第110話 原因
我はゴーレムなり。
コエダのがんばりを無駄にするわけにいかぬ。我はすごい回復薬を薄めた水を御神木にやる。御神木の葉は青々と元気だ。枯れるような気配はない。
しかし、原因の調査か。植物のことなんて我は全然わからないのだけど、どうしたらいいのだろう。やはり、こんな時は我の特殊能力を使うしかないか。
我は御神木をじっと見つめる。
ゴーレムアイ、発動!
{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}
くっ、やっぱりゴーレムアイは使えないのか。全てを見通すことができる能力はないのだろうか。ゴーレムスキャンとかあったりしないのかな。
{ログ:スキャンモードを使用する場合は、目の前に手で輪っかを作る必要があります}
おっ、ゴーレムメモリーの時と同じように、我には隠された能力があったようだ。世界の声もいい仕事をしてくれるぜ!
我は目の前に手で輪っかを作る。手を双眼鏡のようにしているだけだが、こんなので本当にスキャンモードとやらが使えるのだろうか? とりあえず、いくぞ。
ゴーレムスキャン、発動!
お、おおおお! 確かにスキャン出来ている。御神木がレントゲン写真みたいな感じで透視できているぞ! でも、見にくいな。御神木のレントゲン写真を見ても、何が悪いかわからないのだ。
そのまま横にいるハクをスキャンモードのまま見てみると、やっぱりレントゲン写真みたいな感じで透視できている。しかし、骨格がわかるくらいで、へぇとしか言えない。
うん、これは必要ない。我はそっと手を下ろす。自動でここに異常がありますと表示されるのならよかったけど、これでは我には意味がわからない。念の為、ハクにも御神木を鑑定してもらった。
「御神木、コエダになった」
我はハクの言葉にうむと頷く。御神木はコエダが生命をかけて救ったからな。御神木にはコエダの生命が宿っているといいたいのだろう。我もその気持ちはよくわかる。コエダの生命を無駄にしないためにも、この問題を見事に解決してやろうじゃないか。
我はいったん森の調査に向かうことにした。
◆
森の木々も枯れ始めていたが、御神木と同調するように少しだけ力を取り戻しているようだ。
我はそっと木の下にしゃがみこみ、土をひとつまみすくい上げる。手の中の土をいじってみる。うん、特に変わっている感じはしない。我は土を地面に返し、キンキンと手を叩く。
ふーむ、よくわからんな。
あっ、カブトムシみたいな虫がいる。この世界にもカブトムシはいるんだな。
◆
翌日も朝から御神木にすごい回復薬を薄めた水をやる。すまんな、コエダ、我にはこの問題の原因がさっぱりわからぬよ。
我は御神木の前に座り、どうしたものかと考え込む。ないわーポーチの中から、コエダを包んだ布を取り出し、枯れたコエダを静かに見つめる。
コエダは問題の原因をわかりかけていたのだろうか。しかし、もう我の思いがコエダに届くことは決してないのだ。
「管理者さん、ようやく問題の原因がわかりました」
そう、コエダならきっと問題の原因を突き止めることができていたはずだ。ふっ、コエダの声の幻聴が聞こえるようではダメだな。我に立ち止まっている時間はないのだ。
「あの、管理者さん、聞こえてますか?」
もう、聞こえているのだ! なんだ、コエダの声をマネして我をからかっているのか?
我が周りを見回しても、ハクとジスポしかいない。うーん、考えすぎて疲れてるのかな。我が首を傾げていると、ハクが御神木を指さす。
「コエダ、しゃべれる、ようになった」
? 我はハクの方を見る。ハクは何を言っているんだろう。コエダは我の手の中で枯れ果てているよ。
「あの、管理者さん。そちらはボクの抜け殻みたいなものです。ようやく御神木と完全に同化できましたから、しゃべれるようになったのです」
御神木の方を見ると、目と口のところに穴が空いている。こ、コエダなのか!? ジスポもないわーポーチから顔を出し、呆然としている。
我が呆然と御神木を見つめると、コエダがすこし困惑したように声をかけてきた。
「えっと、すごい驚かれているようなのですが、もしかして、ボクが死んだと思っていましたか? でも、同化するって伝えてたと思うんですけど」
えぇ? もしかしても何も、死んだとしか思ってなかったよ! でも、たしかに同化するとか言ってた気がする。あれは、こういう事だったの!?
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
「ちゅちゅ! ちゅー!!」
(コエダが! 帰ってきた!!)
ジスポは間違いなくわかっていなかったな。我と同じだ。ハクは普通にしているから、わかってたのかも。たしかに、コエダが枯れた時も、平然としてたしな。
あれ、もしかして昨日、ハクが言ってた「御神木がコエダになった」ってその言葉のままの意味だったのか。へ、へぇ。我はちょっと深読みし過ぎちゃったな。
そうさ、ここは異世界。
ファンタジーなのだ! 不思議なことが起こっても不思議じゃないのだ!
