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第101話 怒り

我はゴーレムなり。


ゴージャスな部屋から出た我らは預けていたコインを引き出そうと、景品交換所の横のカウンターへと向かう。


景品交換所には人だかりが出来ていた。魔族たちの服とは違う、砂漠の民のような服を着た者達が大勢いる。その人だかりの中心には、一人の肥満体の男が輿に担がれて喚いている。8人がかりの輿か。鬼族の国で我も輿にのったな。ちょっと懐かしい。


あれがウシボタイ王なのだろう。


まったくいい大人が喚いてみっともないのである。ウシボタイ王の周りには、美女が多く取り囲んでいる。その全員に隷属の首輪がはめられているから、ウシボタイ王の奴隷なのだろう。王様らしくやりたい放題という訳か。


そして、ものものしい出で立ちの護衛達も辺りを警戒しつつウシボタイ王を囲んでいる。


我らが遠くからウシボタイ王を見ていると、おっさんと黒服がやってきた。おっさんは本当に大変だな。



「なぜ、目玉の鑑定の魔道具がないのだ!! わざわざ余が自ら出向いてやったのだぞ! おかしいであろう!!」

「申し訳ありません。王様、昨日一昨日で目玉の鑑定の魔道具を手に入れられたお客様がいらっしゃるからです。こればかりはどうしようもありません」

「金ならあるのだ! どうにかせよ、この無能めが」

「お金があろうとどうにもならないことがあるのです。申し訳ありませんが、鑑定の魔道具は諦めてください」

「わからんやつだな。金があればなんでも手に入るのだ。見てみよ、余の周りを囲む女達を。どれも大金をつんで手に入れた者達だぞ。どれほどの金を積んでもいい。鑑定の魔道具を用意せよ!」

「しかし、すでに他のお客様の物になっていて、あれと同等の品は用意できません」



ウシボタイ王はおっさんに文句を言いまくっている。我が3つの鑑定の魔道具を全てゲットしたから、今の状況になっていると思うと、おっさんが気の毒だな。


しかたない、助けてやろう。


我はハクと一緒におっさんの横に歩いて行く。ウシボタイ王が我らに気づき、話しかけてくる。おっさんは、どうするつもりなのかと心配そうに我らを見つめてくる。


「なんだ、貴様らは」

『鑑定の魔道具は我らが持っている』

「鑑定、魔道具、持っている」


「なんだと? お前らが鑑定の魔道具を手に入れたという客か?」

『その通りだ』

「そう」


ウシボタイ王はにんまりと笑う。


「では、その鑑定の魔道具を余に譲るがいい。金は好きなだけくれてやろう」


本当だろうか?


本当に好きなだけくれるのだろうか。成金っぽいし、そういうだけの金を持っているのだろう。王様というのはすごいものなのだな。我はじっくりと考える。


この王様を上手く使えば、我も幸せになり、おっさんも助けられる方法が見つかるはずだ。星金貨100枚分のコインが鑑定の魔道具には設定されていた。


うむ、うむ。

よし、これでいこう。


でも、がめつくいきすぎてもいかん。払えるであろう、金額を提示しよう。


『わかった。星金貨3,000枚で譲ろうではないか!』

「星金貨、3,000枚」


なぜか、周りの空気が張り詰めた。


なぜだろう。好きなだけくれるというから、好きな金額を言ったのに。何か間違ったか?


星金貨3,000枚で売ったら、その内の1,000枚をおっさんに渡す予定だ。それでおっさんはカジノを続けられる。おっさんは満足するだろう。


我らは2,000枚の星金貨を手に入れることができる。うむ、我らも満足だ。


そして、このウシボタイ王も念願の鑑定の魔道具を手に入れることができる。ウシボタイ王も満足する。


我がおっさんに無償で星金貨を提供することで、このWin-Win-Winという全員が幸せになる状況ができあがるのだ。素晴らしい提案だ。本当は10,000枚を提案しようと思ったのだが、さすがに、100倍はがめついと思って、3,000枚に抑えたのだ。



おっさんの方を見ると目を見開いて、我らを見ているではないか。心配するな、我はちゃんとおぬしのことも考えているのだ。あとでびっくりするがいいさ!


