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第108話 衝撃の事実

 我はゴーレムなり。


 我は朝一番にキイチのところまでやってきた。キイチの横にある丸太のイスによっこらせと腰かける。


「おはようございます、管理者さん。今日は早いですね。何かご用ですか?」


 我もキイチにおじぎをし返して、ないわーポーチの中から3つの立て札を取り出す。そして、ゴーレム相談所に人が全然来てくれないことを身振り手振りで説明する。


 キイチは適度に相づちを打ちながら、我のジェスチャーを理解してくれる。さすがは賢樹と呼ばれるだけのことはあるな。一通り説明し終わって、どうすればよいかキイチに聞いてみた。


 キイチはうーんと顔をしかめている。やっぱり、キイチにも答えが出せない難問なのだろうか?


「管理者さんのところに、人が全くいかない理由はいくつか心当たりがあります。管理者さんと私たちの一番の違いってどこかわかりますか?」


 なんと、キイチは我の説明を聞いただけで、いくつかの理由がわかってしまったみたいだ。賢樹おそるべし!


 えっと、我とキイチ達の違いだよね。我は手を叩く。キンキンという金属の音がする。うむ、やはり、一番の違いと言われたら、我はメタルな金属。キイチ達は植物。それが一番の違いだろう。


 どうよ、そうだろうとキイチの方を見ると、「違います」と一刀両断された。


 違うのか。金属と植物の違いではない。我とキイチ達の違いは種族なんて小さい枠組みではないということか。木陰があるかどうかも違うよな。パラソルを設置したって伝えたもんな。


 いや、でも、そういう足下、基本的な部分の違いを言っているのかもしれない。我はキイチの木陰と我の影を指さして、影の大きさが違うと言うことかと確認してみる。


「違います」


 また、一言で切って捨てられた。なかなか、辛辣ではないか。


 うーん、我とキイチの違いね。金属、植物。人が相談に来ない、人が相談に来る。ひょっとしてあれか、こちらの世界にその概念があるとは思わなかったが、賢樹って呼ばれるくらいだし、知っていてもおかしくないのかもしれない。


 我はちらりとキイチの方を見る。ほら、もっと大きな違いがあるでしょと言わんばかりに我の言葉を待っている。そんなにわかりやすいものなのか。


 我は信じてないのだが、きっとキイチたちからはマイナスイオン的な何かが出ているのだろう。それが人間たちには心地よいのだ。それが我とキイチ達の大きな違いなのだ!


 マイナスイオンをジェスチャーで伝えるのは難しいのである。なんとか、伝えようとするのだけど、まず、マイナスというのを伝えるのが難しい。そして、イオンだよ。イオンなんてしゃべれたとしても、上手く伝えられないよ!


 キイチは我の必死のジェスチャーを眺めつつ、また「違います」と一言伝えてきた。


 マイナスイオンが伝わっているとは思えないから、まったくの見当違いだったらしい。


 我は腕を組み、首を傾げる。我とキイチの違い、金属か植物か以外に大きな違いがあるというのだろうか。我もキイチも心があり、生きている。その事実の前には、他のことなんて些細な問題ではないか。


 そうさ、違うか、違わないかなんて小さい問題なのだ! 今はそんな小さな問題よりも、ゴーレム相談所に人が来ないという大問題について話し合おうではないか!


 我が一人で手を上げたり、キイチの方に手を差し出したりしていたら、キイチは話が進まないと思ったのか、どうやら答えを教えてくれるらしい。


「あの、一番の大きな違いというか、相談者が来ない理由は、管理者さんがしゃべれないからだと思いますよ」


 !!!?


 な、なんだと!? そんなことで!?


 そんな小さなことで誰も相談に来なかったの? 嘘でしょ!!! 嘘といってよ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}


 いや、でも、しゃべれなくても意思疎通はできるよ。我ってば文字を書けるようになったからね! 我が筆談で相談にのれるよとキイチに訴えると、キイチは目をつむった。


 でしょ? 筆談なら意思疎通が出来るんだから、キイチのいうしゃべれないというのは小さい問題でしょ?


 我がキイチにそれは違うでしょという目を向けていると、キイチはゆっくりと目を開き、我に衝撃の事実を伝えてくる。


「管理者さん、非常に言いづらいのですが、この国の人はあまり文字が読めませんよ」


 えっ!?


