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第109話 生命をかけて

 我はゴーレムなり。


 船旅の最中、エルフ達の一人が我に質問をしてきた。


「どうやったら、それほど自在に精霊を操ることができるのですか?」


 見た目は20代の好青年だが、エルフだからかなり高齢かもしれないと思いつつ、我は質問になんと答えようかと迷う。精霊を操ると言われても、我は別に操ってないしね。


 うーむ、と我は腕を組みながら考える。その様子にエルフはゴクリとのどを鳴らした。我はちらりとエルフに目をやる。


 なんか、期待されてるな。その期待に応えられるようなかっこいい答えを伝えたいところだが、いつフィッシュするかわからないからな。あまり時間をかけてはいられない。ありのままに伝えておこう。


 我はエルフに、少しの間代わりに釣り竿を持っておくようにジェスチャーで伝える。我はないわーポーチからノートを取り出す。最近、ジスポの毛でいっぱいになっているから、ちょっとノートと木炭が取り出しにくいんだよね。


 どうやらコエダの瓶が倒れないように「もふもふもーふ」の呪文を常時発動させているみたいなのだ。常時発動か、ジスポのヤツもなかなかかっこいいマネをするようになったものだ。


 我の場合、ラインライトを常時発動してても眩しいだけだからな。常時発動をさせる必要がないんだよね。我はノートにさらさらとメッセージを書き、エルフに見せる。


 <操るのではない>


「操るのではない、ですか? それは一体?」


 エルフがよくわからないという感じで聞き返してくるので、追加のメッセージを書く。


 <我は精霊とトモダチだから、頼んで協力してもらっているだけ>

 <だから、操るというのとは違う>


 エルフは我のノートを見て、驚いて目を見開く。ちょっ、釣り竿を手放さないでくれるかな!?


 我は慌ててエルフが手放した釣り竿をキャッチする。ノートと木炭を落としてしまった。エルフが「すいません」と言いながら、ノートと木炭を拾ってくれた。我はノートと木炭をないわーポーチにしまおうとすると、エルフが「そのページをいただくことは出来ませんか?」と頼んでくる。


 我はうむと頷き、もう一度エルフに釣り竿を持ってもらい、メッセージを書いたノートのページを丁寧に破る。そして、そのページの裏に大きくゴーレムとサインして渡してあげた。


 やはり、こういうものはサインがあるかどうかで価値が変わってくるからね。サインの練習をしていてよかったのである。


 我はいいことをしたなと気分よく、釣りに戻った。



 ◆



 ようやくエルフの国が近くなってきた。エルフの国は森林の中にあるらしい。


 おぉ、エルフの国がある森でも紅葉があるのだな。紅葉を見ると、冬が近づいてきているのを感じるね。でも、そんなに寒くないけど、ああも見事に紅葉するものだろうか?


 我が疑問に思っていると、エルフ達の顔色が変わっている。ちょっと青ざめているね。


「そ、そんな……」

「私たちが旅立つ前は青々とした森だったのに」

「こんなことは初めてだ」


 紅葉を初めて見るってことか? いや、紅葉は毎年あるだろうと我が訝しんでいると、コエダも「えっ、まさか」といい、回復薬の瓶から身を乗り出しているが、よく見えないようだ。


