第114話 森のお世話
我はゴーレムなり。
皆がまだ寝ているのですることがない。我はないわーポーチから、ジスポやイパアードを起こさないようにノートを取り出し、文章を書く。ふっふっふ、いつかこれを世界に発表してやるのだ。その時、世界は驚愕と感動に包まれるだろう。
我がノートを閉じるとないわーポーチの中から、イパアードがおずおずと顔を出した。どうやら起きたようだ。ジスポもあくびをしながら顔を出した。
我はイパアードとジスポをないわーポーチの中から机の上に移動させる。イパアードは最初うつむいていたが、意を決したように顔を上げ、「すまなかった」と謝罪してきた。
それからぽつりぽつりと何故、神器光の調律を壊すに至ったのかを話してくれた。ハクもベッドの外に出ている尻尾がもぞもぞ動いているから目は覚ましているようだ。
イパアードは、地下世界が嫌いで、絶望して、闇に魅入られて、どうせ死ぬなら世界も道連れにしてやろうと思ったと話してくれた。ジスポはイパアードの話をかなり真剣に、そして同情しながら聞いていた。
我はゴーレムで声も出せないので、時折頷きながら聞いているだけだ。話を聞いている限り、イパアードは長いこと生きているみたいだけど、中学生のような考え方をするなぁと思ったくらいだ。
我としても世界を壊されるのは困る。が、世界は壊れなかったので、我としては終わったことだし、どうでもいいのだ。
イパアードは恐ろしいことをしてしまったと謝っているが、罪を償いたいのであれば自分でどうにかしてもらうしかない。
「ちゅっちゅっちゅ!」
(イパアード、悪いことをしたと思うなら、それ以上のいいことをすればいいのです!)
ジスポがイパアードを励ましているが、おぬしの言葉はイパアードには伝わらぬと思うぞ。我が哀れみのまなざしをジスポに向ける。
しかし、我の予想に反してイパアードは、目に涙をためて、「ありがとう」とジスポに答えていた。
えっ、イパアードはジスポの言葉がわかるのか?
我は驚愕してイパアードとジスポの様子を見ていたが、やはりきちんと会話が成り立っている。何故だ?
イパアードが念話でも使えるのだろうか? 我は試しにジスポとイパアードに話しかけてみる。
『こちらゴーレム! ジスポ、イパアード、我の声が聞こえますか?』
するとジスポだけが、しゅっと我の方を向いて、敬礼してきた。こやつはなぜいつも敬礼をしてくるのだろう。この世界のハムスターの間では敬礼の文化でもあるのだろうか?
イパアードはいきなりジスポが敬礼を始めたので驚いている。この様子を見る限り、イパアードには我の声が聞こえていないらしい。
「ちゅっちゅっちゅ?」
(親分、なんでしょう?)
『ジスポはなんでイパアードと会話が出来ているのだ?』
するとジスポはおかしなことを言うなぁと首を傾げながら、答えてくれる。
「ちゅ? ちゅちゅ。ちゅちゅちゅっちゅ」
(なんでって? フォンイアも言ってましたよ。イパアードは植物や動物の声を聞くことができるって)
そうだったっけ? でも、たしかにそんなことを言っていた気もする。
『うむ、そうだったな。では、イパアードに伝えて欲しい。おぬしも我に付き合って森の世話をするがよいとな』
とりあえず、これでごまかせただろうか。
◆
イパアードはなおも申し訳ないと思っているようだが、我は気にせずイパアードにも仕事を割り振ることにした。べ、別にイパアードの話がめんどくさいなんて思ってないよ!
我はイパアードとジスポの組み合わせを見て思ったのだ。
これならあれが出来るのではないか、とな。
我はハク、ジスポ、イパアードをつれて、エルフの国の防具屋を訪れる。ジスポをないわーポーチからつまみ上げ、ジスポ用の防具を作ってもらうことにしたのだ。
我が描いたスケッチでなんとか道具屋の主人が構造を理解してくれたようだ。簡単な作りなので、その場ですぐに作ってくれるみたいだ。ありがとう、主人。
主人がジスポのサイズを測り、ささっと作ってくれた。
ジスポにその防具を受け取り、つけてみるように伝える。
「ちゅちゅっちゅ!?」
(こ、これが、ボクの装備ですか!?)
我はうむとうなずき、つけてみるようにうながす。ジスポはいそいそと革で作られた装備を身につける。
「ちゅちゅちゅ?」
(どうでしょう、似合っているでしょうか?)
ジスポはくるりと一回転してみせる。うむ、我の思い描いていたとおりなのだ。我はジスポにその場で伏せるように伝える。そして、イパアードをジスポの上に乗せた。
ふっふっふ、これぞ人馬一体ならぬ、エルフとネズミによるハムライダーの誕生なのだ! サイズ的にもぴったりなのだ。
イパアードは魔法をあんまり使えないみたいだから、ジスポといっしょにコンビで互いを支え合いながらがんばって欲しいのだ。そして、イパアードを背負って運動することでジスポの体重管理もできる。
「ちゅ? ちゅちゅちゅ?」
(お、親分? これは一体?)
『ジスポよ、おぬしは先輩として後輩の面倒を見てやるのだ。おぬしもいつまでも、我の身体を磨くだけの男ではないだろう』
どうよ、とばかりに我はジスポに視線を向ける。
「ちゅちゅちゅ」
(お、親分、そんなにもボクのことを……)
我は厳かに頷く。
「ちゅっちゅっちゅ! ちゅちゅちゅーちゅ! ちゅっちゅちゅ!」
(任せてください! イパアード、ボクが先輩として罪を償うのをサポートするのです! がんばるのです!)
「あ、ありがとう、ジスポ」
ジスポのやる気にイパアードは少し気圧されているが、きっとなんとかなるだろう。我らは道具屋の主人にお金を払い、森へと向かった。
◆
森の中についたので、我はジスポとイパアードに特に元気のない木を探すように伝える。
ジスポはラジャーと敬礼をして、イパアードを背負って森の中へと駆けていった。うーむ、奇跡の種を食べてから、ジスポの能力が上がっている気がする。我の気のせいだろうか。
……。
うん、きっと気のせいなのだ。もともとのジスポの身体能力を詳しく知らないので、なんとも言えないしね。
我はハクに魔法のカバンから回復薬とジョウロを取り出してもらった。精霊達にも協力してもらい、回復薬入りの水を作成し、元気のない木にかけてまわる。
昼頃になってジスポとイパアードが戻ってきた。我はそこで一旦、昼食を取りながら休むことにする。ジスポとイパアードの仲は大分深まったようだ。イパアードの顔に時折笑顔も見える。
昼休憩を終えた後は、ジスポとイパアードが調べた、特に元気のない木の場所へ案内してもらう。
うむ、たしかに元気がない。ジスポとイパアードは枯れかかっている木のところに的確に案内してくれる。イパアードの植物の声が聞けるという能力はたいしたものなのだ。
我は元気になーれと念を込めながら、回復薬入りの水やりを続けた。
◆
その後、3ヶ月ほどエルフの国に留まり、我らはエルフ達と一緒に森の木々の世話をした。イパアードはこの3ヶ月で大分元気になった。疲れて寝そべっているジスポの面倒を見ているイパアードの姿をよく目にするので、我のハムライダー構想は上手くいっているようだ。
森の木々にも顔があらわれ、徐々にしゃべり出すようになった。
うむ、我らの努力の成果だな。




