第111話 地下世界へ
我はゴーレムなり。
ただいま我は絶賛落下中である。邪竜の時もこんな風に落ちたものだ。あの時は地面に大きな穴を開けたなぁ。懐かしい。
あっ、穴から広い空間に出た。地面の方にはい一カ所だけ明かりが見えるけど、他は夜みたいに真っ暗なのだ。
はっ!!?
あの時は我一人だったからいいけど、今はジスポも一緒に落下している。この勢いのまま地面に激突したら、我は大丈夫だが、ジスポは赤い肉片になるのではなかろうか。
異世界、ファンタジー補正で大丈夫でしたっていうことも考えられるが、ここは堅実に行った方がよかろう。失敗しました! 死にました! では目も当てられないからね。
「ちゅちゅー!!」
(ぎゅわえー!!)
我は叫んでいるジスポにフィンガーサインで指示を出す。
「ちゅちゅちゅー!!」
(ぎゅぎゅわえー!!)
全然、聞いていない。我は両手の人差し指でジスポのほっぺたをむぎゅっとする。
「ちゅ、ちゅちゅっちゅ!!」
(親分、なんでそんなに落ち着いているんですか!!)
ふっふっふ、我には考えがあるのだ。賢樹を生みだした賢者ゴーレムとは我の事なのだ! 安心するがよい。
我はジスポにフィンガーサインを出す。ジスポは、またもフィンガーサインを見て最初は首をひねっていたが、何度かフィンガーサインを繰り出すことで、ようやく思い出してくれたようだ。
まぁ、訓練以外で、このフィンガーサインを出すのは初めてだからな。仕方あるまい。
「ちゅちゅーちゅ!」
(もふもふもーふ!)
ジスポがもふもふもーふの呪文を叫ぶ。すると、ジスポの毛が毛布のような大きな布になった。我は毛布の角を両手で2つずつ持つことにより、パラシュートのようにゆっくりと降下していくことが出来るのだ!
「ちゅ、ちゅちゅちゅちゅ」
(ぐぇ、空気抵抗が激しいです)
我慢するのだ、ジスポ。これもお前の為なのだ!
◆
緩やかに降下していく中で、明かりが見えた方向へと降りようとするが、どうにもコントロールができない。風の精霊でもいれば、手伝ってくれるんだろうが、周りにはいない。
ここはおとなしくこのまま落ちていこう。
明かりが見えた方向だけはしっかりと覚えておいて、降りてから向かえばいいや。
◆
広い草原のような場所に降り立つことが出来た。
「ちゅちゅーちゅ。ちゅ、ちゅちゅちゅ」
(死ぬかと思いました。でも、真っ暗で何も見えませんね)
ジスポには何も見えぬか。ふっふっふ。我は暗闇の中でもいつも通りに見ることができるのだ。まぁ、暗い中進むのもイヤなので、ラインライトで照らしていこうかね。
そして、我は明かりが見えた方向へと歩き出した。
◆
川だ。水は流れている。どうしよう。このまま進もうかな。
我が川の中に入ろうか迷っていると、ジスポが川下に橋があるのを見つけたようだ。我は橋に向かって歩いて行く。
石造りの立派な橋だ。まるでローマ人が作ったみたいだね。我はこういう橋は結構好きなのだ。せっかくだから、記念に一枚撮っておくかな。
{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。真っ暗を記録した}
なっ、我の目に見えているとおりに撮れるのではないのか!? 我が想像したものはきれいに撮れているのにどういうことだろう。我は、頭の中の橋を心に刻もうとする。
{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。石橋を記録した}
ちゃんと撮れた。我のシャッターはなかなか気むずかしいみたいだ。ひとつ勉強になったな。
この道をまっすぐ進んでいけば、あの明かりが見えたところにたどり着けそうだ。
◆
おっ、明かりが見えてきた。ようやくたどり着けたようだ。明かりが見えた方角から、5人ほどの集団が向かってくる。明かりを持たずに向かってくるようだけど、大丈夫なのだろうか。夜目がきくのかな。
耳が尖っていて、きれいな金髪か銀髪をしている。みんな、整った顔立ちをしているわけではないね。普通だよ。先頭で向かってくる女性だけが、整ったきれいな顔立ちをしている。
きっとあれがリロカばあさんがいっていたハイエルフとやらなのだろう。我はないわーポーチから木片を取り出す。
<ハイエルフ・ラブ>
特に我はハイエルフ・ラブではないから、これを見せるのはやっぱり抵抗があるな。でも、友好の印なのだろう。リロカばあさんのように首からさげておくか。魔道具じゃないって言ってたし。