 我はコエダの浸かっている回復役の瓶をないわーポーチから取り出し、目の前の紅葉がよく見えるようにする。


「か、枯れかけている!? 森全体の力がなくなっています!」


 小枝が驚愕の声を上げる。まぁ、紅葉のあとには葉っぱが落ちる木がほとんどだから、力がなくなるのは仕方ないのではなかろうか。


 そんな我の疑問にコエダが的確に回答してくれた。


「あの、管理者さん。あれは紅葉しているのではないですよ? 紅葉であれば、ボクやエルフがこんなに驚いたりしません!」


 えっ、そうなの。じゃあ、目の前に広がるのはあまりよろしくない状態じゃないか。徐々に悪くなっていくみたいな話だったけど、急激に悪化してるみたいだ。



 ◆



 エルフの国の中に入ると、国全体がお通夜のような雰囲気に包まれている。なんというか、雰囲気が重い。もうこの世の終わりみたいな感じだ。


 エルフ達に案内され、国の代表をしているエルフのもとに行く。予言者と呼ばれるエルフも一緒みたいだ。


「よくぞお越しくださいました。私がこの国の代表をしているノッテです。こちらにいるのが、予言者のリロカ様です。御神木を救う希望があると予言した方にございます」


 ノッテの挨拶に続けてリロカが話を続ける。


「ただワシらの予想以上に急激に事態が悪化してしまった。これでははるばる遠路を来てもらったが無駄足になってしまったようじゃ。すまんな」


 リロカと呼ばれた年老いたエルフのおばあさんが、申し訳なさそうに我らに話しかけてくる。何歳くらいなんだろう。ノッテというエルフの男性は、そこまで年寄りって感じではないけど、リロカばあさんは、こけてケガをしたら、そのまま寝たきりになりそうだ。


 我がリロカばあさんの心配をしているとコエダがノッテに話しかけた。


「代表さん、ボクはコエダといいます。どうかボクを御神木のところまで連れて行ってくれませんか?」

「しかし、すでに御神木自体が枯れかかっています。私たちも手を尽くしたのですが、どうにもなりませんでした」

「ええ、だけど、管理者さんならなんとかできるかもしれません」


 そう言ってコエダが、我の方を見てくる。いきなり我の方に話が来るとは思わなかったので、びくっとしてしまった。ノッテとリロカばあさん、そして、我らとここまで一緒にきたエルフ達、みんなの視線が我に集まる。


 我は、とりあえず、その場の流れに乗ることにした。


 我は厳かにうむと頷いた。



 ◆



 御神木と呼ばれる木のもとまで来た。どれだけでかい木なのだろうかと、ドキドキしていたのだが、すごくちっちゃい木だった。玄関の横にある鉢植えの観葉植物みたいな感じだ。その小さな木が枯れかけていた。


 我が、冗談だろと思って、周りを見回すと、みんな深刻な表情をしている。とても我にどっきりを仕掛けているような雰囲気でもない。


「ご、御神木様が」

「泣くな、泣きたいのはみんな一緒だ!」

「……すいません」


 重い。非常に空気が重い。我にはとてもたいそうな木だとは思えないのだけど、みんながこれほどまで真剣になる木なのだ。きっと、我にはわからぬ何かがあるのだろう。


 コエダも「ひどい」と一言呟いたきり、黙ってしまった。


「ちゅ、ちゅー……。ちゅ、ちゅ」

(これほどの木が、枯れかけているのです……。ひどいですね、親分)


 ジスポにもどうやら、この木のすごさがわかるらしい。我は内心の驚愕を必死に隠し、そうだなと頷く。ここはみんなと同じようになんとひどいのだという雰囲気を出しておくことにした。


「ノッテさん、ボクを御神木に接ぎ木してもらうことはできますか?」


 コエダの言葉を聞いたエルフ達は、「そんなことは認められない!」と騒ぎ出した。しかし、コエダは動じることなく、ノッテをじっと見つめる。


「……それで御神木様が救えるのですか?」

「代表!?」

「御神木様に接ぎ木など認められません!」


 ノッテの言葉に驚いたエルフ達が口々に文句を言いつのる。


「黙れ! このままでは御神木様は長くはないのだ! お前達もわかっているだろう」


 ノッテの喝により、騒いでいたエルフが押し黙る。


「ボクの生命力を御神木に分け与えることで時間を稼ぎ、同化することで原因を突き止められると思います。御神木の先端の枝のところに接ぎ木をしてくれれば大丈夫です」


 コエダの言葉に、ノッテは苦渋の表情を浮かべる。なんというシリアス展開なのだろう。我は空気を読んで黙っておく。


 皆が沈黙しているところに、リロカばあさんが重々しく口を開いた。


「ノッテ、このまま森が死ぬのを受け入れるか、森を助けるために動くか、迷うことはあるまい。助けるために動いてみようじゃないか。もしも、ダメだったときはワシの独断だったと、ワシを処刑してくれたらええ」