「前国王時代まで、文字は上流階級だけのものだったようです。だから、私たちに相談に来るような人たちは文字が読めない人がほとんどですよ」


 じゃ、じゃあ、立て札を立てて待っていても、我がたんに座って休んでいたくらいにしか見られていなかったって事か。な、なんてこった。


 リサーチ不足だったのだ。


 理由がわかったからには、こうしてはいられないのである! 我はキイチにありがとうとおじぎをして、ハクの執務室へと急いで向かうことにした。




「他にも、理由はあったんですが、もう行ってしまいましたね」


 キイチは最後にぽつりと呟いた。



 ◆



 我はハクの執務室に向かおうとしたが、この時間は会議室にいるはずだということを思い出した。我は会議室に向かい、会議室の扉を少しだけ開ける。この時間帯は、ちょうど朝のミーティングをしている時間のはずなのだ。うん、いつも通りやってるね。


 我は最初の1週間だけ出たのだけど、特にすることもないので、ミーティングに出ることを止めたのだ。


 我はこっそりと会議室に入り込む。


 バタン!!


 と勢いよく扉が閉まってしまった。この王宮の扉は大きくて重いんだ。だから、気を抜くと今みたいに勢いよく扉が閉まってしまうのだ。


 大きな音がしたせいで、みんなの視線が我の方に集まってしまった。じゃまをするつもりはないから、続けてくださいと身振り手振りでアピールする。


 しかし、何か急ぎの用があるのではと文官長が聞いてくるので、我はハクの横に行く。壁際にあった丸イスを持って来て、その上に立ち上がる。普通に座ったら、我の頭しか机から出ないから、仕方ないのだ。


 我はないわーポーチからノートを取り出し、文章を書く。


 この国に足りない物は、教育なのだ! 10ページにも及ぶ熱いメッセージを書いて、会議室に集まっている者達に見せた。


 会議室内は静まりかえった。


 教育の大事さにようやくみんな気がついたのだろう。うむ、うむ。しかたないさ。今までは生きることに必死で、教育にまで気が回らなかったのだろうからね。気づいたこれから教育に力を入れていけばいいさ!


 そんな我にハクが声をかけてきた。


「ゴーレム、学校、すでに、作ってる。先月、から、スタート、したよ」


 えっ、マジで!?


 なんだ、みんな教育の大切さに気づいて、すでに始めてるんじゃないか。なかなかやるね! 感心した!


 我は丸イスを壁際に戻し、扉の前まで移動する。お邪魔しましたとノートに書いて皆に見せ、深々とおじぎをして会議室を後にした。



 ◆



 我は再び、キイチのところに戻り、学校が作られたことを話した。これで、何年か先なら我のゴーレム相談所にも相談にやってくる人がいるであろう。


「そうですね、何年か先になるでしょうね」とキイチが相づちをうってくれる。


 我は、それまでは開店休業さと肩をすくめて見せた。


「そういえば、管理者さん、占いができたんですね」


 おっ、そこに気づいてくれた? 我はこくりと頷く。


「どんな占いができるんですか?」


 我はその辺りに咲いている花をプチッと引っこ抜く。そして、キイチに花占いの仕方を教えてあげたのだ。花びらを一枚一枚ちぎっていくのである。


「へ、へぇ、それはすごいですね」


 我はうむと頷く。占って欲しいときは声をかけてと言って、その場を後にした。



 ◆



 半年があっという間にすぎた。我はキイチ達に手が掛からなくなった後は、砂漠の緑化運動の方をがんばった。我が新たに担当したエリアはジャングルのように木々が生い茂ったのだ。


 他のエリアも順調に育っていたみたいだが、我のところが一番育っているようだった。ふっふっふ。やはり、愛情は大事なのである。


 そして、砂漠に生えていたサボテンにも、名前をつけて、サボテンの周りの地面を少ししめらせる程度の水を与えていたら、サボテンにもキイチ達と同じように顔ができ、しゃべり出した。サボテンは、キイチ達のように賢くはないようだが、いつも陽気な唄を歌っている。


 うむ、楽しそうでなによりなのである。



 ◆



 そんなある日、キイチのところに、エルフが訪れたというので、我はキイチのところに向かった。エルフとキイチの話はすでに終わっていて、エルフ達はいったん宿に向かったらしい。


 キイチから話を聞くと、どうやら、エルフの国にある御神木の元気がなくなりつつあるらしい。その状況に危機を覚えたエルフ達はいろいろな方法を試して御神木に元気を取り戻そうとしているそうだが、効果がないという。


 そんな時にエルフの国の予言者がこの国に御神木を救う希望があると言い、エルフの国から使者が来たそうだ。エルフ達は王であるハクにも面会を求めているそうなので、そちらで会えるでしょうとキイチが教えてくれた。


 エルフの国か。そして、エルフ達が御神木という木も気になるね。木も気になる。


ふふふ、我ってば、うまいこというな。我が自分の言葉に微笑んでいるとーー表情はないけどーーキイチが真剣な表情で我に頼み事をしてきた。


「管理者さん、どうか、私をエルフ達の国に連れて行ってくれないでしょうか?」


 我は首をひねる。キイチを引っこ抜いて運べと言うことだろうか? 我はキイチの周りをぐるぐると回る。まぁ、キイチがどうしてもというなら、できないことはないな。


「あ、あの、別に私を引っこ抜かなくてもいいですよ。回復薬の入っている瓶を持っていますか?」


 我はこくりと頷き、ないわーポーチから回復薬を取り出す。それを確認したキイチはむむむと顔をしかめ始めた。すると、キイチの鼻の部分の枝から、にょきっと葉っぱと小さな枝が2本生えてきた。そして、ポテッと落ちたではないか!?


