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第104話 秘策

我はゴーレムなり。


ハクが何故か王になった。人生、何があるかわからないものである。


王宮では、前国王や王子の元奴隷の女達が、ハクの親衛隊を結成したり、奴隷から解放された文官達がせっせと働き始めている。火傷の痕を見て以降、女達は今まで以上にハクにかまい始めたのだよね。


何はともあれ、みんな生き生きしている。死んだ魚のような目をしているよりは大分ましだ。


書類の確認と言うことで、我もハクの隣で一緒に書類を確認していく。書類を見ていると、正直、色々とおかしい。まず、税金がめっちゃ重い。なんだ、これ。よく国民はこれで生きていけるな。


そして、次におかしいのが、支出だ。王家の者達、自由に使いすぎだろう。よくこれで国として成り立っているな。


我がとりあえず思ったことを紙にまとめてハクに見せる。ハクは頷き、その紙をそのまま文官に見せる。文官が、えっという表情でハクと我を見てくるが、驚かれる理由がわからない。


ただ普通の内容を書いただけなのだ。


<税金が重すぎる。もっと軽くして>

<王家の予算がおかしい。もっと少なくして>


など、普通のことを書いただけなのだ。正直、細かいことはよくわからないので、後は文官の者達にお任せである。奴隷から解放されてやる気に満ちているようだし、己の利益を求めて不正を働くような者も今はいないだろう。


そうだ!


ハクには、とても役に立つ言葉を教えておこう。魔法の言葉だ。我は腕を組み、重々しくハクに語りかける。


『ハク、このような時にかける言葉をひとつ教えておこう』


ハクは我の方を見て、こくりと頷く。


『それは、よきにはからえ、だ! この言葉で、大抵、部下の者達は、自分に仕事を任せてもらえたと思い、がんばってくれるのだ!』


ハクは、なるほどというように、こくこくと頷く。


「よきに、はからえ」


そして、我が教えた言葉をそのまま文官の者達に伝える。


文官達は、目をすこし潤ませながら、「はは! 必ずやご期待に応えてみせます!」と声を震わせながら返事を返してくる。こうしてはいられないといわんばかりに、文官達は急いで部屋から出て行った。


うむ、効果は抜群なのだ。


1.5倍、いや2倍くらいの効果があったかもしれない。前がひどいから、普通のことをしただけで、感動してもらえるのは我らにとってはいいことだ。


だが、彼らにとっては不幸なことだな。


とりあえずは、仕事を丸投げすることができた。国の運営なんてわからないので、文官達にがんばってもらおう。こういうのはプロにお任せしたほうがよいのである。





王宮内を2名の文官と1名のハクの親衛隊に案内してもらう。とても広くてきれいな建物なのだ。まさに王宮って感じがする。


ただよくわからない像があったり、王宮に似つかわしくない絵や、壺が飾られたりしている。文官に聞くと、前国王たちの趣味で非常に高価な品々であると教えてくれた。


ま、マジか。この変な絵や、呪われそうな壺がそんなに高いのか!?


ハクに、これらをどう思うと聞いてみると、首をかしげている。う、うむ。そうだよな。そんなに良いと思わないよな。


<これって売ってもいいの?>


とノートに書いて文官に聞いてみると、ハクの方を見つつ、文官が答えてくれた。


「女王様がかまわないというのであれば、売ることは可能です」


ハクは一言「売って、くれたら、いい」と文官に伝える。すぐ手配しますと、文官の一人が案内を外れていった。後日、文官が教えてくれたところ、絵や壺、像はかなりの金額で売れたらしい。売れた金額は国庫に納めておいてもらうことにした。我らは自分のお金を持っているからね。


王宮内をじっくり見て回るだけで2日もかかった。まったく、どれだけの部屋数があるのだろう。





王宮内を見て回った後は、王都の中を見て回ることにした。ハクも我も実に働き者だ。まぁ、実際にがんばってくれているのは文官たちだから、弱音は吐けないね。


王都の一角では、空き店舗が目立つ。どうやら、今までは奴隷の売買を行っていた店のようだ。しかし、王が変わって、王家の奴隷を解放していると聞いた奴隷商人達が、店をたたんで王都を離れたらしい。


