第99話 昨日はおかしかった
我はゴーレムなり。
昨日はカジノで儲けまくってしまった。ふっふっふ、これが我が運のよさか。255は伊達ではなかったのだ! カジノには、あと2つ鑑定の魔道具があるという事なので、今日も元気にカジノに通うのである。
我はハクとジスポが朝食を食べ終わるのを待つ横で、ないわーポーチからノートを取り出しサインの練習をする。我は食事ができないからね。この間の魔王の娘のように、いつどこで我のサインを欲しがる者が来ても良いように練習をしておかないとな。
日々、努力は欠かせないのだ!
ハクとジスポの食事が終わると、昨日と同じく教会に行って神へのお祈りをする。
今日はジスポもないわーポーチの外に出て、我らと一緒にお祈りをしている。うむ、神頼みは重要なのだ。真剣に祈るがよい。
我は今日も昨日と同じく金貨1枚を寄進する。するとシスターが「これ、お守りです。良かったらどうぞ」と、小さい木に天使を彫ったお守りを我とハクに差し出してくる。
我は会釈をし、ハクは「ありがと」と言って受け取った。これで今日も神の加護があればいいんだけどね。
◆
カジノの受付で金貨1枚を払い、3人で中に入る。今日も銀貨1枚分はチップなのだ。受付嬢にとっときなと背中で語り、我らはカジノの中へと入る。
昨日、カジノに預けていた30,000枚のコインを受け取り、さっそく100枚スロットのコーナーに行くと、全ての台がすでに客で埋まっていた。なんということだ。10台もあるのに、全て埋まるとは繁盛しているな。
我らも早めに来たと思ったのだけど、開店前から並んでいた客が大勢いたのだろう。まぁ、仕方ないね。こればかりは仕方ない。空くのを待とう。
我はコインの手持ちが少ない客の後ろに並ぶ。ハクにも別の台の後ろに並んでもらい、一応、ジスポにも並んでもらうことにした。
我が並んでいる台の男は、外れたり、当たったりでなかなか席を立とうとしない。ハクの前の男も同じように、当たったり、外れたりとなかなか席を立たない。
しかし、ジスポが並んでいた台の男だけはあっという間にコインがなくなり、ジスポが席を確保することが出来た。
「ちゅちゅ!!」
(取れましたよ! 親分!!)
ジスポは喜んで報告をしてきて、すぐに席を確保した。我がジスポの方に向かおうとすると、「この馬鹿者!」という声が、後ろから聞こえてくる。
なんだろうと思い振り返ると、ジスポが並んでいた台の男が、昨日体調を崩していたおっさんに怒鳴られている。何か悪いことをしたのだろうか。カジノ内で喧嘩をするとつまみ出されるぞ。
我はジスポを掌の上にのせ、ジスポが確保した席に座る。この席を確保出来たのはジスポのおかげだ。最初はジスポに遊ばせてあげよう。我はご褒美にジスポに100枚のコインを渡す。
「ちゅっちゅー!!」
(やってやるのです!!)
と気合いを入れてスロットにコインを投入するが外れた。大きく口を開けたまま固まっているジスポが哀れなので、また100枚のコインを渡す。
「ちゅちゅー!!」
(こ、今度こそ!!)
また外れた。その後も何度も外し続けるジスポ。とりあえず、これで最後という意思を込めてジスポに100枚のコインを渡す。ジスポは大きく息を吐き出し、スロットにコインを投入していく。これがジスポの最後の勝負である。
スロットを止める前に、ジスポはハッと何かに気づいた様子だ。すると我の方を向き、両手を会わせて祈ってくる。
「ちゅちゅ! ちゅちゅちゅ!!」
(当たりますように! 絶対に当たりますように!!)
祈り終わった後に、スロットを止め始めた。……。我に向かって祈っても何もないと思うんだけどな。
我がそんなことを考えつつ、スロットの絵柄をぼーっと眺めておく。すると、びくっとジスポが身体を震わせた。我もそれにつられてびくっとなる。
あっ、絵柄が揃ってる! 10倍が当たったよ!
