第97話 カジノへ
我はゴーレムなり。
魔国イクロマの王都で一週間ほど買い物をしたり、情報を集めたりしてぶらぶらしていた。なぜか、途中から魔王城にいた兵士が我らの後をついてくるようになったのだ。
なんでついてきはじめたのだろうかと疑問に思い、我が<なんで?>と聞いたら、兵士が答えてくれた。
「黒竜様のお知り合いであられるゴーレム様に危険が及ばないように警護させていただいております!」
と、なんともうれしいことをいってくれる。これってある意味、いや、間違いなくVIP待遇ってヤツだよね。ふっふっふ、我も警護されるような立場になっちゃったか。
でも、ここは辞退するべきだな。
我は警護されるほど弱くないからね。彼らには他の仕事があるだろう。我のために彼らの仕事を邪魔してはダメなのだ。
<大丈夫だから、戻っていいよ>と、我が断ると、「どうしても、どうしてもお願いします」と必死に頼んできた。
なんでだろう?
なんでここまで必死なのだ? 我が首をひねっていると、「命がかかっているのです」と兵士が涙ながらに訴えてくるので、そこまでいうなら仕方ないと考え直し、警護についてもらうことにした。
兵士達は、我とハクへ、他の者達を絶対に近づけないぞという強い決意を持って警護にあたってくれている。我とハクを取り囲むように進む10人の兵士達。はっきりいって、かなり仰々しい。
兵士達を観察していてわかったのだが、彼らはすごい危機感を持って警護してくれているようだ。まるで爆弾を抱えているかのように緊張した面持ちだ。王都は治安が良さそうに見えるけど、そうではないのかもしれないな。
しかし、街中をぶらぶらするだけなのに、この警護とは。他の人たちの邪魔になっているね。これは早々に出発した方がいいかもしれない。王都の中は一通り見学したし、買い物もした。
うむ、大丈夫。やり忘れたことはない!
我らはカジノがあるブルギャンという街へ向かうことにし、その旨を兵士達に伝える。兵士達は、無事にやり遂げられたという安堵の表情を浮かべ、我らを王都の外まで案内してくれた。
我らを見送る兵士達は涙を浮かべて、「よかった」「ああ」「何事もなくて本当によかった」と肩をたたきあい喜んでいる。たったの4日程度のつきあいだったけど、これほどまでに我らの無事を喜んでくれるとは。
なんとも熱い兵士達だぜ!
我は涙を浮かべて喜ぶ兵士達の表情を心に刻みつける。
{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。やり遂げた兵士達を記録した}
我はリヤカーを引き王都を離れる。ハクとジスポはリヤカーの荷台から兵士達が見えなくなるまで手を振っていた。
◆
ブルギャンを目指して街道を駆ける。途中で旅人や馬車とすれ違うことはあるが、魔物や盗賊と出会うことはなかった。
魔国の中は、なかなか治安がいいようだ。
む? 遠くに見えるのは魔族の兵士達だな。あのように兵士が街道近辺を巡回しているから治安がいいのだ。魔王はいい為政者のようだ。
◆
我らは3日ほどでブルギャンへと到着した。へっへっへ、カジノの街だぜ。
ハクにリヤカーをしまってもらい、我らは街に入るための列に並ぶ。街の外側からでも見えるきらびやかな大きな建物でカジノが行われているらしい。あの建物が街の中心で、魔物を戦わせる闘技場もあの建物の中にあるから、あれほど大きいそうだ。
街の門番は子供だけと首をひねっていたが、ハクがダンジョンカードを見せると、何も言わずに我らを通してくれた。ランクを3つ星まで上げておいて良かったよ。
我らはブルギャンの中へと入り、滞在する間の宿を決める。今回は高そうな宿にした。入り口にガードマンが立っている宿だ。
最初はガードマンに追い払われそうになったが、ちょっとチップを渡して、我らはお金を持っているのだよとアピールする。やはり、お金は偉大だ。ガードマンは「失礼しました」と謝って宿の扉を開けてくれる。
部屋をとった後は、宿の店員に教会の場所を教えてもらい、教会へと向かう。
我らは教会で神へのおいのりをする。当然、セーブはできなかったが、カジノに行く前においのりをしておくのは必須だ。我は金貨を一枚寄進して教会を後にした。
◆
カジノの入り口につくと受付があった。ドレスコードでもあるのかと不安になったが、入り口で入場者1人につき、銀貨3枚を払う必要があるらしい。入場料さえ払えれば誰でも入れるそうだ。誰でもという中には、魔物も入っている。我はジスポの分もあわせて、金貨1枚を取り出して入場料を払う。
カジノの受付嬢がお釣りを渡そうとしてくるので、我はかっこよく断る。
『釣りはいらないぜ。とっときな、お嬢ちゃん』
「釣り、いらない」
そう言い残し、我らはカジノの中へと入る。
◆
わふー! カジノだよ! キラキラしているよ! くあー、がやがやとうるさいな! でも、良い感じの雰囲気だ! あっ、バニーガールがいる!!
{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。バニーガール!! を記録した}
思わず記録してしまった。落ち着け、落ち着くのだ、我!
カジノ内では専用のコインで遊ぶらしい。我は金貨3枚をコインに替える。300枚のコインになった。我はハクとジスポに100枚ずつねと伝え、コインを渡す。最初はハクとジスポの遊びにつきあうことにした。
◆
ハクはまずスロットで遊ぶようだ。我もスロットで遊ぶ予定だから、ハクの横で見学させてもらおう。100枚程度のコインはすぐなくなるだろうけどね。
えっ、いきなり、100枚のコインを使うスロットにいくの?
まぁ、どれに挑戦するかは自由だけど、100枚のコインを使うスロットだと1回しか遊べないよ。我はちょっと心配になった。でも、ハクに渡したコインだ。ハクがどう使おうと自由なのである。
今回のことを教訓にして、これからは同じような失敗をしないで欲しいね。
あ、ありえん!! なんだ、これは!!?
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}
我の目の前のスロットで、きれいに全ての絵柄が揃っている。1回目で絵柄が揃うとかあるのか。いや、目の前で起こっているのだから、あるのだろう。
スロットの上を見ると1000倍と書かれていた。ハクはこれで一気に100,000枚のコインをゲットしてしまったのか。なんというビギナーズラック。恐ろしいな。
ジャラジャラと出てくるコインを我はあわてて受け止める。バニーガールがコインを入れるための大きなカゴを持って来てくれた。ありがとう、バニーガール!
我がふいーっと一息つくマネをすると、再びハクが100枚のコインを入れた。な、なんと、まだやるのか。ま、まぁ、1000倍になったしね。好きにしたらいいさ。
その後、30分ほどハクがスロットをやると、最終的には130,000枚のコインがハクの手元には残った。ハク、恐ろしい子。我らの周りにはギャラリーが出来ている。それにしても、星金貨13枚分か。遊んで暮らせるな。
あっ、そうだ。カジノに来たのは、ただ遊ぶためだけではなかったのだ!
我は性能の良い鑑定の魔道具が欲しかったのだ。景品交換所に行って、鑑定の魔道具が何枚で交換できるのかを見ておくことにしよう。
景品交換所で確認すると、一番性能の良い鑑定の魔道具は、コイン1,000,000枚で交換できるようだ。星金貨100枚分か。半端ないぜ。
しかし、我らはすでに130,000枚のコインを持っている! きっとなんとかなるはずだ!
我は景品交換所の前で、拳を握りしめるのだった。




