第98話 奇蹟
我はゴーレムなり。
カジノで、ハクがスロットで100枚のコインを130,000枚まで増やした。なんという恐ろしいほどの幸運。まるで神様がすぐ側にいるようではないか。
我もハクの幸運にあやかりたいものだ。
次はさきほどから(ボクもボクも)とそわそわしているジスポの賭けにつきあうことにしよう。ハムスターができるようなゲームはあるのかな。
「ちゅちゅ!!」
(あのクルクルに行きたいです!!)
ジスポが指を指した方向を見るとルーレットをやっているみたいだ。確かにルーレットならジスポでもできるか。
我らはルーレットへと向かう。我がジスポにルールを説明すると(了解しました!)と敬礼して、テーブルの上に駆け出す。よいしょ、よいしょとコインを運んでいくジスポ。ジスポは赤の枠に球が入る方に3枚賭けた。
「ちゅちゅ! ちゅ!」
(ハクには負けていられないのです! でも、堅実に行くのです!)
ハクに負けないという割には、地味なかけ方だ。ジスポよ、それでは130,000枚は果てしなく遠いと思うぞ。
球が黒い枠に入った。ディーラーがジスポの賭けたコインを持って行く。
「ちゅちゅー」
(そ、そんな)
呆然とするジスポ。いや、まだ最初なのだ。がんばるのだ。たった3枚でそれほどショックを受けるとは。星金貨を14枚も食べたくせに。
星金貨が14枚あれば、140,000枚のコインに交換できたのだ。たった3枚でそんなにショックを受けないでほしい。
しばらく呆然としていたが、気を取り直して再びコインを賭けるジスポ。
赤、赤、黒、黒、赤、黒、赤、黒、……。
すごい。本当にすごい。
ここまで来ると見事だとしか言えない。ジスポは赤か黒かにしか賭けていないのに、全て外している。ジスポの手持ちのコインはとうとう残り1枚になってしまった。
ジスポは3枚ずつしか賭けていないから、33回連続で外したことになる。
我は奇蹟の現場に立ち会っているのかもしれない。そういえば、ディーラーって狙った枠にいれられるとテレビで言っていた気がする。もしかして、ハクが大当たりしたから、我らには勝たせないつもりなのだろうか。
でも、ディーラー自身も、えって顔を引きつらせているから、わざと外させているわけではないみたいだな。ディーラーはしきりに首をひねっている。
ルーレットを囲んでいた他の客達も最初7回連続で外した時は、「ははは、運がないな。ネズちゃんよ」と言葉をかけてきていた。しかし、連続で15回外した時には、嘘だろ、こいつみたいな顔でジスポの方を見てくるようになり、ジスポに声をかける者はいなくなった。
我も周りの客達の気持ちがよくわかる。我らの目の前では、ありえないことが起こっているのだから。
ジスポは最後の一枚を、悩んだ末に黒に賭ける。
今回はジスポ以外に賭ける者はいない。ディーラーも含めて、このルーレットを囲んでいる全ての者が、そろそろ当たれと願っているのがよくわかる。騒がしいカジノの中で、このルーレットだけがお通夜のように静かで、変な緊張感に包まれているからな。
ディーラーが運命のボールをウィールに投げ入れる。
ジスポはゴクリとつばを飲み込み、我に向かって両手を会わせて祈っている。我は地蔵ではないのだから、我に向かって祈るのは止めて欲しい。
重苦しい緊張感に包まれたなかで、ボールはとうとう枠に入った。その枠の色は、黒。
34回目の挑戦にして、ようやくジスポは勝利をその手につかんだのだ!
両手を高く突き上げるジスポ。
「ちゅちゅー!!」
(やった、やりましたよ!!)
と、ジスポは大はしゃぎだ。我もようやく当たったかと、胸をなで下ろす。
ディーラーを含めて、ルーレットを囲んでいた客達にも笑みが広がった。「よかったな!」「ひやひやしたぜ!」と笑いながら、拍手でジスポの勝利を称えている。
ジスポは、賭けていた1枚のコインと配当の1枚のコインを受け取り、2枚のコインをその手にすることができた。
「ちゅちゅちゅ! ちゅちゅ!」
(ボクは引き際をしっているのです! ここで退却するのです!)
