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SS第18話 コエダ

 ボクの名前はコエダといいます。


 この名前は管理者さんに名付けてもらいました。おかげでボクはかなり丈夫になったんですよ。さすがは管理者さんです。


 管理者さんに育ててもらった木のリーダー格、キイチから生まれたのがボクなのです。ボクにはキイチや他の木たちの知識や経験が詰め込まれています。ある意味、キイチの分身といってもいい存在がボクですね。



 ◆



 名付けをされる前にボクは死にかけました。


 生まれたばかりのボクは突然、地面に落下してしまいそうになったのです。そんなボクを颯爽と助けてくれたのが管理者さんです。管理者さんはやっぱり頼りになりますね!


 でも、生まれたばかりのボクには体力がありません。早く回復薬につけてもらわなければ。


「すいません、回復薬につけてもらっていいですか?」


 うつぶせのまま管理者さんにお願いします。管理者さんがボクをつまみ上げてくれました。ちゃんと回復薬につけてくれるみたいです。ありがとうございます、管理者さん!


 ボクの眼前に回復薬の瓶が迫ってきます。えっ、ちょっと待ってください。頭からつけられると困るのですけど。


 ボクが抗議の声をあげる時間などなく、回復薬に頭から突っ込まれてしまいました。く、くるしい。これでは回復薬を吸い上げることも出来ないし、葉っぱが回復薬の中に浸かっているから呼吸も出来ません!


 生まれたばかりなのに、生命の危機です! ボクはじたばたと両手を動かしてもがきます。でも、回復薬の外にでることができません! た、助けて! 管理者さん、助けて!


 ボクの必死の思いは管理者さんには届きません。実に満足そうにボクを見てきています。あぁ、そうだ。管理者さんはちょっとずれているのです! きっと、今のボクを見て、元気になったと勘違いしているに違いありません。


 ボクは回復薬の中で何とか反対に向きなおり、キイチに助けを求めます。どうか、ボクがおぼれていることを管理者さんに伝えてください!


「管理者さん!? 逆です、逆! おぼれてますよ!!」


 ありがとう、さすがはキイチです! 以心伝心です。管理者さんがようやく私を回復薬の中から引き抜いてくれました。


 管理者さんと目があいます。どうやら、ようやくボクにも顔があると気づいてくれたみたいですね。ふー、今度はちゃんと顔が出るように回復薬に浸けてくれました。


「あ、ありがとうございます」


 少し動揺をして息切れをしていたのですが、なんとかお礼を言うことが出来ました。ただまだ生まれたばかりなので、体力がありません。ちょっと休憩です。


 キイチがボクの代わりに管理者さんに、ボクをエルフの国に連れて行ってくれるようにお願いしてくれました。そう、きっとエルフの国では今、よくないことが起ころうとしているにちがいありません。


 これは全ての植物にとって、いえ、生命にとっての危機につながる可能性もあるのです。なんとかエルフの国まで行かないとなりません。それがボクを生みだしたキイチ達、みんなの結論なのです。


 管理者さんがボクをエルフに渡せばいいだけなのかをキイチに確認したので、ボクはキイチに向かって首を横に振ります。今のままではとてもボクが生きたまま、エルフの国までたどり着けません。


 ボクもキイチたちのように、管理者さんから名前をつけてもらって、存在の格を上げてもらわなければすぐに枯れてしまうでしょう。何より管理者さんに名前をつけてもらい、近くにいるとどんどん力がわいてくるのです。常に栄養を送られてくるような状態なので、ボクもすくすくと育つことが出来るのです。


 キイチの説明を聞いて管理者さんは、快くボク達の願いを聞き入れてくれました。さすがは管理者さんです。勘違いもするけど、決断するのが実に早いです。


 そしてボクにコエダという名前をつけてくれました。管理者さんはボクの見た目からこの名前をつけてくれたんでしょう。


 ただ、ボクも成長するので、いつまでも小枝のままではありません。ボクが立派な枝に育っても、コエダです。


 生まれたばかりですが、ちょっと人生について考えてしまいました。



 ◆



 エルフの方達にもボクや管理者さん達が一緒にエルフの国に行くことを了承してもらえました。話を聞いた限り、急激に悪化しそうではありませんが、できるだけ急いでエルフの国に向かいたいところです。