我が<ハイエルフ・ラブ>の木の板を首にかけたところで、ハイエルフたちが我の前までやってきた。ハイエルフたちは我をまじまじと見ている。特に首から提げた<ハイエルフ・ラブ>の木の板を見たところで、ちょっとだけ目が優しくなった。
ま、マジか。リロカばあさんの言ってた事は嘘じゃなかったよ! 疑ってごめんな、リロカばあさん!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
5人の代表と思われるきれいなハイエルフが我に話しかけてきた。
「初めまして。私はハイエルフのフォンイアといいます。今、地下世界は闇に呑まれようとしています」
うむと我は会釈をし、ノートに<我はゴーレム>と書いて見せたが伝わらなかった。字が違うのかもしれないね。我もその問題を解決したくてやってきたのだ。是非とも、続きを聞かせて欲しい。
「いまや光は闇に吸い込まれるため、光や火の魔法はすぐに消えてしまうはずなのです。どうして、あなたはラインライトを常に発生させられているのでしょうか?」
なるほど。だから、地下世界は真っ暗なのか。我はうむうむと頷く。肝心の原因について教えてくれる前に質問をされてしまった。ギブアンドテイクなのだ。我から先に質問に答えることにしよう。
どうして、ラインライトを常に発生させられているかと聞かれれば、その答えはひとつしかあるまい。
それは我がラインライトマスターに他ならないからだ! ジェスチャーで伝えてみたけど、いまいち伝わらない。
ラインライトマスターを示すために、ラインライトをいっぱい発生させたら、とっても驚いてくれた。ふっふっふ、我のラインライトは自由自在なのだよ。この程度で驚かないで欲しい。
我はバッと両手をあげて、空中に巨大なラインライトをいくつも発生させた。辺りが昼間のように明るくなった。それを見たハイエルフ達は、固まってしまった。
あれ、ここはもっと驚いてくれるところではないのかな。一呼吸置いてフォンイアと名乗ったハイエルフが正気に戻ってくれた。
「この先の神殿では地上からの力が流れ込んできているため、かろうじて今は光を発生させる事ができています。できれば、神殿に来て闇を照らすのを手伝っていただけないでしょうか?」
我が思うに、神殿とやらで今回の騒動の原因が起こったのだろう。我はうむと頷いて、フォンイアたちと一緒に神殿へと向かった。
◆
我が神殿に向かう途中もラインライトを発生させていたら、突然明るくなったということで、街の人々が家から出てきた。みんな、ハイエルフだ。ハイエルフ以外はこの街にいないのだろうか。
神殿に向かうまでの間にフォンイアが話してくれたのだが、どうやら光の調律と呼ばれる神器が壊されてしまったのが、今回の騒動の原因らしい。
最初は神話の時代からとか、私たちハイエルフは使命を持ってだとか、いろいろとフォンイアが説明してくれたのだけど、ややこしかったので、途中から我は相づちだけうっておいた。もう話の中で出てくる過去の英雄が多いのだ。プレスワドー・サバーやレカヘウ・ナナンガという名前がどんどん出てくる。我にはとても覚えられないよ。
要は、この地下世界は闇と光がバランスを保つことで成り立っているらしいのだ。それが光の調律が壊され、闇の力が強くなりすぎて、地下世界は闇に呑み込まれそうになっているということだ。
原因がわかってよかったよ。
◆
我らが神殿に着くと、ひげを生やしたハイエルフの老人が近寄ってきた。
「フォンイア様、この光は一体?」
「こちらの銀色の御方の魔法です。この魔法で一時的に闇を押さえ込めるはずです」
「しかし、光の調律が壊れてしまった以上、いずれは闇に呑み込まれてしまうのでは?」
「ええ、なんとか、光の調律を直す手段を探しましょう」
我はフォンイアの手をツンツンとつつき、光の調律とはどれなのかをジェスチャーで尋ねる。なんとか伝えることができたけど、時間が掛かってしまった。我は文字を覚えて慢心していたようだ。やはりジェスチャーも鍛えておかねばならんな。
◆
バラバラに壊れた石があった。かなり大きい。25メートルくらいあるんじゃないかな。壊れた残骸を見るに丸いリング状だったのだろう。我は、その石に触れる。
直れ、直れ、直れ。
