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第105話 想定外

我はゴーレムなり。


サソリを倒して王宮に戻って以降、特に何事もない日々を送っている。ただ、王宮に戻った時にジスポがかなりやせていたので、とても驚いた。


すこしげっそりしたジスポが、我を見つけると、涙を流しながら我の方へ駆け寄ってきたのだ。


「ちゅちゅー!! ちゅちゅちゅ!!」

(親分ー!! ようやく帰ってきてくれたんですね!!)


そして、我の足を駆け上り、ないわーポーチの中へと潜り込んだ。そして、ないわーポーチの隙間から小声で我に話しかけてくる。


「ちゅちゅ。ちゅーちゅ、ちゅーちゅちゅちゅー」

(ハクは恐ろしい子なのです。おやつ抜きな上に、今まではおなかいっぱい食べていたのに、3食の量を制限してきたのです)


ブルリと身を震わせて言葉を続ける。


「ちゅちゅー、ちゅっちゅちゅ。ちゅちゅちゅちゅーちゅ!」

(さらに昼寝の時間もなく、延々と運動をさせられるのです。なんとも恐ろしい本性を隠していたのです!)


へぇ、ハクもなかなかやるじゃないか。これからもハクに任せようかな。我がそんなことを考えていると、ジスポはキュピーンと目を光らせ、我に訴えてくる。


「ちゅちゅ! ちゅちゅーちゅ!」

(親分! ボクは親分の子分であって、親分以外のいうことは聞きませんよ!)


子分にしてくれと言ってきた時以上の剣幕だ。そんなにも辛かったのか? 我がうむと頷いたことでほっとしたのか、ないわーポーチの中に潜り込んでいった。





王宮内をぶらぶら歩きながら思うのは、みんなが生き生きしているということだ。それぞれにできることをして国をよくしようとがんばっているのがよくわかる。うむ、いいことではないだろうか。


おかげで我は特にすることもない。





軍を指揮する将軍が、サソリの大量発生していた付近を見回った結果を報告するために、ハクの執務室に訪れた。我もサソリを退治した者として、ハクの横に座って話を聞く。


サソリの大量発生はあれ以来ないらしい。ただ砂漠の様子がおかしいという。小さい雑草が砂漠に生え始めたというのだ。


我がどういうことだと首をひねっていると、文官の老人がもしやと言いながら、この国に伝わる話を教えてくれた。



今は砂漠が広がっているこの王国も、大昔は緑があふれていたそうなのだ。


それがある時から緑が枯れ始め、砂漠が広がるようになっていったらしい。砂漠が広がり始めた頃に、とても巨大なサソリの魔物が現れたので討伐を試みたが、まったく歯が立たず、手をこまねいている内に、巨大なサソリは姿を消してしまったという。


その後も砂漠はどんどん広がり、500年から1000年に一度、サソリの魔物も大量に発生するようになっていたそうだ。そのため、砂漠はサソリの呪いなのではという話がこの国では古くからまことしやかに伝わっていたという。



我はその話を聞いて、あのサソリが話に伝わっていた魔物だったのかもなと思った。


あのサソリがこの大地の栄養を糧に大きくなっていたのならば、あれだけ巨大になっていたのも納得なのだ。うむ、やはり、大きくなるには食べる必要があるのだな。


我が一人で納得していると、将軍はこのまま経過を観察してみると言い、一礼してから部屋から出て行った。そして、文官の老人も、砂漠に緑を取り戻せるのか試してみますと言って、執務室にいた文官を伴って部屋を後にした。


砂漠に緑が戻るといいねと思いながら、我は彼らを見送った。





暇なので、我も砂漠の緑化計画を手伝うことにした。今度はジスポも我と一緒に来る。おいていかれるとまたひどい目にあうと思ったみたいだ。


植物の苗でも植えているのかと思ったが、砂漠なのに井戸を掘っている。昔は緑があったのだから、地下水があるはずなのですと教えてくれた。我はへぇと思いながら、井戸掘りに協力する。


最初は我もシャベルを手に取り、えっさ、ほいさと掘っていたのだが、我は小さいので、気を抜くとすぐに埋まってしまうのだ。実際に何度か我も埋まってしまった。


「ちゅ、ちゅ」

(砂が、砂が)