 ただエルフの方達も長旅で疲れているので、2日ほど休んでからの出発になります。


 その間、ボクは管理者さんのないわーって柄のポーチにお邪魔して、いろいろなところを見て回りました。ちなみにボクは日光に当たらないといけないので、ポーチのふたを開けた状態で入れてもらっています。


 そして、回復薬にも浸かっていないといけないので、ポーチの中で瓶が倒れないようにジスポ先輩に常に瓶を押さえてもらっています。小さい身体ながらも、ずっとボクの瓶を支えてくれるとはさすがは管理者さんの1の子分ですね。


 ただ管理者さんがかなり動き回るので、瓶を押さえているジスポ先輩はかなり疲労していきます。疲労を回復させるべく、ボクは定期的に回復薬をすくい上げ、ジスポ先輩へ回復薬を提供します。そうすることでジスポ先輩の体力が回復し、またがんばってくれるのです。


 どんな疲れた状態でも、ジスポ先輩は一日一度の管理者さんの身体磨きには手を抜きません。いつでも全力な姿勢には頭がさがるばかりです。管理者さんの身体磨きを見ていて気づいたのですが、ジスポ先輩はどうやら魔法で毛を自由自在に増やしたり、操れるようです。


 ボクはポーチの中を一杯にするくらいに常に毛を増やしておけば、回復薬の瓶が倒れなくていいのではと提案したら、愕然とした表情をした後、ボンと毛を増やされました。ジスポ先輩も管理者さんの影響をかなり受けて、うっかりしているようですね。



 ◆


 

 船に揺られながら、エルフの国へと向かいます。管理者さんは精霊に好かれているので、精霊達が協力的でとても快適な船旅をおくることが出来ます。


 これほどまで精霊に協力してもらえるのは本当にすごいことです。ただ管理者さんはそのすごさにまったく気がついていません。釣り糸を海にたらしてほのぼのとしています。


 うーん、こういうおおらかなところが精霊達に好かれている理由なのでしょうか。



 ◆



 海には危険があります。今も遠くから巨大な魚の群れが船に向かって進んできています。あれは、ギョットビウーオというぶつかると船に大きな穴を開けてしまう魚の魔物の一種です。


 ボクはあわてて管理者さんに「危ないです!」と叫びました。エルフ達もボクの声を聞いて、慌てて精霊魔法を使おうとしていますが、間に合いそうにありません。


 横を見るとハク先輩は特に気にした様子もなく、管理者さんと同じように釣り糸を海にたらしたままです。ジスポ先輩にいたってはくーくーと寝ています。


 こ、こんなピンチな時になぜ先輩達は落ち着いていられるのでしょう!?


 管理者さんは釣り竿にアタリが来ていたようで、ボクの言葉でちょっと集中力を乱してしまったみたいです。もうという感じで、ギョットビウーオ達の群れに視線を向けます。管理者さんが手を振るわれると、巨大な光線がギョットビウーオ達を消し去ってしまいました。


 ボクは突然のことに理解が追いつきません。今のはなんという攻撃なのでしょうか?


 エルフ達も、理解が追いついていないみたいです。そうですよね? 今の攻撃ってありえないですよね? ボクは自分がおかしいのではなく、管理者さんがおかしいのだと納得しました。


 管理者さんはきっと特別なのです! そうでなければ、ボク達が意識を持ってしゃべれるようになるわけがありませんから。


 ボクが管理者さんをおそるおそる見上げると、管理者さんは釣り糸を引き上げて、餌がなくなっているのでガッカリしています。管理者さんは、釣り針に餌をつけ、また海に釣り糸をたらしました。


 先輩達は管理者さんの力を知っていたから落ち着いていたのですね。ボクも先輩達のように管理者さんを信頼していきます!



 ◆



 いよいよ、エルフの国につきます。


 御神木がどうなっているのか、気になりますが、管理者さんと一緒ならきっとなんとかできるはずです!

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