ジスポは昨日と同じく両手を高く上げて喜んでいる。そして、我の方を向いたと思うと、ありがたや、ありがたやと両手を合わせて頭を下げてくるではないか。うーむ、ひょっとして我にお祈りすることで運が上がったのだろうか?
いや、まさかね。
ジスポは1度当たって満足したらしく、我と交代してくれた。
◆
我はスロット台を前にして、ふーっと息を吐きたくなった。口がないから吐けないけど。
昨日はやっぱりたまたまだったのかもしれない。
我の運の良さで900,000枚というのはやはりおかしかったのだ。
今日のこの姿が正しい姿なのである!
ウハウハだ! やっぱり運255の力は絶大なのだ!
ふふふ。ふっふっふ。ふははははははは!!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
今日はほとんど1000倍か、100倍か、300倍だけの絵柄が揃い続けているのだ! もう、これをウハウハと言わずに何と言えばいいのだろう。すでに2,000,000枚以上のコインをゲットしてしまった。
ふー、怖い。我は自分が怖いよ!
今日はコインが出てくるのを待ってる方が大変なのである。これで残り2つの鑑定の魔道具も見事手に入れることができるであろう。
ハクの方をみると昨日のようには大当たりをしていないが、そこそこコインを当てているようなのだ。
うむ、もういいだろう。
我の後ろには台が空くのを待っている人もいるし、そろそろ席を譲ることにしよう。独り占めは良くないからな。譲り合いの心が大切なのである。
我はコインを持ち、ハクの方へと向かう。
今日もまた我の座っていた席へと客が殺到し始めた。カジノの客は血気盛んだ。マナーよく遊んでもらいたいものだ。
昨日と違うのは、黒服の男達に運ばれて行ったおっさんだろう。白目をむいているし、何かショックなことがあったのかもしれない。
そうか、カジノだし、大負けしたのかもしれないな。たまにはそういうこともあるよ。ああいう死にそうになっている不幸なおっさんにこそ、我の幸運を分けられたらいいんだけどね。
ハクのところに行ってみると、ハクは10,000枚のコインを約30,000枚に増やせたようだ。
3倍にできればたいしたものなのである。大勝利といっていいだろう。
我が横で見ていたら、なんと最後に1000倍が当たった。これでハクは昨日と同じく130,000枚だ。ハクもなかなかやるものなのだ。
我らは景品交換所に行き、残り2つの一番いい鑑定の魔道具と交換してもらった。景品交換所の係の者は「すごいですね」と、笑顔で我らを称えてくれる。コインを受け取るその手が少し震えているが、2,000,000枚のコインを目の前にすれば当然であろう。
鑑定の魔道具を受け取り、念の為ハクに効果を確認してもらった。その後にハクの魔法のウエストポーチに閉まっておいてもらう。目的の魔道具も無事に手に入れることが出来たので、本日のカジノでの遊びを切り上げることにした。
残り400,000枚のコインは、昨日と同じようにカジノに預けておく。また明日来よう。
我らが帰ろうとすると、一人の女が我に握手を求めてくる。我は首をかしげながら、握手に応えると女は「ありがとう!」と叫び、スロットの方へと向かっていった。
「これできっと勝てるわ!」と血走った目でスロットにコインを投入している。
ちょっと怖いな。
あの女は我の幸運を少しでもわけて欲しかったのか。うむうむ、我の運は255だから、多少のご利益があるかもね。
◆
カジノを出ると、我らと入れ違いに白衣を着た老人が黒服に連れられてカジノへと入っていく。何があったのだろう?
「先生、早く! 急いでくれ!」
「待て。年寄りをそう急かすな」
「支配人が死にそうなんだ! 急いでくれ!」
「あの鋼の心を持った男が死にそうなど何があったんじゃ?」
「いいから、早く!」
もしかして、あの倒れていたおっさんが支配人なのかな。大丈夫だろうか。我は回復魔法を使えないから、どうにもできないけどね。
我は明日もがんばろうと拳を握りしめ、宿屋へと向かった。




