第106話 やり直し
我はゴーレムなり。
そう、我は間違えたのだ。精霊達に聞いても無駄だったのだ。こういう時はトモダチではなく、プロに相談するべきなのである!
我は緑化の指揮をしている職人のおじいさんに、どうすればいいのかノートに文字を書いて質問する。でも、このおじいさんはあんまり字が読めないみたいだ。うーむ、どうしよう。
あっ、ちょうど良いタイミングで文官の人がやってきた。文官の人に文字を読んでもらって、おじいさんからアドバイスをもらおうではないか。
へぇ、ほほう、なるほどね。さすがはプロだ。いいことをいうではないか。
うんうん。なるほど。わかった! 我は職人のおじいさんと文官にありがとうと伝え、おじぎをしてから、我が苗木を植えたエリアに向かう。
砂漠の王国で売られている苗木だから、どれも砂漠で育つものだと思ったけど、違うようだな。これらは王都内で植えることを想定して売られていたらしい。なんてこった。はじめから、それを知っていれば、砂漠にこんなに植えなかったのに。
最初から、プロに話を聞いておけばよかったよ。
我は仕方ないと思い、一度王宮へ戻る。そして、ハクにリヤカーを出してもらった。その後は、木材を売っている店に行き、木の板を2枚買う。リヤカーの車輪では砂漠を走りにくそうだからね。ソリみたいに使えるように木の板をリヤカーの下につけるのである。
ふっふっふ、こういうカスタマイズは腕の見せ所なのだ!
◆
リヤカーの改造を終えた我は、元気のない苗木のもとに向かう。
ごめんよ、苗木達! お前達にあった場所に植え直してやるからな! リヤカーには一度に5本から6本の苗木しかつむことができない。根が傷まないように多めに土をとっているからしかたないのだ。
我は苗木をつんだリヤカーを引っ張り、王宮へと戻る。王宮の周りなら植えても大丈夫とプロが教えてくれたからな。我は王宮の周りに植えていくのだ。
王宮の周りに緑が少ないからちょうどいいと思う。木陰があれば、そこで休む人もいるだろう。うむ、ナイスアイディアなのだ。
我は穴を掘って苗木を植え直した。苗木の根元をぽんぽんとたたき、元気になれよと念を込める。
なんとか、2日で全ての苗木を植え直すことが出来た。
でも、まだ苗木達に元気がない。なにか苗木を元気にするような方法はないのだろうか。人間だったら、栄養ドリンクとかを飲むこともできるだろうけど、植物だしな。
あ、栄養ドリンクか。なるほど。いいことを思いついたのだ!
我は王都内で回復薬を買う。それをジョウロの中に入れる。1本ではジョウロが一杯にならないので、水で薄めることにした。苗木よりも回復薬の方が高いから、ちょっとせこくなるのは仕方がない。
我は苗木の一本一本に薄めた回復薬入りの水をかけていく。
元気になるのだ、お前達!
