも、ジスポが我の身体を磨いてくれる。我のメタルボディがぴかぴかになっていくぜ。
天使に攻撃されている間、ジスポが近づけないから、ずっと磨かれていなかったのだ。やはり、ぴかぴかの方が気分がいいね!
我は一応、状況を御神木コエダとエルフのノッテに伝えておこうと思い、コエダのところまで向かった。
◆
ノッテと一緒にコエダのところに行くと、コエダが声をかけてきた。
「管理者さん。お久しぶりです。すごい攻撃にさらされていましたけど、ようやく終わったんですね!」
「あれほどの天使の攻撃を平然と受けていられるとは、ゴーレム殿はすごいですね」
うーむ、終わったと言えば終わったのだが、始まったと言えば始まったのだよね。我はないわーポーチの中からノートを取り出しメッセージを書く。
<我を消し去る前に、天使がイパアードを殺そうとしたのだ>
「えっ、そんなことが?」
「なんと!?」
コエダとノッテが驚いてくれる。2人とも最初の天使とやりとりしている場所にはいたからね。うんうん。やっぱり、天使が悪いよね。
「イパアードさんは大丈夫なんですか!?」
コエダが心配の声を上げたので、イパアードがないわーポーチの中から顔を出す。
「ええ、私は平気。ハクが天使の攻撃を避けてくれたからなんともなかったよ」
「それはよかったです。天使が約束を破ったから、断罪は終わりになったんですね」
うーむ、断罪は確かに終わったのだ。我はメッセージをノートに書く。
<たしかに断罪は終わった>
コエダとノッテがほっと安堵の息を吐く。ごめんよ、まだ我のメッセージは続くんだよ。
<しかし、戦争が始まるようだ>
「「えっ!?」」
我のメッセージを見るとコエダとノッテが驚きの声を上げた。どういうことだという視線を我に向けてくる。ちょっと待って欲しい。今、書いているから。ちゃんと説明するよ!
<ラインライトで威嚇射撃をしたら、天界への門とやらに当たって、穴が開いちゃったのだ>
<すると、天使達が激怒状態になってしまったのだ>
我はまったく理解できないよね、という意思を込めて首を左右に振る。誰も言葉を発しないので、我がこのまま説明するか。
<天使達は言った。討伐軍を組織するべきです、と>
コエダは大きく口をあけ、ノッテも目を見開いている。おお、良いリアクションなのだ。そんな良いリアクションをしてくれると我も説明している甲斐があるよ!
我はうれしくなってせっせとノートにメッセージを書く。
<さらに、神様とやらも出陣してくるかもしれない>
どう? どうよ? とわくわくしながら、コエダとノッテにノートを見せる。コエダとノッテはさきほどよりもさらに驚いた表情で我を見つめてくる。
ふっふっふ、驚いているのだ!
とりあえず、最後の一文を見せておこう。
<最後に、我を天界の敵と言い残して、天使達は消えていったのだ>
コエダとノッテは驚きのあまり声が出ないようだ。まぁ、我もなぜ天界の敵とされたのか解せぬからな。コエダとノッテが驚くのはしかたない。
「か、管理者さん!? それは大変じゃないですか!? 一大事ですよ!!」
「そ、そうですよ!! ゴーレム殿! 天界と戦争を始めるって事ですか!?」
我は困ったことになったねという意思を込め、うむと頷く。
「管理者さんは落ち着いてますけど、相手は軍を組織するのでしょう!? 大変ですよ! 一大事ですよ!!」
コエダがかなり動揺しているな。さっきから大変と一大事を何度も言うのだ。困ったときほど、冷静にならないとだめなのだぜ!
我はノートにメッセージを書く。
<落ち着け>
<相手が軍を組織しようとも問題はない>
<なぜならば>
我はもったいぶって、コエダやノッテ、ハク達にゆっくりとノートを動かして見せる。
ゴクリとノッテがつばを飲み込んだ。
<我は一人でも軍と同等以上の戦力だからだ!>
どうよ! と胸を張る。ハクがぱちぱちと拍手をしてくれる。ジスポは文字が読めないので、ハクが拍手をしはじめたことで、拍手をしておくところなのかと思ったようですこし遅れて拍手を始めた。
コエダとノッテの表情が暗い。ノッテは顔色がすごく悪くなっている。
「そんな冗談を言っている場合じゃないですよ! どうするんですか!?」
「え、ええ。神話では、神や天使は敵と認定した国を跡形もなく滅ぼしたそうです。なので、ゴーレム殿も今後、えんえんと狙われ続けるのではないですか!?」
なんと!? えんえんと狙われるのか!? どこかで手打ちになるのではないのか?
