第107話 相談
我はゴーレムなり。
今日も我は朝から王宮の周りに植えたキイチ達の水やりをがんばっている。100本もあるのでなかなか大変なのだが、日々の努力が大切なのだ。がんばろう。
そんなキイチ達の木陰でちらほらと休む人も現れ始めた。うむうむ、良い感じではないか。
あっ、そうだ、イスでも作って、木の側に置いてみようかな。我は材木屋に行き、丸太を購入する。我くらいのレベルになれば、鉄の釘なんて使わずにイスを作れるのだよ。
ふっふっふ、みんなが驚くところが目に浮かぶのだ。
我は丸太を輪切りにして木の側に1つか2つずつ置いていく。うむ、素敵な丸太イスだ。なかなかいいと思う。手間をかけなくても簡単なイスは出来るものなのだ。
◆
それからしばらくは何事もなかった。我は砂漠の苗木を植えたエリアをたまに見にいったり、毎日キイチ達に水やりをしたりするだけの日々だった。
◆
ある日、キイチに水をやろうとすると、「管理者さん、いつもありがとうございます」と誰かが我に声をかけてきた。周りを見ても誰もいない。我の空耳かと思い、首を傾げていると「こっち、こっちです。キイチです」と話しかけてくる。
はぁ? 木がしゃべる事なんてないだろうと思いつつも、キイチの方を見てみる。すると口を動かしながら、キイチが笑顔で我に話しかけて来るではないか!
「管理者さん、いつも水やりをしてくれてありがとうございます」
はぅあ!!? キ、キイチがしゃべったのだ!? ま、まさか木がしゃべるとは!?
我はジョウロを落として、キイチの方を見て固まってしまった。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
ここはファンタジーな世界なのだ。不思議な世界で不思議なことが起こるのは何もおかしくないだろう。むしろ、顔ができたのだから、今までしゃべらなかったのがおかしいのかもしれない。
我は一人で腕を組み、なるほどな、と頷く。
{称号【植物のトモダチ】を得ました}
{称号【植物のトモダチ】を得たことにより、スキル【光合成】を得ました}
おお、また新たな称号とスキルを得てしまった。光合成って我に葉緑体はないから、これもまた、使えないスキルなんだろうな。我が新たなスキルについて考えていると、キイチがまた話しかけてくる。
「おどろかせてしまってすいません。ただ、これからは普通の水をたまにかけてもらえれば大丈夫ですとお伝えしたかったのです」
えっ、それはどういうことだろうと思い、ジェスチャーでキイチに質問してみた。
「私たちも大きく育ったので、根を十分にはりめぐらせることが出来ました」
ほう、そんなに育ったのか。確かに、すでに立派な木に育っているからな。幹の太さが我の身長と同じくらいになっているもんな。
「そのため、今までのように回復薬を薄めた水をかけてくれなくても大丈夫です。管理者さんが毎日たくさんのお金を払って回復薬を買ってくれているのを私たちは知っています。もう私たちにお金を使ってくれなくても大丈夫なので、管理者さん自身の為にお金を使ってください」
な、なんと!? キイチ達は我の懐具合を心配してくれていたのか! 心優しい木に育ってくれたものだ! 我が愛情を込めて育てた甲斐があったのである!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
我はキイチに我の懐具合を心配しなくてもいいことをジェスチャーでなんとか伝える。他の木もしゃべれるのかと思い、キイチの左右の木に目をやってみる。キイチはそんな我の様子で、我が何を疑問に思っているのか察してくれたみたいだ。なんと空気が読める子なのだろう。
「他の仲間達も私と同じようにしゃべることが出来ます。そして、根が近くの木とつながっているので、他の仲間達との意思の疎通もできているのですよ」
へぇ、すごいものだと我は一人で感心する。
「ここまで育ててくれた管理者さんに私たちはお礼の品をお渡ししたいと思っています。どうか、お納めください」
キイチがそう言うと、キイチの口の中に光り輝く一粒の種が現れた。花が咲いて実になるとかじゃないんだな。口からとは、我の予想を簡単に超えてくれるぜ。
我はキイチの口の中から光輝く種を手に取る。キイチは我が種を手に取ったことを確認して笑顔になる。
「それは奇跡の種です。きっと管理者さんの困っていることや悩みを解決してくれるはずですよ」
奇跡の種とはすごそうな名前だ。困っていることや悩みを解決してくれるとは、すごいものをもらってしまったのかもしれん。でも、困っていることなんて何かあったかな。
はっ!!?
もしかして、これでないわーポーチの呪いが解けるんじゃないだろうか!? おっし、きた! 我の時代がやってきた! これでこの呪いのアイテムともさよならなのだ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
でも、どうやって使えば良いんだろう。ないわーポーチに触れさせたらいいのかな。とりあえず、ないわーポーチにくっつけてみよう。
我がそう思い、奇跡の種をないわーポーチに近づける。するとひょっこりとジスポが顔を出した。
「ちゅちゅー? ちゅちゅ!」
(おやつですか? ありがとうございます!)
そういうやいなや、ジスポは我がつまんでいた奇跡の種をさっとその手につかみ取り、かりかりかりと食べきった。
「ちゅーちゅ!!」
(うっまーーーーーい!!)
えええええええ!? 奇跡の種が。ないわーポーチの呪いを解けるかもしれない奇跡の種が、ジスポに食われてしまったのだ!? なんてこった!?