ウシボタイ王が、眉間にしわを寄せて我らをにらみつけてくる。


「星金貨3,000枚だと!? 小娘! 貴様、余をバカにしているのか!!」


我は首をひねる。ハクはいつもどおりの表情で、ウシボタイ王を見つめている。これほどまでに怒るとは、やっぱり、先ほどの我の提案はまずかったようだ。


バカにしているつもりはなかったが、甘く見積もりすぎたらしい。そうまで言ってくるなら、しかたがない。バカにして悪かったのだ。


『わかった。星金貨10,000枚でいい。これ以上はもらいすぎになるからな、さすがにこれで勘弁して欲しい』

「星金貨、10,000枚。勘弁、して」


さらに空気がぴしりと張り詰めた。


なぜだ? なぜ、さきほどと同じようになる。


このウシボタイ王は、我らが安すぎる金額を提示したから怒ったのだ。先ほども「余をその程度の金額しか払えない小物だとバカにしているのか」と怒っていたからな。


さすがに、ふっかけすぎかと思って、3,000枚で提案したけど、我には王様の財力や考えなどわからなかったから、許して欲しいのだ。


ウシボタイ王はぷるぷると震えている。


ひょっとして、まだ安かったのか? また余をそんなにバカにするなということなのか? 我は甘く見積もった気はなかったが、やはり王様にもなると我らとは財力の桁が違うようだ。我には予想もつかないほどの大金を持っているということか。



ウシボタイ王、なんという恐ろしい財力を持った男なのだ。



次の言葉をハクに伝えようとすると、ウシボタイ王が怒鳴りつけてきた。


「星金貨10,000枚だと!! そのような大金を払えるわけなかろうが!! 阿呆か、この小娘は!!」


えっ、足りないではなく、払えないだと? うそだろ。好きな金額を言えって言うから、言っただけなのに。念の為に確認しておこう。


『払えないの? 好きな金額を言っただけなのに、王様なのに嘘をついたの?』

「払えない? うそつき?」


ぷるぷると震えるウシボタイ王。この様子では、本当に払えないみたいだ。王様と言っても、たいしたことはないようだ。


我は、やれやれと掌を上にむけて、まいっちゃうなというジェスチャーをする。


『どれくらいなら、払えるのだ? 買いたい金額を言ってみてくれ』

「どれくらい、払える? 買いたい、金額、言え」


青ざめた表情で我らを見てくるおっさん。横にいる黒服も青ざめている。すまぬな、おっさん。星金貨1,000枚を融通してやろうと思ったが、厳しいかもしれん。おっさんに期待させることを言ってなくてよかったよ。


「こ、この、無礼者めが!!」


顔を真っ赤にしてウシボタイ王が怒り始めた。ハクの言い方はたしかに、敬語ではないから、無礼者めと言われればその通りなのだが、もっとゆとりある大きな心で対応してほしい。


子供にそんなにムキになるのは大人げないのだ。


「余は、この無礼者を許すことはできん!! 余のレガリアを賭けて、この小娘に勝負を申し込むぞ!」

「国王様!? お待ちください! レガリアを持ち出しての勝負などなさってはなりません!!」

「黙れ! これほどバカにされて黙っていられるものか!! 余はここまでこけにされたのは初めてだ!」

「国王様!!」

「小娘、お前は余の勝負を受けるか?」


レガリアって王と認めさせる象徴だろ? それを賭けるっていいのか? ウシボタイ王。とりあえず、内容だけ聞いてみよう。勝負を受けるかどうかは、それから考えれば良い。


『どういう内容だ?』

「どういう、内容」

「ふん、度胸だけはあるようだな。余と小娘、互いの全てを賭けての勝負だ。余は、余のすべてといってもよいレガリアを賭ける。小娘、お前にはその命と鑑定の魔道具を賭けてもらうぞ! とても余のレガリアと釣り合う対象ではないが、お前は余を怒らせたのだ!」


あれ、我がハクに言葉を伝えてもらっていただけなのに、ハクがすべて悪いことになっている。そうか、ハクが我を使役していると思ったのか。


まぁ、それは横に置いといて、勝負の方法を聞いてから、受けるかどうかを決めよう。


『勝負の方法は?』

「勝負、方法、は?」


ウシボタイ王は我の方を見て、にやりと笑う。なんだ?


はっ!!? もしや、ないわーポーチの柄を見て、バカにしたのか!?


「小娘、お前も見たところ、魔物を使役するようだな。余も闘技場で、魔物を戦わせるために魔物を連れてきている。互いの使役する魔物同士を戦わせて、決着をつけようではないか!」


なんだ、ないわーポーチを見て笑ったんじゃなく、我の愛くるしいボディを見て、弱そうと思って笑ったのか。まったく、勘違いさせるような笑いをしないでほしいのだ。


我が黙っているので、ハクも黙っている。それを怖じ気づいたと勘違いしたウシボタイ王は顔をいやらしく歪め、声をかけてくる。


「今ならば、土下座をして泣いて謝れば許してやらんこともないぞ? どうだ、ひれ伏して許しをこうが良い」


我はハクの方を見ると、ハクはこくりと頷く。命までかけた勝負などする必要はないのだ。こういう時は逃げるが勝ちだ。こんなばかばかしい勝負はしなくてよい。


我はハクに向かって頷き返す。よし、ハク、言ってやりなさい! こんな勝負受けるものか!


ハクは静かに、ウシボタイ王の方を向き、力強い瞳で王を見つめる。


「この勝負、受ける」


そうだ! よく言った! この勝負受けたのだ!



えっ、ちょっと待って、ハクさん。受けるのか、この勝負。

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