我はせっせとノートに疑問点を書く。
<相手を滅ぼすまで、戦いが終わらないということ?>
「そうです。天界に住まう神々や天使は、地上を管理していると考えています。そのため、相手を滅ぼさずに戦いが終わったことはありません」
ノッテの言葉を聞き、我はうぬぅと思い、沈黙する。
やらなきゃやられるということか。
我への攻撃は、最終的には1000人以上の天使が攻撃してきていたけど、あれよりも多くなるよね。
その場合、地上への被害が多くなるのではなかろうか。せっかく元気になったモクイチたちが戦禍に巻き込まれるのは忍びない。
<わかった。我はやられる前にやるよ!>
「えっ? あの管理者さんどういうことですか?」
<我は地上に戦禍が広まる前に天界を滅ぼしてみせる!>
<きっと我ならできるはずなのだ!>
<しばし留守にするからハク達を頼んだぞ!>
「ええええ!? か、管理者さん!? 天界を滅ぼすって!?」
コエダが何かを言っているが、ハクとジスポに言付けをして、すぐに攻撃に向かおう。先手必勝なのだ! すでに戦いは始まっているのだ!
『ハク、ジスポよ。此度は厳しい戦いになるやもしれぬので連れて行けぬ。しばし、エルフの国で待機しておいて欲しい』
ハクとジスポがうなずこうとしたのを見て、我はラインライトを発生させながら、その場を後にした!
どんな時でもラインライトは忘れないのだ!
◆
我は1ヶ月ほど天使から攻撃をくらい続けていた場所にやってきた。
たしか、ここから天に向かってゴーレムパンチを放ったら、ゴーレムパンチが天界への門にぶち当たったのだ。
すでに宣戦布告されてしまっているから、攻撃しちゃっていいよな。うむ、もう戦いは始まっているのだ!
我はやるぜ!
我が滅びるか、天界が滅びるかでしか決着がつかないのであれば、我が圧倒的な力で天界を消し去ってやるのだ!
ゴーレムの力をなめるなよ!
我は天へ向かって巨大なラインライトを放つ!
{ログ:ゴーレムは穴の開いた天界への門に1000のダメージを与えた}
おっ、ちゃんと当たったのだ。ならば、この先に天界があるのだろう。圧倒的火力で攻撃を続けてやるのだ!
我は巨大なラインライトを天へ向かって何度も放つ!
{ログ:ゴーレムは穴の開いた天界への門に1000のダメージを与えた}
{ログ:ゴーレムは穴の開いた天界への門に1000のダメージを与えた}
{ログ:ゴーレムは穴の開いた天界への門に1200のダメージを与えた}
{ログ:ゴーレムは穴の開いた天界への門に1200のダメージを与えた}
うぬぅ、なかなか固い。やはり、もっと力を集約させねば、らちがあかんな。こんなちまちまと攻撃をしているのではダメだ。相手に反撃の機会を与えてしまう。
我は巨大なラインライトを周囲に多数発生させていく。
そして、そのラインライトを1つへと集約させていくのだ。大抵のヒーローモノでは合体や友情が勝利への近道だからな。我もそのお約束に従って、ラインライトの力を1つに集約してみるのだ!
ラインライトの光が集約して、巨大な光が形成されていく。
まるで光が合成されていくようなのだ!
な、なんか、すごいのだ! 我が思っていたのよりも何倍もすごいのだ! ゴゴゴゴという低い音が辺りに鳴り響いているぞ。バチバチいい出したし、これがお約束の力か!
今までに感じたことがないほどの力なのだ。もうとっくにラインライトの限界を超えているような気がするぞ!
これならきっと天界への門を消滅させることができる!