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}
ジスポはもぐもぐと奇跡の種を咀嚼している。我とキイチが呆然とジスポを見ていることには気づかずに、ジスポは両手をほっぺたに当てて、実に幸せそうな表情だ。
「ちゅちゅちゅ」
(口の中でとろけていくのです)
ごくんとジスポは種を飲み込んだ。そして、実に良い笑顔で我の方を向いて言葉をかけてくる。
「ちゅちゅちゅ! ちゅちゅ」
(また食べさせてくださいね! お昼寝お昼寝)
そういうと、ジスポはないわーポーチの中に潜り込んでいった。我はキイチの方を見ると、キイチはそっと目をそらす。
「すいません、奇跡の種は一度生みだしてしまうと次に生み出せるのは1000年後なのです」
我はキイチの言葉を聞き、がっくりと地面に両手をついてうなだれる。な、なんてこった。せっかくないわーポーチを外せるかもしれなかったのに。
ジスポにはバツとして、その日の晩ご飯を抜きにした。
◆
キイチ達が話せるようになってから、徐々に変化が現れ始めた。あの後、毎日水をくれなくていいとキイチに言われたので、2、3日に1度だけ水をやるようにしていた。そのために知らなかったけど、なにやら、キイチ達の横に座って話し込む者達が増えだしたのだ。
2人でイスに座って話し込んでいるのなら、まだわかるんだけど、1人で木を相手にしゃべっている者がいるんだよね。
最初見たときは、何をしているのだろうと思ったのだが、どうやら、人には相談しにくいことを木に相談しているそうなのだ。ぼけているのかと思ってしまい申し訳ない。キイチ達、木々は口がかたいらしく、人に相談できないことも安心して相談できるらしい。
しかも、キイチたちの助言はなかなか素晴らしいという。賢者ならぬ、賢樹と呼ばれはじめているそうだ。
さすがは、我が育てただけのことはある。子は親に似ると言うし、我の頭脳のきらめきがキイチたちに受け継がれたのだな。うむ、うむ。立派に育ったのだ。
まだ植えられて1年も経っていないのに、恐るべき成長力である。
そんな木々の中には特に人気が高い木もあるらしい。
それはハナシリーズの、ハナミやハナコだ。どうやら、ハナシリーズは恋愛相談がメインで、悩める女性たちに恋のアドバイスをしているという。ハナミやハナコのところに行くと、「1週間先まで予定がうまっているのですよ、オホホホ」と笑顔で教えてくれた。
一週間先までか、我なんてその日の予定すら未定なのに。木々はみんな充実した毎日を送っているようなのだ。ちょっと負けた気分になってしまうな。
ハナミ達とは反対に、キシメンなどは切られそうになったことがトラウマになって、人間不信に陥っているそうだ。そのため、キシメンはまったく相談には乗らないそうだ。木々にもいろいろあるものなのだね。
それにしても、ハナミやハナコに負けていられないな! 我もがんばるのである!
◆
翌日から我もキイチとキジタの間に丸太のイスと机を用意し人生相談を受けることにした。机の上に木のオシャレな立て札を立てる。
<ゴーレム相談所>
<占いもするよ!>
ふっふっふ、他の木達にはできない占いをしてアピールするのだ。差別化は大事なのである。
しかし、なかなか相談をしにくる人がいない。キイチやキジタには相談に来る人がいるのに、おかしいな。なんでだろう。
1日目は誰も来ずに日が暮れてしまった。初日だから仕方がないね。
我は<ゴーレム相談所>と<占いもするよ!>の2つの立て札をないわーポーチにしまい、王宮へと帰る。
◆
相談所を開始して2日目。我はこの日も朝からゴーレム相談所を開いている。昨日はあれからなぜ人が来なかったのか考えたのだ。もしかしてお金を取られると思って、誰も相談に来なかったのかもしれない。
<ゴーレム相談所>
<占いもするよ!>
<無料!本当に無料!>
立て札を1つ追加して、お金を取らないことをアピールしたのだ。
これで相談に来る人がいっぱいになるだろう。うむ、うむ。
これで我も、ハナミやハナコのところに行って、『我は2週間先まで予約がうまっちゃっててさ、大変なのだよ』と言える日が近づいたのだ。
ふっふっふ、見ておれよ。ハナミ! ハナコ! 恋バナだけが時代に求められているんじゃないってことを教えてやるのだ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
我はうきうきと相談者が来ることを待っていたが、この日も誰も来なかった。おかしい。なぜ来ないのだろう。キイチ達のところには相談者が来ているんだけどね。
◆
我はさらに一晩考えて、わかったのだ。原因は日差しだ。キイチやキジタ、ハナミやハナコにあって我にないもの。それは木陰なのである。
そりゃ、日差しが強くて暑いからね。ちょっと相談者にやさしくない環境だった。
我はゴーレムで、日差しや暑さもへっちゃらだったから、気づかなかったのだ。うっかりしてたよ。
我は王宮内にしまわれていた大きなパラソルを借りてきて、ゴーレム相談所の机の横の地面に突き刺した。これでゴーレム相談所にも日陰ができたのである。ばっちりだ!
相談者達よ、どんと来るがいいのである!
せっかく日陰を作ったのに、この日も誰も相談に来なかった。うーん、おかしい。なぜだろう。
◆
良い考えの浮かばなくなった我は、翌朝、キイチに相談することにした。
キイチよ、どうか我にいい解決策を教えてくれ。




