第115話 断罪する者
俺の名はファタン。
神々に仕えし大天使、断罪のファタンである。
大魔王が地上に進出して以降、天界に住まう神々や俺たち天使は地上に関わることを極力避けるようになった。聖天十二神の筆頭の女神様と魔王の取り決めを守るためだ。
大魔王が魔界に去り、地上も天界も平和になったと思っていたら、地上を観測していた天使が世界樹の内の一本が枯れ始めたと報告をしてきた。
俺たちは地上に関わることは避けているが、今回は静観している訳にはいかないようだ。急激に世界樹の周囲の力がなくなっているらしい。このままの勢いでは地上の力がすべて枯渇してしまうのも遠くないだろう。
俺は神の指令を受け、世界樹の調査に向かった。
どうやら地上の力が世界樹を通して、地下世界に吸い取られていたようだ。今はなぜか地下世界に吸い取られる力が抑えられている。世界樹に顔が出来てしゃべっているのが関係しているのだろうか。
世界樹に顔ができる。こんな事例は聞いたことも見たこともない。
地下世界は閉ざされているので、俺が地下世界まで行くことはできない。しかたがない、この顔の出来た世界樹の周りで調査を続けていこう。
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いつのまにか、地上の力が地下世界に吸い取られるのが止まっている。何があったのだろうか。
また同じようなことが起こっては困るので、このまま調査を続行する。
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世界樹の周りにエルフが集まり始めた。どうやら世界樹が魔法で何かを呼び出すらしい。
地面に黒い沼ができ、その中からおかしな形をした銀色の人形があらわれた。周りのエルフ達の反応を見るとどうやら、あの銀色の人形が地下世界で問題の原因を解決してきたらしい。
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調査の結果、わかったことがある。
あの銀色の人形が連れている小さな褐色のハイエルフが今回の騒動の原因のようだ。どうやって壊したかはわからないが地下世界にある神器、光の調律を壊したそうだ。
自分一人で死ぬならばまだしも、世界を道連れにしようとは。
恐るべき罪をおかしたハイエルフだ。
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どうやらあの女は罪を償おうとしているらしい。
しかし、お前がおかした罪はどんなことをしようと償うことなどできぬ。それほど身勝手な考えで世界を壊しかけた罪は重いのだ。
俺は断罪の大天使ファタンだ。
俺は目の前の大罪人を裁かねばならん。
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今日も大罪を背負いしハイエルフの女は、ネズミに乗って森の中を駆け巡っている。
天界からも俺に戻ってくるようにと言われ始めた。天界に戻る前に俺は大罪人を裁いておくことにした。
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我はゴーレムなり。
エルフたちは非常に責任感が強い。我が毎日森の水やりにいそしんでいたら、我だけには任せていられないとエルフ達はみんなで水やりを始めた。
我にはもう見ているだけでいいとエルフ達は言ってくる。
だが、我にはわかっている。
客人だからって気を遣ってくれているんだろ。もう我らはトモダチじゃないか! 世界の声も公認のトモダチさ。トモダチ同士でそんなに気を遣ってくれなくてもいいんだぜ!
エルフ達に気を遣うなと手を振り、我は今日も元気にエルフ達と一緒に水やりをする。
◆
「やぁ、ゴーレムさん! 今日も良い天気ですね」
我が水やりをやっているとモクイチが話しかけてきた。我はうなずく。
「ゴーレムさんが、最初ボクの枝を落とし始めたときは、切り倒す気かと驚きました。でも、手入れをされることで日の光が隅々まで届いて気持ちが良いですね」
我はそうだろうそうだろうと頷く。やっぱりきちんと手入れがされている方が気持ちがいいものなのだ。
すると木々がざわめきだした。
「あぁ、マウスとハイエルフが、襲われている」
「なんだ、あの光る虫は」
「大変だ、危ないぞ」
「モクキュウキュウナナとモクキュウキュウハチに穴が開いたぞ!」
んん? 何だ、ジスポとイパアードに何か危険が迫っているのか? でも、最近のジスポとイパアードはなかなかのコンビネーションで敵をやっつけていたから、この森にいる程度の魔物なら大丈夫だと思うけどな。
我が首を傾げているとモクイチが慌てて声をかけてくる。
「ゴーレムさん、落ち着いている場合じゃないですよ。今回は本当に危なそうです! はやく向かってあげてください! モクキュウキュウキュウのところにジスポさん達は向かっています!」
おっと、モクイチがこの様子では本当に危なそうだな。我はハクに言ってくると告げ、ジョウロを手渡す。
そしてラインライトを背中に発生させながら、モクキュウキュウキュウのところを目指して駆けだした。
◆
おお、確かにジスポとイパアードが飛び回る光る虫に襲われているぞ! ジスポやイパアード達よりも小さいが、かなり強力な魔法を使うみたいだ。
ジスポたちはなんとか攻撃をかわし続けているけど、いつまでもつかはわからないな。それに、モクキュウキュウハチやモクキュウキュウナナの幹に大きな穴が開いて、痛がっている!
なんという危険な虫なのだ。これは駆除しなければならん!