行け! スーパーラインライト! 天界への門を消し去るのだ! 我は勢いよく天へと向けてスーパーラインライトを放つ。
スーパーラインライトはシュパーンと空気を切り裂いて、天へと登った。辺り一面が一瞬カッと光に照らされた。そして、ドゥゴオオオオオオオンという音が遅れて鳴り響き、空気を震わせる。
す、すごい。これが合体の、友情の力か。
我が呆然と天を見上げていると世界の声が聞こえてきた。
{ログ:ゴーレムは天界への門に50000のダメージを与えた}
{ログ:天界への門は消滅した}
{ログ:ゴーレムは天使軍(多分10000くらい)に平均50000のダメージを与えた}
{ログ:天使軍(多分10000くらい)は消滅した}
{ログ:ゴーレムは何らかの神に50000のダメージを与えた}
{ログ:何らかの神は消滅した}
{ログ:ゴーレムはLv43に上がった}
なんと、天界への門のみならず、天使軍と何らかの神とやらも消し去ってしまったようだ。戦いとは常に残酷なのだ。力でしか物事を解決できないとは哀しい。
{称号【神殺し】を得ました}
{称号【神殺し】を得たことにより、スキル【万物崩壊】を得ました}
や、やはりか。
天使を殺しても称号が手に入ったのだ。神を殺せばそりゃ称号が手に入るよね。万物崩壊とは、また物騒なスキルが手に入ったものだ。
とりあえず、軽い気持ちで試して、世界が壊れたら困るので使わないでおこう。虐殺よりも、やばい臭いがぷんぷんするのだ。字面がやばい。
{スキル【虐殺】が【大虐殺】に変更されました}
あっ、虐殺に大がついちゃった……。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}
いかんいかん。今は天界を滅ぼすことに集中すべき時だ。
我は天を見上げて考える。
これですべて終わったのだろうか? いや、天使軍と聞こえてきたから、全天使というわけではあるまい。そして、問題は神の方のログだ。
何らかの神。わざわざ、世界の声が何らかというのだ。これはつまり、神は複数いることを示しているのではなかろうか。
戦争は開始されてしまっているのだ。そして、我は神と天使を消滅させた。相手もすでに引けぬだろう。叩き潰されるか、叩き潰すかでしか、この戦争は終われないのだ。
うむ。
ここは徹底的に攻めるべき時である!
我は両手をにぎりしめ、やるぞ! と気合いを入れ直す。ここからの我は相手を殲滅するだけの非情な戦士ゴーレムなのだ。
我は天へと向かって巨大なラインライトを複数撃ち出す。この日から我は天に向かってラインライトを撃ち続けた。
◆
{ログ:ゴーレムは天使に1000のダメージを与えた}
{ログ:天使は消滅した}
やはり、まだ天使はいたな。
それからも時折、ログが聞こえてくるので、天使はまだまだ健在なのだろう。
◆
{ログ:ゴーレムは何らかの神に1000のダメージを与えた}
おっ、我の推測を肯定するかのように、別の神にもダメージを与えたようだ。でも、神は消滅しなかったな。もっとラインライトに力を込めて強く撃ち出さないとだめだな。
まだまだ我と天界との戦いは終わらぬらしい。
戦争とは大変なのだ!
でも、我は勝利をこの手にするまで、戦い抜くぜ!
◆
3日間絶え間なく天に向かって攻撃を続けていると、新たな称号を得てしまった。
{称号【紂せしモノ】を得ました}
{称号【紂せしモノ】を得たことにより、スキル【残忍】を得ました}
我には【紂せしモノ】というのがどういうことなのかイマイチわからぬが、スキルが【残忍】だから、ロクでもない意味に違いないのだ。
戦争をするというのは罪深いことなのである。我のように情け深いモノにも【残忍】というスキルを与えてくるのだ。
それにしても、紂ってどういうことなのだろう。漢和辞典が欲しいのである。
誰かに我を鑑定されたら、【王殺し】【天使殺し】【神殺し】の称号があり、【大虐殺】【悪魔化】【万物崩壊】【残忍】というスキルまであるので、ロクでもないゴーレムだと思われそうなのだ。
我だったら、とりあえず近づかないね。
あれ、【死者のトモダチ】っていうのもイマイチかもしれない。
鑑定対策をしたいところだが、我は魔道具を装備出来ないからどうしようもないな。うむ、考えても、どうしようもないことは考えないでおこう。
◆
1週間経った。我はこの一週間休むことなく、天に向かってラインライトを撃ち続けている。天使軍はいつ攻めてくるのだろうかと警戒しつつ待ち構えているのだが、一向に攻めかかってこない。
ひょっとして出入り口はひとつだけなのだろうか?