◆
砂漠の我のエリアには、みんなが植えていたのと一緒の苗木を植え直す。えっさ、ほいさ。我は一人でもがんばるのだ。
我が前に買った苗木より、この苗木の方が安いんだよな。高ければ良いというものではないのだね。
我が苗木を植え直していると、この間、我がアドバイスを求めた精霊達が近寄ってきた。苗木の周りを飛び回り始めた。
「植え直してる」「うん、うん」「これなら大丈夫そう」「最初から、これ植えたらよかった」「「「だねー」」」
いいたいことをいったのか我に手を振って飛び去っていった。たしかに精霊達のいう通りなのではあるが、なんとも歯がゆい。ぐぬぬ。
それにしても、精霊とは自由気ままなヤツらなのだ。
◆
今日も我は薄めた回復薬入りの水を苗木達にかけていく。うむ、どうやら、我の考えは間違っていなかった! 日に日に元気を取り戻していっている。すくすくと育っていってるよ。
そうだ。せっかくなので名前をつけていこう。いいことを思いつくじゃないか、我は。うん、うん。名前は大切だからね。
我は材木屋に行き、丸太を一本買う。それを担いで王宮へと戻る。ちょっと大きいから、壁に当てないように気を付けないとね。でも、この王宮は大きくて広いから壁や柱に当たる心配はないのだ。
「ご、ゴーレム殿!?」
突然、我を呼ぶ声が聞こえたので振り返る。ゴツ、ゴロゴロゴロという音が近くから聞こえてきたが、周りには誰もいない。我の空耳だったのだろうか。
我は首をかしげて、王宮の中庭へと進んでいった。
◆
巡回している王宮警備隊の兵士達が、柱の影から覗く足を発見した。剣の柄に手をかけつつ、いつでも剣を抜けるようにして、柱の横へと回る。倒れていた相手を見て、兵士達は一瞬息を呑んだ。
「警備隊長が柱の陰で倒れているぞ!?」
「何!? くせ者でも侵入してきたのか!?」
「ピー!! ピー!!」
「お前達2人は警備隊長を救護室に運べ」
「残りは、他の隊と手分けをして王宮内をしらみつぶしに調べろ!」
「「「はっ!!」」」
王宮内は緊張感に包まれ、くせ者を発見しようと兵士達が駆けまわる。この騒ぎは警備隊長が目を覚ますまで続くことになった。
◆
なんだろう。ピーピーと笛の音が鳴っているし、王宮内がちょっと慌ただしい感じだ。避難訓練でもしているんだろうか。非常時を想定して訓練をするなんて、なかなかやるではないか。
リヤカーも持って来たので、さっそく作業を始めよう。今思えば、わざわざ王宮内でやる必要もなかったな。苗木の側でやってもよかった。
我は丸太を縦に6分割する。一方が60度にとがった木の棒が6本出来た。これを1cm程度の厚さに切っていく。これが苗木のネームプレートになるのだ。
作ったネームプレートをリヤカーに放り込み、苗木のもとへ向かう。
100本近く苗木があるから、名前をつけるのが大変だ。でも、我はがんばるのである!
おし、最初は「キイチ」にしよう。ネームプレートにラインライトで、キイチという文字になるように穴を開ける。うむ、なかなかオシャレではないか。いいね、実にいいよ。
お前はキイチなのだと我は心の中で呼びかけ、苗木の前の地面にネームプレートを差し込んだ。
おし、このままドンドンいこう。「キジタ」「キサブ」「キシメン」「キゴロ」「キロク」「キシチ」「キハチ」「キクノスケ」「キジュウロウ」。うむ、良い名前だ。
ただキから始まるのはこの辺りでやめておいた方がいいだろう。キジュウイチロウとかは長すぎる。
次は、ミキにしようかな。「ミキイチ」「ミキニ」「ミキサン」「ミキヨ」「ミキゴ」「ミキムー」「ミキナー」「ミキヤ」「ミキキュー」「ミト」。うん、素敵な感じだ。
我はこの後もがんばって名前をつけていった。苗木一本一本の個性にあった名前をつけるのはなかなか難しかったが、なんとか名前をつけきったのである。
◆
砂漠の我が苗木を植えたエリアを確認しにいくと、他の苗木と同じようにしっかりと根付いてきている。実に良い感じだ。
◆
今日も我は薄めた回復薬入りの水をキイチ達にかけていく。みんな、大きくなるのだ! すると我の声援に応えるかのようにキイチがざわりと動いた。
!!? なんと、キイチが動いた! もしかして、我が声に応えてくれたのだろうか?