空き店舗の中には、売れないと判断されておいていかれたのか、弱った奴隷達がいた。いや、隷属の首輪をされていないから、元奴隷と言った方がただしいだろう。隷属の首輪の方が高いんだろうな。


護衛の者達に、彼らを保護して何かの職に就けるように手を貸してやるように、ハクから伝えてもらった。護衛の者達は、こんな頼みをいやがるかと思ったが、よろこんで彼らの保護に向かってくれる。


なかなかにいい者達なのだ。


その後も王都を見て回ったが、他には特に目立った点はなかった。そうだ、王宮の警備の兵士が多いので街中を巡回する隊でも作ってもらうか。





やはり、我がハクに教えた「よきにはからえ」は魔法の言葉だった!


文官も武官も護衛の者達も、皆が自分にできることをがんばってくれている。皆が国をよくしようとがんばる。実に素晴らしいではないか。


ハクも文官達から書類を渡され、内容を確認した後に、ぺたんと判子を押していくのが様になってきた。うむ、今では我は横に座ってなくても大丈夫だ。親衛隊の女性が2人、ハクのサポートについてくれているし、心配はいらないだろう。


我はというと、王様でもないし、特に役職もないので、寝っ転がってサインの練習をしたり、部屋の隅っこでジスポの運動をみてやっている。こやつは、食べるだけで運動をあまりしていないからな。どんどんどんどん丸くなっているのだ。


床にラインライトを円状に発生させ、その円の周りをジスポには走らせている。ジスポは全長2メートルほどの円を2周しただけで、少し息切れを始めた。


「ちゅー、ちゅー、ちゅちゅー」

(ふー、ふー、疲れたのですー)


こやつは、迷宮でサバイバルをしていたはずなのに……。我はジスポを甘やかしすぎてしまっていたみたいだな。今のこやつには野生の逞しさを感じない。回転車をなんとか手に入れないといけないな!





午後には、王宮の中庭でハクと戦闘の実戦訓練を行う。最初は親衛隊や護衛の者達も驚いていたが、今ではすっかり見慣れたようだ。最近では、親衛隊の者達も我らの横で同じように訓練を始めた。


親衛隊の者達よりも、ハクの方が大分強いみたいだ。ハク一人に対して親衛隊の者達が多数でかかっていく戦闘訓練ができるようになったので、良い経験がつめているようだ。





我がハクの執務室の片隅でジスポにラインライト跳びをさせていると、執務室内に兵士が駆け込んできた。なにやら、サソリの魔物が大量発生しているのを商人が見つけて連絡が入ったらしい。


このままではオアシスがある街にサソリがなだれ込む危険があるということで、軍の出動を願い出たというわけだ。


我はハクの横まで行き、はいはいと手を上げる。『暇だから、我が行くよ』とハクに伝える。ハクも一緒に来たがったが、文官や親衛隊の者が危険ですからと言って、なかなか話がつかない。しかたないので、我がジスポの運動を見ておいてとハクに伝えて、しぶしぶ留守番を納得してくれた。


「ちゅ、ちゅちゅー」

(や、休ませてくださいー)


疲れて寝転がっているジスポをつまみ上げ、ハクに手渡す。ハクはこくりと頷き、きらりと目を光らせる。その目を見たジスポが悲鳴をあげ逃げだそうとするが、ハクにぎゅっと掴まれた。


がんばれ、ジスポ。次に会う時にはもう少しスリムになっていることを期待しているぞ!