我はラインライトを光る虫に向かって放つがかわされてしまった。くそ。森の中では、巨大なラインライトは放てない。周りのモクシリーズの木達まで消し去ってしまうかもしれないからな。
どうやら、光る虫が我に標的を変えたようだ。ラインライトを虫に向けて放ったことで、我を敵と見なしたみたいだね。
その間にジスポ達はモクキュウキュウキュウの後ろに身を隠した。
「ちゅちゅちゅ!」
(親分、気を付けて!)
「ゴーレムさん、ありがとう! そいつの狙いは私なの!」
ジスポとイパアードが我に声をかけてくる。しかし、モクキュウキュウキュウがジスポ達をたしなめる。
「ちょっと静かに! ゴーレムさんがせっかく敵を引きつけてくれているんだから静かにしなさい!」
ジスポとイパアードはハッとなり、口を閉じる。
我もハッとなり、動きを止める。
……さすがはモクキュウキュウキュウ。我の考えていたことなどお見通しのようだな。
ふっふっふ、全ては計算通りなのだ。ラインライトをかわされることも、我を標的として向かってくることも全て我の計算通りなのだ。
「お前は大罪人を庇うのか!?」
光る虫が何かを叫びつつ魔法を放ってくる。言葉をしゃべる虫とは変わっているな。ファンタジー世界だから、何が起こっても不思議じゃない。虫が放った魔法がボンと我の頭に直撃する。
我は平気だけど、ジスポ達だと直撃したら、致命傷になりかねない威力だ。
「ちぃ、頑丈な人形だな! 次の魔法で終わりにしてやる!」
虫の上に巨大な光が集まり始めた。確かに強力そうな魔法だ。どんどんと光が集まり、あっというまに我の身長を超えてしまった。さらに光が集まっていく。
虫は魔法の構築に集中しているのか動きを止めている。これはチャンスじゃなかろうか。戦いの中で動きを止めるなど愚かとしかいえない。
我は一足で虫の近くまで行き、虫を両手で叩いて潰した。
{ログ:ゴーレムは神の送り出した大天使に300のダメージを与えた}
{ログ:神の送り出した大天使は息絶えた}
{ログ:ゴーレムはLv33に上がった}
我がそっと手を開くと光の粒子が空へと舞い上がっていく。なんだろう。世界の声が、神の送り出した大天使と言っていたぞ。
もしかして危ない虫ではなかったのだろうか。しゃべったり魔法を使えたりしていたから、ひょっとして本当に天使だったのかもしれない。
いやいやいや、ないない!
天使があんなにちっちゃいわけがないよ!
そもそもジスポやイパアードを狙う理由がわからない。単なるネズミとちっちゃいエルフだよ? きっと大天使という名の虫だったのだ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
ふー、ちょっと焦っちゃった。
ほっとしたのも束の間、世界の声は衝撃の事実を告げてきた。
{称号【天使殺し】を得ました}
{称号【天使殺し】を得たことにより、スキル【悪魔化】を得ました}
……。
うむ、どうやら我は天使を殺してしまったらしい。【悪魔化】という恐ろしげなスキルまで手に入れてしまった。念の為、発動してみようかな。どうせ何も変わらないのだ。
スキル【悪魔化】発動!
しばらく待ってみても、何も変わらない。うん、またひとつ使えぬスキルが手に入ったのだ。我が天使殺しから目を背けていると、ジスポとイパアードが駆け寄ってきた。
「ちゅちゅー!」
(親分、ありがとうございます!)
「ゴーレムさん、ありがとう! 私のために辛い役をさせてしまってごめんなさい!!」
辛い役というのは、天使を殺したことを言っているのかな。殺す気で攻めて来ているのだから、天使だって殺される覚悟はしていたはずなのである。
まぁ、我は虫だと思ったから叩き潰したんだけどね。
我はたいしたことではないと、首を横に振る。ジスポとイパアードはそんな我の様子をきらきらとした瞳で見上げてくる。よせよ、照れるではないか。
我は当たり前の事をしただけで、特別なことはないと振る舞う。そうだ、穴が開いてしまったモクキュウキュウハチとモクキュウキュウナナにすごい回復薬をかけておいてあげよう。
名前 ゴーレム
種族 メタルゴーレム
Lv 33
ステータス
最大HP:578
最大MP:551
攻撃力:255(+0)
防御力:255(+0)
素早さ:213
頭 脳:209
運 :255
スキル
【ステータス固定】【復元】【覚醒】【悪あがき】【非接触】【バカになる】【水泳】【遠吠え】【通訳】【祈り】【ラインライト】【虐殺】【姿隠し】【ブレス】【バリア】【救済】【角生】【下克上】【光合成】【精霊のささやき】【悪魔化】
称号
【変わらぬモノ】【悟りしモノ】【諦めぬモノ】【愛でるモノ】【煽りしモノ】【人魚のトモダチ】【犬のトモダチ】【声のトモダチ】【死者のトモダチ】【屠りしモノ】【精霊のトモダチ】【竜のトモダチ】【女王の守護者】【信仰されしモノ】【鬼のトモダチ】【王殺し】【植物のトモダチ】【エルフのトモダチ】【天使殺し】