いや、そんなわけはない。きっと我が攻撃の手を休めるのを待っているのだろう。持久戦に持ち込もうという腹かもしれないが、我は疲れないので望むところなのだ!
我がメラメラとやる気を燃やしていると、キラキラと光る存在が我の方へとやってきた。
天使がようやくやってきたか!?
たった一人でやってくるとは、それだけ己の力に自信があるということだろう。
我は天使に向かってラインライトを放つ!
天使はさっとラインライトをかわした。やはりな。なかなか良い動きをするヤツなのだ。我は天へ向けて放っていたラインライトを少し減らし、我に向かってくる天使へとラインライトを向けることにした。
我が撃ち出そうとすると、天使が焦って大声で叫んでくる。
「ちょ、ちょーっと待って! ワイや! ヒカルや! 光の精霊王やで! 攻撃せんといて! 当たったら死ぬから!」
ん? この声はヒカル? 我は目をこらして見てみる。
ゴーレムアイ、発動!
{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}
レベルがかなり上がったから、いけるかと思ったのだけど、ダメだったのだ。ゴーレムアイへの道は遠いぜ。
ヒカルが息を切らして我の前へとやってきた。とても恐ろしい目にあったのだろう、ぶるぶると小刻みに震えている。すまんな。我も悪気があったわけではないよ。
『久しぶりだな、ヒカル。何か用なのか? 我は今、戦争中なので、いきなり近づいてくると危ないのだ。光ってたから天使かと思ってしまったよ。すまんな』
「あ、ああ。次からは気をつけて。よく相手を見てから攻撃して。ホントに。お前さんの攻撃をくらったら、ワイは無事ではすまんからね」
『うむ、すまなかったな。で、何か用?』
「そうや、ワイは女神に頼まれてゴーレムに話をつけにきたんや! なんでお前さんは天界を攻撃してるんや? 女神が大慌てで、精霊界に援軍を頼んできたで。銀色の人形に攻撃されてて、天界が破滅寸前やと泣いとったわ」
『へぇ、天界と精霊界って行き来できるんだな』
「ああ、そうなんやって、それは今はどうでもいいわ。銀色の人形って言われてワイにはピーンときたんや。天界を破滅に追い込むような存在はお前さんしかおらんってな。それで仲介するためにワイがやってきたんやで」
『ほう。ヒカルは中々察しが良いのだな。我は別に天界に恨みがあるわけではないよ』
「はぁ!? なら、なんでお前さんは天界に向けて攻撃してるんや。今もワイと話しながら、えんえんと天界に向かって攻撃しとるけど、やめたげて。頼むから、ちょっとやめたげてくれる。天界はすでに戦意をなくしとるよ」
『え? でも、天使から、天界を敵に回したことを後悔させるって言われたよ。だから、我が滅ぶか、天界が滅ぶかの戦争中なのだ。天界が滅びましたっていう世界の声が聞こえてこないから、まだまだ天界は健在のはずなのだ!』
ヒカルがあぜんとして我を見てくる。ヒカルが尚も攻撃はやめたげてというので、我はしぶしぶ攻撃を止めた。もう、マブダチだからだよ! 特別だからね。
「えっと、すまんけど、なんでお前さんが攻撃を始めたのか最初から説明してくれる? 天界がなくなると、天界、地上、魔界のバランスが崩れるから困るんよ」
我は頷き、なぜ我が天界を攻撃し始めたのかを説明していく。ヒカルがところどころで相づちをうちながら聞いてくれた。
「あー、ゴーレム、もう攻撃を止めておいて。もう天界に戦う意思はないから。天界が廃墟になりつつあるんよ。ワイが責任を持つから、本当にもう攻撃は止めて」
ふむぅ。ヒカルがこうまで言うのなら信じよう。我はトモダチを大事にするからね!
『わかったのだ。ヒカルを信じて攻撃は止めておくのだ。ただ次は確実に滅ぼすよって伝えておいて!』
「ああ、ちゃんと伝えておくから、攻撃せんといてな。ワイがこれから女神と話をしてくるから、終わったらまた連絡に来るわ」
我は手を振ってヒカルを見送った。どうやらヒカルが間に入ってくれることで、この戦争を終わらせられるかもしれない。
やっぱり持つべきものはトモダチなのだ!




