SS第17話 魔王の娘、その野望
私はメヒマーサ。
魔国イクロマの魔王の娘よ。
この間はいきなり黒竜様がお城の中庭に降りてこられたからびっくりしちゃったわ。
黒竜様の考えを読んでみると、黒竜様が連れてこられた中にいた銀色の人形がすごい強いみたいね。あの黒竜様がガクブルになるなんてどれぐらい強いんでしょう。
私がそんなことを考えていると、再び黒竜様と銀色の人形達は飛び立っていった。一人だけ黒い服を着た男、あれは学生服だったからしら、学生服を着た男をおいて飛び立って行ったわ。
学生服の男とお父様が話した後に、呆然としているお父様の心を読んだのだけど、あの銀色の人形ーーゴーレムというのねーーのステータスは桁が違っていたみたい。なんというか、ミジンコと恐竜? いえ、もう比較するのがばからしくなるようなステータスを持っているみたいなのよね。
これは私の野望を叶えられるかもしれないわ。
◆
私は自分でいうのもなんだけど、とても特別な存在なの。
12歳の時に突然、昔のことを思い出したわ。
昔と言っても、今の私とは違う私の記憶。その私は15歳くらいで死んじゃったみたい。殺されたとか、事故に巻き込まれたとかじゃないわ。単なる病気。どこにでもある、ありふれた死に方ね。
死んじゃった私は、いつも一人で病院のベッドにいたから、本ばかり読んでいたの。違う世界に生まれ変わったり、突然召喚されたりする夢のような話を好んで読んでいたわね。今の私は、ある意味、死んじゃった私の願いがかなったのかもしれないわね。
でも、昔のことを思い出せてよかったと思うの。思い出せていなかったら、きっと私は目覚めた力のせいで狂っていたかもしれないから。
◆
私は小さい頃から読んでいた大魔王様が出てくるおとぎ話が大好きなの。
魔界と地上を征服した偉大なる大魔王様。突然、その姿を隠されたらしいけど、力で全世界を支配するなんて、本当に素敵。魔族に生まれたんだもの、私も世界征服をしてみたいわ。そんな大魔王様に今も私は憧れているの。
ただ世界征服をしようにも、私の力だけでは無理なこともわかっているわ。
私は戦闘能力という意味では強くないから。むしろ弱いと言って間違いないわ。攻撃魔法の適性もないし、足もそんなに速くない。体力だってないもの。普通に動けるだけでも、前の死んじゃった私の事を思えば全然幸せなんだけどね。でも、生まれ変わった私は自分の夢を叶えたいの。
◆
私には特別な力が4つあるの。
1つめは、未来予知。自分ではコントロールできないけど、いつか起こりうる未来が突然見えることがあるの。これは必ず起こる未来ではなく、変えることが出来る未来なのよね。この力のおかげで、火山の噴火を予知して、麓の街の住民を助けたこともあるのよ! すごいでしょ!
2つめは、姿隠しね。精霊達も使える力だけど、精霊や妖精以外で使える人はほとんどいないらしいわ。心のきれいな人には、姿が見えてしまうから使えるような使えないスキルね。
3つめは、物体を通り抜ける能力。私が望んだ対象を通り抜けることができるのよ。まるでお化けみたいな能力。ただ私は空を飛ぶことは出来ないから、どこにでもいけるというわけではないわ。生き物やとても強い魔法をかけられた物体を通り抜けることはできないから、制約のある力ね。
ここまでがお父様や皆が知っている私の特別な力。
でも、私には誰にも知られていない特別な力があるわ。
それは【サトリ】。
今ではちゃんとコントロールできるようになったけど、最初はこの力に苦しめられたわ。みんなの考えが、心が読めてしまうんだもの。狂っちゃいそうだった。前の私の意識がなかったら、私はきっと壊れてたわね。
今ではがんばって訓練して狙った対象の心だけを読めるようになったわ。
相手の心が読めるというのはすごい便利なのよ。相手の考えがわかるし、弱みだって握れちゃう。困っていることや悩みをさりげなく解決してあげると、みんな私に心酔してくれるの。
これは他の人に知られたらいけない力。知られてしまったら怖がられて、誰も私に近寄らなくなる諸刃の力。
◆
黒竜様がゴーレム達と一緒にルップア王国で召喚された者達を連れ帰ってこられた。黒竜様はゴーレム達を下ろすと颯爽と飛び立っていかれたわ。
とてもかっこうよく飛び立って行かれたけど、心の中はゴーレムに関わりたくないという気持ちで一杯だったわね。いったい過去にどんなことがあったのかしら。
そして、ゴーレムは自分の魔力を帰還石に注いで、召喚された者達を送り返したわ。
信じられないほどの魔力。過去には私たち魔族を何万人も殺して、その魔力を捧げてようやく起動したって聞いてたのに。本当に一人で魔力を補ってしまったわ。まったく疲れていないし、やはり桁違いの力をもっているというのは本当みたい。
その後、あっけなく帰還石を消し去っちゃった。
ありえないわ。なんていう力なのよ。あのゴーレムには、あの力で世界をどうこうしようっていう気持ちがないから怖くないけど。ゴーレムの、あの力があれば世界征服なんて簡単じゃない。
……。
そうか、そうなのね。
あのゴーレムの力をうまく使えれば私の夢だった世界征服ができるかもしれない。私は心も読めるし、あのゴーレムはちょろそうだから、ちょっと思考を誘導してやれば、その気になるはずだわ。
それとなく近づいてあのゴーレムを操ってやろう。それで私がこの世界を征服するのよ!
◆
私は、私に心酔している男達を引き連れて、魔王城から出て行ったゴーレムの後を追ったの。
ゴーレムたちは魔道具屋でいろいろと買い物をしているわ。けっこうお金を持っているのね。私なんて、いまだにお小遣い制だからね。あんなにホイホイと買い物できないから、ちょっとうらやましい。
それにしても、やっぱりあのゴーレムはちょろそうね。穴あき包丁を魔道具と思うなんて。ここは魔道具屋だけど、便利な普通の道具も売っているのよ。少しバカなくらいがおだてて操るにはちょうど良いわ。
私は店から出た後、大通りを進んでいるゴーレムの前で一芝居をうつことにしたの。前の私が読んでいた本には、襲われている女の子を物語の主人公が助けて仲良くなるのが定番だったからね。私はその定番通りにゴーレムに近づくことにしたわ。
ふふふ、色々な本を読んでいて本当によかったわ。
◆
はぁ、はぁ。
なんで、あのゴーレムは私たちを避けて進むのよ。こんなかわいい女の子が襲われそうになっているんだから、助けなさいよね。
◆
ふー、ふー。死にそう。
でも、私は負けない。ふー、ふー。
必死の思いで演技を続けるの。あっ、あのゴーレムがようやく助けてやろうっていう気になったわ!
ふー、ふー。ふふ、ふ。私の計画は完璧ね。
「ピピー!!」と大きな笛の音が鳴り響いたけど、なに!? えっ、なんで魔王城の兵士達がここにいるの?
「ちょっと、離しなさい! うぷ」
「魔王様のご命令です。おとなしく魔王城に戻りましょう」
「いやよ、せっかく上手くいきそうなんだから、はぁ、はぁ。邪魔しないで!!」
「よし、姫様達を確保できたので、急ぎ魔王城に戻るぞ!」
「やめなさいって言ってるでしょ!!」
ぽかぽか叩いても兵士には全然効いていないわ。自分の力のなさが恨めしい。こうして、私の最初のゴーレム接近計画が失敗に終わったの。
でも、絶対にゴーレムに近づいて、世界征服を成し遂げてやるんだから!
 