◆
御神木コエダ。まさか、コエダが御神木になるとは思っていなかったからな。御神木なのにコエダ。ちょっと名前をつけるのを間違ったかもしれない。すまん。
我がコエダの名前について考えていると、コエダが聞いてますかと声をかけてきた。ごめん、聞いてなかった。エルフの代表のノッテやリロカばあさん達がコエダの周りに集まるのに時間がかかったから、ちょっと別のことを考えてたよ。
「では、最初から説明しますね」
我はコエダの言葉にうむと頷く。原因がわかったのであれば是非教えて欲しい。
「どうやら、今回の問題の原因は地下世界が関係しているようなのです」
「地下世界、ですか?」
「なんと、地下世界とは本当にあったのか!」
コエダの言葉にノッテが疑問の声をあげ、リロカばあさんは驚きの声を上げた。ファンタジー世界だから、地下世界があってもおかしくはない。我はコエダに先をうながす。
「はい、地下世界が闇に包まれてしまったのが原因みたいです。そのため、御神木を経由して地上の力を、地下世界に吸い取られ、力が弱まっていたというのが事の真相のようです。御神木があのまま枯れていたら、地上世界の全ての力がすごい勢いで吸い取られていたはずです。危ないところでした」
「コエダ様、地下世界では私たちにはどうしようもないということでしょうか?」
「いえ、ノッテさん。方法はあります」
「それはどのような?」
「今の御神木となったボクの力で、地下世界へなんとか1人だけ送り込むことができます」
へぇ、御神木になったコエダはすごいね。転移させれるのか、我もそんな力がほしい。
「一人だけですか」
「ノッテ、よく考えて送り込まないといけないよ。そうじゃないとまた御神木様が枯れてしまうことになる」
「そうですね、リロカ様。誰に行ってもらえばいいのでしょう」
ノッテとリロカばあさん、他のエルフ達が相談を始める。しかし、コエダの中ではすでに人選は終わっていたようだ。
「ノッテさん、リロカさん、行ってもらうのは管理者さんです」
あっ、我が行くのか。うん、いいよ。どんと来い! 我は地下世界だろうとどこだろうと行っちゃうよ! 我がこくりと頷く。
「すごいあっさりと了承してくれたので、ちょっと不安になりますけど、管理者さんなら大丈夫でしょう。ただ地下世界がなぜ闇に包まれたのかまではわかっていません。ですから、管理者さんには地下世界に光を取り戻すために行動していただきたいのです」
我は、任せろと頷く。名探偵ゴーレムに解けない謎はない。迷宮入りなんてさせないよ!
「地下世界は伝承ではハイエルフたちが住まう世界と言われていますのじゃ。そうじゃ、これを持って行ってくだされ」
そう言ってリロカばあさんが首からぶら下げていた木の板を我に渡してくる。魔道具だと我は装備出来ないんだけどな、と思って木の板を見てみると、<ハイエルフ・ラブ>と彫られていた。
なんだこれ?
我はリロカばあさんの方を向く。
「それは単なる木の板に文字を彫っただけのものですじゃ。しかし、昔から伝わるハイエルフを愛する者達が身につける木の板なのです。それを持っていれば、ハイエルフたちも悪くはしないはずですじゃ」
う、うさんくさい。とってもうさんくさいのだ。でも、ノッテたち、エルフの反応を見ると、さすがはリロカ様と言っている。郷に入っては郷に従えともいうし、ありがたく受け取っておこう。我はないわーポーチに木の板を入れる。
念の為、ジスポに食べたらだめだと言っておく。あくまでも預かりものだから、返さねばならん。というか、できるだけはやく返したい。
リロカばあさんが、我にだけ聞こえるようにこっそりとささやいてきた。
「可能であったら、ハイエルフ様のサインをもらってきてくだされ」
リロカばあさんの目がきらきらと輝いている。我にはとても断れないよ。我はわかったとリロカばあさんに向かってしっかりとうなずいた。我の中の木の板に対するうさんくささは跳ね上がった。
「それでは管理者さん。さっそく旅立ってもらいたいのですが、いいですか? ハク先輩はこちらに残って1日1度ボクにすごい回復薬入りの水やりをお願いします」
我とハクはこくりと頷く。
「それでは、管理者さんに世界の命運を託します!」
我はどんな風に転移させられるのだろうかとドキドキ待っていると、御神木コエダが大きくほえた。
「落ちろ!」
えっ、落ちろってどういうこと?
我の足下に底の見えない穴が空き、我はその穴に飲み込まれていった。
「ちゅちゅー!!?」
(お、落ちていますよ!!?)
あ、ジスポも一緒に来たみたいだ。