キイチ、キイチ、我が声が聞こえるなら、もう一度動くのだ。しかし、キイチは動かない。気のせいか、もしくは風のイタズラか、どちらかだったのだろうな。
我はその後も一本一本の苗木に丁寧にジョウロで水をやっていった。
◆
最近、王宮の周りに植えた木の成長が著しい。急成長って感じがする。かなり大きくなった。我の身長なんてあっとういう間に抜かれてしまったぜ。
木の成長に驚いた職人のおじいさんや文官たちが我のところに話を聞きに来た。名前をつけて愛情を込めた成果なのだと伝えたが、そんなバカなといって信じようとしない。
まったく愛情こそが最大の栄養なのに。
その後も職人や文官達が我がどんな風に木を育てているのか見たいといってついてくる。別に名前をつけてやった以外は普通に水をやっているだけなのだ。
我はいつもどおり回復薬をジョウロにいれ、その後にジョウロが一杯になるまで水を入れる。
その様子を見て、職人や文官達が、えって表情を浮かべて我の方を見てくる。回復薬を水で薄めるなんてせこいと思われたのだろうか。でも、回復薬って1本銀貨3枚もするから、これでも我は、自分の懐を痛めながら、がんばっているのだ。
我は元気になーれと念を込めながら、薄めた回復薬入りの水をジョウロで一本一本の木にやっていく。その様子を見て納得したのか、職人や文官達が意見を交わしながらようやく帰ってくれた。
やっぱり百聞は一見にしかずなのだ。実際に我が愛情を込めて世話をしている様子を見たら、納得してくれたのである。
大事なのは愛情、まごころなんだぜと思いながら、我は職人や文官達の背中を見送った。
◆
我がお世話をしているキイチ達に顔ができていた。何を言っているのか、わからないかもしれないが、その言葉通り、顔ができたのだ。目玉や歯はないのだが、目と口の位置に穴が空き、鼻の位置にちょっとした枝が生えていたのだ。
我がびっくりしていると、キイチ達はニコニコと目を細めてくる。まぁ、ファンタジー世界だから、こんなこともあるだろう。巨大なサソリがいるくらいなのだ。木に顔ができるくらいは不思議ではないであろう。
我は顔が出来ていたのは気にしないことにして、いつも通り、薄めた回復薬入りの水をジョウロで一本一本にやっていくと、キイチ達はうれしいのか、口の端っこを上に上げて満面の笑顔だ。
わふー!! そんなに喜んでもらえると我もうれしいよ! 我はそのままがんがん水をあげたら、キイチがぎゃーって顔をしかめはじめた。どうやら、水のあげすぎはよくないらしい。
我はキイチにごめんごめんと謝り、次のキジタに水をやる。うむ、いつも通りの方がみんなうれしいようだ。
やっぱり、愛情とまごころは偉大だったのだ!
砂漠に植えたエリアは、名前をつけなかったからか、普通の木として育っていた。
◆
顔が出来たキイチたちの世話を我は今日もがんばるのだ。すると、また職人や文官たちがやってきた。今日はなぜか兵士も一緒だ。
何事だろう。どうやら、キイチたちの調査に来たらしい。魔物ではないのかと疑っているみたいだ。
まったく、何を言っているのだろう。我の愛情の成果ではないか。突然、兵士の一人がキシメンを切り倒そうと斧を振り上げた。
キシメンはうわああといわんばかりの驚いた表情をしている。我もなにをするのだと驚き、兵士が持っている斧の先端をラインライトで消し去った。我はキシメンの前に行き、バッと手を広げてキシメンを庇う。
この兵士はいったい何をしようというのだ。阿呆なのか!?
我が怒っているのが伝わったのか、職人のおじいさんが兵士が突然切り倒そうとしたことを詫びてきた。そして、木を傷つけないので調べさせてくだされとお願いしてきたので、我が同席することを条件に調べてもいいよと答えた。
やばんな兵士なのだ。あやつにはこれからも注意しておかねばならんな。
我は怒りつつも、おじいさんたちの調査につきあう。種族などがわかる鑑定の魔道具を文官が持って来て調べたところ、よくわからないらしい。
種族が【ゴーレムの育てた木】と表示されたそうだ。
なんだ、それ? と我は首をかしげる。職人のおじいさんが木の様子や、木の周りを調べたところ、特に悪さをするような木ではないという。むしろ、この王宮の周りの土地を豊かにしていっているらしい。
とりあえず、要観察ということで、調査は終わった。我はそのあと、木材を買って、5日かけて、それぞれの木の周りに柵を設けた。あの兵士のようにキイチ達を傷つけようとする者が出てきては困るからね。