ジスポは大事そうに2枚のコインを腕の中で抱きしめ、ルーレットを後にする。最初にハクに負けないと言っていたことはすっかり忘れているな。
本人がうれしそうなので、よしとしておこう。
◆
最後は我の番だ。
ハクが130,000枚。ジスポが2枚。うむ、まぁ、ジスポの2枚は触れないでおこう。四捨五入すると0だからな。
あと870,000枚か。ちょっと大変そうだが、我ならできるはずだ! ハクにできたのだから、我にもきっと出来る!
しかし、我はハクのようにいきなり全額を賭けたりはしない。某ゲームで色々と学んでいるからな。最初は10枚スロットで少しずつ増やすのだ!
我は10枚のコインを、10枚スロットに投入する! 我がぴっぴっぴとスロットを止めていくと、見事に絵柄が揃った。
えっ、マジで!?
嘘じゃないの?
我はほっぺたをつねろうとするが、メタルなのでつねることが出来なかった。我はもう一度じっくりとスロットを見る。うむ、間違いなく揃っている!
ふっふっふ。
ひゃっほーい!! 来ちゃったぜ! 本当に当たっちゃったぜ! くー!! 自分が怖くなるよ!!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
コインが出てきたので、我は慌ててコインを受け止める。バニーガールがまたカゴを持って来てくれた。10,000枚のコインが当たった。これで我は10,090枚のコインを手にしたことになる。
へっへっへ、当たっちまいました。我はそのコインを手に100枚スロットへと移動する。バニーガールはがんばってねと言って去って行った。
我は100枚スロットにコインを投入し、スロットを止める。今度は500枚が当たった。まぁ、外れじゃないからね。この調子でコツコツと増やしていければいいのだ。
◆
我が2時間ほどスロットをしたところ、約800,000枚のコインを手にすることができた。
ふー、怖い。本当に怖い。本当に自分が怖いね!
なんと6回も1000倍の絵柄が揃ったのだ。
途中でスロットの設定が狂っているんじゃないかと疑ってしまったよ。
当然、店の人も疑ったみたいだ。我が2回1000倍を当てたところで、カジノの人が来て「申し訳ありませんが、この台は調整になります」と言って、我をその台から追いやったからね。しかし、違う台でも同じように当たってしまったのだ。
本当に我は自分の運の良さが怖いよ。
運の良さ?
あっ、そうか! これは我のステータスの運255の効果なのかもしれない!
我は再び、100枚のコインを投入し、スロットを止めていく。
あ、また1000倍の絵柄が揃った!
わふー!! また100,000枚だ! これでハクのコインとあわせて目標の1,000,000枚が達成だ! 一番良い鑑定の魔道具を手に入れられるぜ!
我はこのあたりで止めるかと席を立ったところ、我の後を狙って大勢の客がその台に殺到した。みんな必死だ。
ん? なんだろう?
床に手をついてうずくまっているおっさんがいるぞ? すごいうなだれているな。何かあったのだろうか。黒い服の者達が「支配人しっかりしてください!」と声をかけているし、突然体調が悪くなったのかもしれない。
まぁ、黒い服の者達がなんとかするだろう。我はハク達を連れてその場を後にする。
◆
1,000,000枚のコインを景品交換所に持って行き、一番いい鑑定の魔道具と交換してもらった。腕輪型もあるらしいが、今回はネックレス型を選んだ。さっそくハクに身につけてもらい、ちゃんと使えるのか試してもらう。
{ログ:ゴーレムは鑑定された}
ハクに見えたか確認すると、能力値はもちろん、スキルも称号も見えたそうだ。さすがは星金貨100枚分。その性能に偽りなしだね!
景品交換所の係の人に、一番いい鑑定の魔道具はあといくつあるのか聞いたところ、腕輪型が2つあるらしい。これは明日からもカジノに通って、手に入れた方がいいかもしれない。他で手に入るとは限らないし、予備はあっても困らない。
うん、明日も来ることにしよう。
余った約30,000枚のコインをカジノに預け、我はスキップをしつつカジノを後にする。
やっぱり賭で勝てるのは楽しいな!