 ノッテがリロカばあさんを見つめる。


「そうですね、助けるために最後まであがきましょう。失敗したときは、私の命で責任を取ります。リロカ様のようないつ死ぬかわからぬような方の命では皆納得しませんよ」


「言うようになったじゃないか、小僧が」


 とノッテとリロカばあさんが笑い合った。やっぱり、リロカばあさんはいつ死んでもおかしくないとみんな思っているのだなと我は一人うんうんと頷いた。


「コエダ殿、お願いします。御神木様をお救いください」


 ノッテが頭を下げてコエダに頼む。横のリロカばあさんも同じように頭を下げた。それを見ていた周りのエルフ達も静かに頭を下げてくる。


「ノッテさん、皆さん、頭を上げてください。御神木が枯れるとなると、エルフの皆さんだけの危機ではありません。世界の危機につながるのです。ボクにできる限りのことをやってみます!」


 この小さい木がどう世界の危機につながるのだろうか。我にはまったくわからない。ただ皆が「コエダ殿」と涙ぐんでいるのだ。うむ、きっと世界の危機につながるのだ。


 わからないことを深く考えてもわからないのである! とりあえず、話の流れに乗っておくのだ。



 ◆



 誰かが接ぎ木とやらをするのだろうと思っていたら、我がすることになってしまった。


 エルフ達は御神木様に傷つけるなどとんでもない、おそれおおくてできないと言い、さらにコエダが管理者さんにお願いしたいですと言ったことですべてが決まってしまった。


 エルフ達も皆すがるような目で我を見てくる。こうまで期待をされてはやるしかない!


 我はピンチに強いはずだ! 期待には応えないとね。


 我は厳かに頷き、コエダの指示に従って、接ぎ木をしていく。我が御神木に手をかける時に、後ろからエルフ達がすすり泣く声が聞こえてきた。いいことをしているはずなのに、泣かれてしまうとちょっと気まずいので泣くのは止めてもらいたいものだ。


 我はコエダと御神木を接ぎ木したところを布でぐるぐると巻き、すごい回復薬を布にかけた。そして、水で薄めたすごい回復薬を1日1度、我が水やりをすればいいらしい。


 さすがは、賢樹たちの知識と経験の結晶ともいうべきコエダなのだ。博識である。



 ◆



 コエダを接ぎ木したことで、御神木が徐々に力を取り戻し始めた。最初は疑っていたエルフ達も目に見えて御神木が回復しているので、今では我やコエダに協力的だ。


 ただ御神木に生命力をまわしているために、コエダ自身の生命力がどんどん衰えていっている。


 我は元気になーれと念を込めながら、今日も御神木にすごい回復薬入りの水をかけてやった。



 ◆



 御神木が元気になった。しかし、御神木が元気になるにつれてコエダの元気はなくなっていった。青々としていた葉がくすんでしまった。


 コエダは、今も必死に御神木や森の木が枯れ始めていた理由を探っているみたいだが、まだわからないらしい。


 そして、とうとうコエダはしゃべることもできなくなってしまった。



 ◆



 御神木が完全に元気になった。コエダの枝を除いてだ。コエダから生えていた葉は枯れ落ちてしまった。コエダはその生命をかけて御神木を救ったようだ。


 エルフ達も、コエダと御神木を心配して常に様子を見守っていたがどうにも出来ないみたいだ。



 ◆



 コエダがとうとう完全に枯れて御神木から落ちてしまった。コエダを接ぎ木した枝からは新たな葉が生え始めた。


 我はそっと枯れたコエダをつまみ上げ、布に包み、ないわーポーチの中に入れる。ジスポが涙を目に浮かべながら、枯れたコエダをないわーポーチの奥深くにしまい込んだ。


 エルフ達がコエダの為に泣いてくれているのが、コエダにとっても救いだろう。


 コエダよ、我がこの御神木やエルフの国の森が枯れかけている理由を解明して、森を元気にしてみせるのだ!


 安心して眠るがよい!

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