我が石に触れることで、石が徐々に直っていく。うむ、我の【復元】は問題なく効果を発揮するみたいだ。やっぱり我は、魔法の力があるものを装備できないだけなのか。呪いのアイテムは装備出来ているから、我に役立つアイテムだけが装備できないってことなのだろうな。
我の装備について考察していると、石が完全に直った。リング状の大きな石で、よくわからない模様が刻まれている。
「な、直った!?」
「え、ええ。直ったわね」
老人とフォンイア、他のハイエルフたちもリングが直ったことに呆然としている。我は一人、満足してうむとうなずく。
「あ、ありがとうございます! 銀色の御方! これで後は魔力を貯めていけば、光の調律がその力を発揮できるはずです! 神官長、皆を呼んで魔力を捧げる準備を!」
「はっ、すぐに手配致します」
直せばいいだけじゃなかったのか。魔力を込める必要があるんだね。あれだ、セバスチャンの時と同じようなことだろう?
我はリングに手をかざし、魔力を込める。
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを100注いだ}
おっし、やっぱり一緒みたいだ。ならばあとは注ぎきるだけなのだ!
はぁあああああああああ!
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
「す、すごい! どれほどの魔力を持っているというの!?」
「ありえませぬ! これほどの魔力はありえませぬぞ!」
ふっふっふ、フォンイアも老人もびっくりしているぞ! この調子でどんどんと注いでやるのだ!
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
お、徐々にリングが輝きだしたよ! もっともっと込めてやるのだ!
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力切れの神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力臨界の神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力臨界の神器にMPを500注いだ}
リングがバチバチときらめきだした。いい感じだ! このまま限界まで注ぎ込んでやるのだ!
どりゃああああああああああああああ!!
{ログ:ゴーレムは魔力臨界の神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力臨界の神器にMPを500注いだ}
{ログ:ゴーレムは魔力臨界の神器にMPを500注いだ}
「ちゅちゅー!! ちゅ! ちゅっちゅっちゅ!!」
(親分親分ー!! やばいです! もうやばいですって!!)
あっ、パキンという音と共にリングが砕けてしまったのだ!? なんたることだ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
我は砕けたリングを見る。どうやら限界を超えてしまったみたいだな。ちらりとフォンイア達の方を見ると、フォンイアや老人たちが固まっている。すまん。注ぎすぎたのだ。
みんなが呆然と、固まっている間に我はせっせとリングの復元を開始する。はやく直さないとみんなが正気に戻ってしまう。
急げ! 直れ、直れ、直るのだ!
我は手早くリングを復元し、今度はほどほどに魔力を注いだ。こんなものだろうか。ちょっとずつ注いでいくとリングがバチと一回きらめいた。きっとこの辺りがリングに魔力が満ちた状態なのだろう。
ゆっくりと手を下ろし、リングの様子を見る。
あっ、リングの中央に光の球が浮かび上がってきた。きっとこれでいいはずなのだ!
我は失敗などなかったかのように、フォンイアに向かってどうよとアピールする。フォンイアは最初、ちょっと引きつった顔をしていたが、首をぶんぶんと左右に振って、ぱちぱちと頬を叩いた。
そして笑顔で我にお礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます! 銀色の御方。光の調律が完全に直った今、地下世界が闇に呑み込まれることはないでしょう。本当にありがとうございました」
そう言って、フォンイアとハイエルフ達は深々と頭を上げてきた。我はたいしたことはないさとフォンイア達に向かって、軽く首を横に振った。
これで一件落着だな。
あっ、壊されたって言ってたから、まだ落着してないのか。




