第94話 帰還する召喚者たち
我はゴーレムなり。
ルップア王国にいた4人の召喚者と向き合い、見事、魔国イクロマへ連れてくることに成功した。ふっふっふ、さすがは我だ。
4人の召喚者たちはセーラー服とブレザーが監視している。
念の為と言ってセーラー服が手を縛っていたけど、その必要はないと思うんだよね。王城でのことが嘘みたいにおとなしくしているからさ。我が近づくだけで、土下座スタイルで謝ってくるのには、まいっているけど。
我もやりすぎたかもって思っていたので、最初に彼らが謝罪してきた時に、我もごめんねってハク経由で謝ったのだ。これで水に流そうって思っていたのにな。4人とは全然打ち解けられない。出会いが最悪だったから、しかたないのかな。
◆
黒いドラゴンには魔王城の中庭に降りてもらう。学ランと魔王、その側近達が出迎えてくれた。学ランが、悄然とした4人の召喚者を見て、「ああ、やっぱり」と呟いた。
何がやっぱりなのだろう。
<何が? やっぱり?>
我が学ランに聞いてみると、気にしないでと首を振ってくる。我がセーラー服とブレザーの方を振り返ると、こちらはうんうんと頷いている。まったく、よくわからないヤツらなのである。
黒いドラゴンが魔王に「後は任せたからな」と言い残し、颯爽と飛び去っていった。ありがとう、黒いドラゴン! 君のおかげでかなり助かった。我はブンブンと手を振って、黒いドラゴンが見えなくなるまで見送った。
◆
帰還石のある場所へと魔王が我らと7人の召喚者を案内してくれる。
こちらの帰還石も城の地下深くにあるらしい。帰還石が置かれている部屋の扉を魔王が呪文を唱えて開けてくれた。魔王だけが扉を開けることができるそうだ。
あっ、手紙を書いておかないと。
我は急いでないわーポーチからノートを取り出し、1ページを丁寧に破って手紙を書く。その手紙を小さく折り、ノートから別のページを破って封筒にし、宛名と送り主を書いてセーラー服へと託す。封を閉じることはできてないが、セーラー服に日本に帰ってから閉じてもらおう。
「まかせて、ゴーレムさん! 私がちゃんと送るから安心してね!」
我が任せたと頷くと、セーラー服が右手を差し出してきた。
「ゴーレムさんのおかげで日本に帰れるわ。本当にありがとう」
我はその手を握り返し、元気でなと頷く。学ランとブレザーもそれぞれ右手を差し出してきたので我は握り返す。他の4人の召喚者とも握手をしようと前に出ると、イケメンは尻餅をつき、他の3人はひぃと言って後ずさった。
……。
我は差し出した右手をそっと引っ込める。
結局、他の召喚者には最後まで怖がられてしまった。
7人の召喚者が全員、帰還石からのびている魔法陣の上に乗ったことを確認する。セーラー服、学ラン、ブレザー、お前達のことは忘れないからな。多分。
{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。帰還する召喚者たちを記録した}
うん、ちゃんと記録ができたから、忘れないよ!
我は帰還石へと魔力を込めていく。魔法陣が光り輝き、魔王が呪文を唱えると、魔法陣が一瞬ものすごい光を発して、7人の姿が魔法陣の上から消えた。そして、魔法陣自体も魔力を込める前のように暗くなった。
「本当に送り返すことができるとは」と魔王が唖然として呟いた。
さて、この帰還石も壊していいのかな。我は念の為に魔王に確認する。
「ああ、壊せるのであれば壊してもらってかまわないが」と魔王から許可をもらったので、我はラインライトで帰還石を消し去った。
「な!? ほんとうに一瞬で消し去った。なんという力だ」
魔王が驚いているが、我は気にせず、良いことをしたなと一人で頷く。しばらくすると魔王が正気に戻り、我らを魔王城の外まで見送ってくれた。
「ゴーレム殿、それではお元気で」
<魔王も元気でね>
我は魔王へのメッセージをノートに書いて見せた。
「それでゴーレム殿は、この後どこに行かれるのですか?」
<しばらく魔国内にいる>
「えっ? なぜですか!?」
我はなんで魔王が驚いているのか疑問に思いながら、首をひねり、次のメッセージを書く。
<魔道具を買いにきた>
<まだ何も買っていない>
<だから、しばらく魔国にいる>
魔王はなぜか呆然としている。このままだといつまでたっても出発できそうにないので、我はじゃあねと手を振って、ハクとジスポを連れて魔王城を後にした。
◆
side:ユウキ(セーラー服)
光に包まれた私は、目を開けるとそこは召喚される時にいた学校の教室だった。放課後で一人残っていたから、周りに人はいない。
机の上に置いてある自分のカバンから、慌てて携帯電話を取りだして日時を確認してみると、召喚された時と同じ日付で、時間もほとんど変わっていないようだ。
着ている服も召喚された時のままだ。送り返される時に召喚された時の服装だったから、これは当然か。
窓の外を見ると運動場では見慣れていた運動部の練習が行われている。もしかして、今までのことは夢だったのかもと思ってみたが、あれが夢だとは思えない。
あっと思い、ポケットに手を入れるとそこにはちゃんと銀色のゴーレムさんから託された手紙があった。この手紙があちらの世界での出来事が夢ではないことを証明してくれている。
もしも、あのゴーレムさんに会えなかったら、きっと私は帰って来られなかった。
よくわからない剣と魔法の世界で、家族にも友達にも会うことができず、一生をあちらで過ごすことになっていたかもしれないと思うと、突然怖くなった。あちらでは生きることと帰ることに一生懸命で常に気を張り詰めていたから、気がつかなかった。いや、考えないようにしていた。
そう思うと、あのおかしなゴーレムさんには本当に助けられていたんだなぁ。今更ではあるけど、どれだけ感謝してもしきれないほどお世話になっちゃったんだな。私はこぼれ落ちそうになる涙をそっと人差し指でぬぐう。
ゴーレムさんに託された手紙だけはきちんと送り届けよう。
手紙を届けた人は、信じてくれないかもしれないけど、そして困るかもしれないけど、私はゴーレムさんに助けられたことの感謝をしっかりと伝えよう。タカシもこちらに戻ってきているはずだから、二人で届けに行ってもいいかもしれない。
私はゴーレムさんって本当はどういう名前だったのか知りたくて、手紙の封筒の後ろに書かれた送り主の名前を確認してみる。
<ゴーレムより>
あの時、ゴーレムさんは焦って書いていたからね。宛名はちゃんと書いているのに。これじゃ、きっと信じてくれないよ。
やっぱり、ゴーレムさんは抜けているなと思い、私は一人だけの教室で微笑んだ。