我に命の危険はないが、ジスポが死にそうだ。これは危ないと思い、ラインライトで地面に穴を開けていくことにした。


うむ、最初からこうすればよかった。


ラインライトで穴を開けたところに、王国の者達が石を組み上げたり、土魔法などを使い、井戸をきちんとした形に整えていく。ただ土魔法の使い手は少ないようで、人による手作業がメインのようだ。


とりあえず我は井戸を掘ることに集中してがんばった。





井戸ができあがってきたので、次は柵を作るらしい。植物の苗を植えて、それを動物などに食べられたら困るからだそうだ。緑化というのは、ただ植物の苗を植えるだけかと思っていたが、違うのだね。


我は王国の者達と一緒に柵を作る。暑いから、王国の者達は休憩を十分に取りながらでないと作業を続けられない。しかし、我には休憩は必要ないから、がんがん柵を作っていく。


ふっふっふ、一騎当千とは今の我のことをいうのだ!


井戸掘りを手伝っていた時に、埋まってしまった我とは違うのである! ぬかりなし。今の我はぬかりなしなのだ!


我の努力の甲斐もあり、予定された範囲に、予定より早く柵を作り終えることができた。うむ、がんばった。柵の材料が余っているようなので、我がお世話をするエリアを作らせてもらった。


ふっふっふ。他の場所よりも立派な植物を育てて、びっくりさせてやるのだ!





ようやく、植物の苗を植えるときがやってきた。王国の者達は一種類の苗木だけを植えるらしい。無難な選択をしておるな。


しかし、我は自分のお金を使って、いろいろな苗木を買ったのである!


我は、自分のエリアにせっせと苗木を植えていく。丸一日をかけて苗木を植え終わった。きれいに並べて植えた苗木を見て、我も満足だ。


我は腰に手をやりながら、一人で頷く。うむ、うむ。早く立派に育つといいのだ!





な、なんということだ。


我が植えた苗木達の元気がない。我は自分のエリアの苗木達を見てショックを受ける。がっくりと地面に膝をつき、うなだれる。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}


王国の者達が植えた部分は、順調に育っているのに。


これでは、立派な木を育てて、「ゴーレムさん、すげぇ」って称えられたい計画が失敗してしまうのだ。な、なんとかしなくてはならん。


そうだ! 困ったときは、トモダチに頼るのである!


我は辺りをふらふらとしている精霊を招き寄せて相談することにした。精霊達には文字で意思を伝えることが出来ないから、久しぶりにジェスチャーだけで意思を伝える必要がある。我の腕の見せ所なのである。


我が苗木を指さして、元気がないと伝える。


精霊達は、ふむふむ、と苗木の周りを飛び回り、「ここだけ元気ない」「他は元気」「なんでこの木を植えた?」「土地にあってない」といろいろなだめ出しをしてくる。


我は、う、うむと精霊達の言葉を静かに聞く。


いっぱい種類があった方がいいと思ったのだが、どうやらダメだったらしい。


我は手を広げて苗木を元気にするにはどうすればいいのか、精霊達に質問する。精霊達は一カ所に集まり、ひそひそと話を始めた。


「無理じゃない?」「ムリ」「無理だと思う」「あってないからね」


そこで話が一瞬止んで、精霊達が我の方をちらりと見てくる。そして再びひそひそ話を始める。


「でもそのまま伝えると」「ゴーレム、ショックを受けるかも」「うーん」「どうしよう」


精霊達はくるくると周りながら、悩んでいる。精霊達は我に聞こえていないと思っているようだけど、我にはちゃんと聞こえているからね。


精霊達ですら、無理なのか。


このままでは、我のエリアだけが砂漠化したままだ。……これはまずい。


くるくる回っている精霊の中の1体が、「あっ」と何かを思い出したみたいだ。なんだろう、起死回生の一手が思い浮かんだのだろうか?


その精霊が我の前まで来て、すーはーすーはーと深呼吸をする。他の精霊達も、何をするのだろうと固唾をのんで、その様子を見守っている。ようやく目の前にいる精霊が我に声をかけたきた。


「無理! あきらめて!」


と大声で叫んでぴゅーっと飛んでいった。それを聞いた他の精霊達は「言っちゃった!」「ひねりなかった」「そのままだ!」と大騒ぎだ。我はがっくりと膝と手を地面に手をつき、うなだれる。


他の精霊達は、うなだれている我の方を見て、「「がんばってねー」」と声をかけて、飛んで行ってしまった。


この元気のない苗木達はどうすればいいのだ。

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