 我は慌てて、手を差し出す。


「すいません、回復薬につけてもらっていいですか?」


 キイチとは別の声だ。我の掌の上にあるキイチの鼻だった枝から声が聞こえてくる。我はその言葉に従い、回復薬に枝を突っ込む。


 枝から生えた小さな枝が、ばたばたと暴れ回っている。うん、元気になった。


「管理者さん!? 逆です、逆! おぼれてますよ!!」


 キイチが慌てて声をかけてくる。逆? 我は瓶から小枝を引き抜く。あっ、本当だ。小枝にも目の穴が2つと口の穴が1つあった。今度はちゃんと顔が出るように回復薬の中につけてあげた。


「あ、ありがとうございます」


 すこし息切れをしつつ、小枝がお礼を言ってくる。我はうむと頷き、小枝に気にするなという視線を向ける。キイチが小枝の後を引き継いで、我にどうしてほしいのか伝えてくる。


「その小枝をエルフの国まで連れて行ってください。その小枝には、今までの私たちの知識と経験を詰め込んでいます。きっとエルフの国でも役立つはずです」


 我はこの小枝がつかっている回復薬をエルフに渡せばいいのか、キイチに確認してみる。


「いえ、管理者さん自身に持って行ってもらいたいのです。小枝にも名前をつけてあげてください。そして管理者さんと一緒であれば、エルフの国まできっとその小枝は枯れることなくたどり着けるはずです」


 なるほどね。とにかく、我が持って行けばいいのか。わかったよと我はうなずき、小枝がつかっている回復薬を持って、ハクの執務室へと向かった。


 小枝の名前か。小枝、こえだ、コエダ。コエダにしよう。うん、良い名前だと思う。



 ◆



 ハクの執務室に行き、我はエルフ達と一緒に、エルフの国へ向かうことにしたことを伝える。まだ、エルフには我が行くと伝えていないけどね。


 ハクはこのまま女王として残るか聞いたところ、首を横に振った。我と一緒に来るらしい。


 ハクはみんなから慕われているから、一緒に行くのは難しいのではないかと思ったのだけど、案外すんなりとみんな納得してくれた。ちょっと意外だ。


 あっさりしてるなと思ったが、どうやら、この1年ほどの間に、ハクが根気よくみんなを説得をしていたという。レガリアの指輪をつけたままで、我と一緒ならばという条件付きで旅に出ることをみんなは納得してくれたそうだ。あっ、忘れてはいけない一番の条件は必ず無事に帰ってくることらしい。


 みんなが納得しているのであれば、それでいいやと思い、深くは追求しなかった。



 ◆



 エルフ達が、ハクのもとに面会に来た。キイチから聞いていたのとほぼ同じ内容をエルフ達はハクに説明した。ハクと我、そしてコエダが共に行くことを伝える。


 エルフたちは、エルフの国への道中で、女王様の身辺の安全を保証できないかもしれないからと最初は渋っていたが、ハクの3つ星のダンジョンカードと我のブラックカードを見て、なんとか納得してくれた。


 自分の身は自分で守れるので安心してほしいのである! エルフたちからしても、コエダを連れて帰りたいという気持ちが強かったみたいだからね。



 ◆



 2日ほどエルフたちは体を休め、すぐにエルフの国へと向かうことになった。砂漠の王国の者たちが、我らを見送ってくれる。


 ……うん、ちょっと大げさに言った。我らというよりはハクを見送ってくれてるね。


 ハクと砂漠の者たちの別れを記念に一枚心に刻む。なかなか感動的な光景だ。


{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。女王と国民を記録した}


 「管理者さんのところには誰も来ませんね」


 我が手に持っている回復薬の瓶に浸かっているコエダが声をかけてきた。我はコエダの言葉に静かに頷く。べ、別に我は寂しくないからさ。


 すると王宮の方からキイチ達が声をそろえて「いってらっしゃーい!」という声をかけてくるではないか! キイチ達は本当に立派に育ったのだ!


 ありがとう、キイチ達! 我もハクと一緒に必ず帰ってくるからな! こうして我らは砂漠の王国を後にしたのであった。


 「ゴーレム、船、で、行く」


 あっ、そっちね。OK、OK。

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