軍の出動準備も念の為に行ってもらい、我は駆け込んできた兵士達と一緒にサソリの魔物が大量発生しているというところへ向かって出発する。





急いで進んだので、4日ほどでサソリの魔物が大量発生しているという場所の近くまで来れた。サソリの魔物というから、掌サイズの小さいサソリかと思っていたのだけど、かなりでかい。小さいヤツで人と同じくらいの大きさがある。大きいヤツだと大型バスくらいあるんじゃないだろうか。


兵士達もその光景に息を呑んでいる。うむ、我もその気持ちはよくわかる。


あれだけの魔物が発生するなど、餌はどうしたんだと疑問に思うのはもっともだ。辺り一面砂漠なのにね。これだけ発生するとは、何を食べているんだろう。砂でも食べられるんだろうか。


「隊長、どうしますか?」

「ああ、あれほどいるとなると、下手な手出しはできんな」

「そ、そうですよね」

「軍の到着を待とう」


兵士たちは、手出しはしないことにしたようだ。あれほど大きいサソリに近づくなんて怖いだろうから、しかたないね。きっと毒もあるだろうから、近づきたくないという気持ちはよくわかる。


しかーし、我には遠距離攻撃の方法があるから、手は出さなくても大丈夫なのである!


我は兵士達の前に進み出て、両手をバッと上げる。足下からラインライトを発生させ、空中で留める。兵士達が息を呑んでいるのがわかる。


ふっふっふ、我はかっこいいラインライトの発生方法を絶えず、考えているからね。演出に余念はないのだ!


「あ、あの、ゴーレム殿? 手出しは無用で」


見よ! これが対軍殲滅のはちゃめちゃラインライトだ! 我が手を振り下ろすと、ラインライトが巨大化しつつ、サソリの群れに向かって突き進む。


チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン! チュイン!


{ログ:ゴーレムはエンペラースコーピオン達に平均250のダメージを与えた}

{ログ:エンペラースコーピオン達は息絶えた}


光が乱舞した後には、サソリの魔物達は消え去っていた。うむ、やはり遠距離攻撃は楽だ。手や足をつかった格闘戦も悪くはないが、あれは趣味でやるものだからな。こういう仕事の時には、出し惜しみせずラインライトを使っていかないとね。


我は、ないわーポーチからノートを取り出し、兵士に向けてメッセージを書く。


<手出ししたくないというから、魔法で片付けた>


そのメッセージを読んで、「ええ、そうですね」と顔を引きつらせながら、サソリの魔物達がいた方を眺めていた。


んんー? 微妙な反応だ。もしかして、軍の訓練をするためにサソリを殺さない方がよかったのだろうか。でも、もうやっちゃったからな。どうしようもない。


するとサソリの魔物達がいた辺りの砂が、ざざざと盛り上がってくる。何が出てくるのだろう。ちょっとドキドキしながら見ていると、さきほどまでのサソリが生まれたばかりだと思えるほどの、巨大なサソリが出てきた。


マジか!? めっちゃでかい!! なに、あのサソリ!!


我が拳を握りしめ、目の前の光景に血をたぎらせているとーーゴーレムだから血なんてないけどーー兵士達が、顔を蒼白にし、震えている。


「あれは、まさか、伝説の」

「た、隊長! 逃げましょう!」

「あんなもの相手に勝てませんよ!!」

「あ、ああ」


兵士達が逃げようと言っているから、やっぱり、さっきのサソリも倒してよかったんだな。我の行動に間違いはなかったのだ。


あんな巨大なサソリが動き回ったら大変だから、サソリには悪いが退治しておこう。それにしても何を食べたらあんなに大きくなれるんだろう。


我は慌てている兵士達の方を見ると、我を気にしている余裕はなさそうだ。仕方ない。我は演出はせずに、巨大なラインライトを巨大なサソリにむけて撃ち出す。


チュドン!


{ログ:ゴーレムはゴッドスコーピオンに500のダメージを与えた}

{ログ:ゴッドスコーピオンは息絶えた}

{ログ:ゴーレムはLv32に上がった}


あ、久しぶりにレベルが上がったよ。巨大だったから、サソリの足と尻尾だけは消し去れずに残ってしまった。かなり大きいラインライトを放ったのだけど、やっぱりあのサソリはすごく大きかったみたいだ。


我は慌てて帰ろうとしている兵士達の準備を手伝う。兵士達が巨大なサソリが現れた方を向いて、呆然としているが、もう仕事は終わったのだ。はやく帰ろうではないか。


兵士達をなんとか正気に戻し、王宮へと帰り着いたのは6日後だった。

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