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第92話 魔王

我はゴーレムなり。


黒いドラゴンのおかげであっという間に魔王城まで辿り着くことが出来た。歩いて来ていたら、何日もかかっただろうから助かったね。魔王城の中庭は黒いドラゴンが降りることができるように設計されて作られたらしく、巨大な体の黒いドラゴンでも余裕を持って降りることが出来た。


急遽、舞い降りてきた黒いドラゴンに魔王城の魔族達は大慌てだ。中庭にはどんどん魔族達が集まってきている。我らは黒いドラゴンの背中から降りる。我はノートにメッセージを書き、黒いドラゴンに見せる。


<魔王、呼べる?>

「もちろんです。私がここに降りたから、すぐに魔王自身が来ると思いますよ」


我はノートをないわーポーチにしまい、待つことにする。


黒いドラゴンの言葉通り、すぐに騎士たちを引き連れた王様らしい恰好をした壮年の男が我らの前へとやってきた。魔王というから、巨体でいかにもモンスターですって感じの魔王を想像していたのだけど、その辺りにいる他の魔族と大して変わらない。ほぼ人間と同じだ。


「黒竜様! 突然、中庭に降りられるとは何があったのですか!? 召喚者達を始末しに関所へと向かわれたはずでは?」

「召喚者たちと一緒にゴーレム様がおられたのだ。始末など無理に決まっておろう!」

「ゴーレム様? 黒竜様の前にいるその銀色の人形の事ですか?」


黒いドラゴンは慌てたようにシッポをバシンと地面に叩き付ける。


「ば、ばっか! 気安く呼ぶな! 国ごと虐殺されるぞ! ゴーレム様は【虐殺】のスキルをお持ちのお方だぞ!!」

「な、なんと!? あの伝説のスキルを持たれているのですか!?」


あっ、また【虐殺】が話題になった。


【虐殺】ってそんなにひどいスキルなのだろうか。別に我はそんなにひどいことをしたことはないと思うのだけどな。ざわめいていた魔族達が、いきなりシーンと静まりかえった。


「そういえば、鑑定したときにそんなスキルもあったわね」

「うん。ステータスの数値に目が奪われて、スキルまで気にする余裕がなかったけど、たしかにあったと思う」

「ゴーレムさん、何をしたら【虐殺】なんていう物騒なスキルを手に入れられるんだよ」


勇者候補たちがこそこそ話しあう声だけが、中庭に響く。我が勇者候補達の方を振り返ると慌てて、口をつぐんだ。我が辺りをぐるりと見回すと、みんなの視線が我へと集中している。


ちょっと照れるな。そんなに見つめないで欲しい。

我は後ろ頭に手をやって、すこしだけ頭をかく。


ごほんと咳払いをし、魔王が黒いドラゴンに問いかける。


「それで黒竜様、一体何故そのようなスキルをお持ちの方を魔王城に連れてこられたのです?」

「うむ、それはな。ゴー」


黒いドラゴンが答えようとするが、こういう時は自分でお願いしないとね。


我は、はいはいと手を挙げる。質問に答えようとないわーポーチからノートを取り出そうとする。「なんだ、あの変なポーチは」と、魔王の後ろにいた騎士の一人がぽつりと呟いた。


我はノートをぽとりと落とす。


我だってこのポーチのガラはないわーって思っているのだ。最近は、面と向かって言われなかったから気にしないようにしてたのに。長く使い込んできたから、ちょっとだけこのガラにも味わいがあるのかもしれないと思い始めていたのに。


なんてこった。


やっぱり、みんな、このポーチを変だと思っているのだ。やはり、呪いを解くのを急いだ方が良いのかもしれない……。


我はどんよりとして肩を落とす。


「やっぱりあのポーチについて触れないでよかったわね」

「しっ、今は声をかけちゃダメだよ」

「ああ、あのテンションの下がりようはやばいな」


勇者候補たちが何かをぶつぶつと言っている。黒いドラゴンが「このバカ」と言って、呟いた騎士を鼻息でフンと吹き飛ばした。


はぁ。


もう、ほんとどうしたらいいのであろう。

このポーチ。


どうやったら呪いが解けるのであろう。


はぁ。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、憂鬱状態が解消しました}


我は気を取り直し、ノートを拾い、文字を書き始める。我の背後からは、ほっと安堵した声が聞こえてくる。


<帰還石を使わせてください>


我のメッセージを見た魔王は顔色を変える。黒いドラゴンが我のノートをのぞき込み、ぶんぶんと首を振る。


「ちょ、ゴーレム様。すいませんが、話がややこしくなるのでおとなしくしていてください」


えっ、どういうことだ。文字を書けるようになったし、そんなに話がややこしくなるようなことはないと思うんだけど。我の周りに勇者候補達が集まり、声をかけてくる。


「ゴーレムさん、説明は黒竜さんに任せましょ」

「そうさ、魔王と親しい黒竜さんに任せておこうぜ」

「ゴーレムさんはどんと構えていてくれれば大丈夫ですよ」


そうかな。自分で説明した方がいいと思うんだけど、皆がそういうなら仕方ない。我はしぶしぶと頷き、黒いドラゴンに後を任せる。


「魔王よ、ゴーレム様は魔族を生け贄に帰還石を使おうというのではない。安心するが良い」

「ならばどうやって帰還石に魔力を補充するのです? 莫大な魔力が必要ですよ?」

「それならば、ゴーレム様の魔力で十分に補うことができるから、大丈夫だ」

「……黒竜様がそういうのであれば、可能なのでしょうね」

「うむ。それは間違いない」


魔王は勇者候補達に目を向ける。


「お前達が今回の召喚者なのか? たしか、人間達が召喚した数は7名ほどだったと思うが、他の者はどうした?」


黒いドラゴンが、勇者候補達に目をやり、あごをしゃくって回答せよといってくる。3人を代表して学ランが魔王の質問に答える。


「はい、僕たちが今回召喚された勇者候補です。あと4人、一緒に召喚された勇者候補がいますが、残りはみんな王国にいます」


魔王が口に手をやり考える。


「お前達がおとなしく送り返されるというのであれば、帰還石を使ってもらってかまわない。ただ、残りの召喚者も一緒につれて帰って欲しい。いや、一緒に帰還した方がお前達の為だと思う」

「それは一体どういうことよ?」

「ちょっと、ユウキは黙ってて。話がこじれるよ」

「理由はいくつかある。1つめの理由は、我らにとって召喚者はやっかいな相手なので、お前達になんとかしてもらいたい」

「たしかに、僕ら召喚された者には特別な力がありますからね」

「2つめの理由は、一緒に召喚された者たちは、一緒に送り返さないと思い描いた時と場所に送り返せない可能性が高いのだ」

「えっ、そうなんですか? なんでそんなことがわかるのでしょうか?」

「少年よ、お前の疑問はもっともだ。これを実際に確かめた者はいない。しかし、帰還石の表面に注意書きとして彫られていることだから、信憑性は高いと思う。我らとしては3人の召喚者がいなくなるだけでも、十分なので、無理に7人そろって帰れとも言えぬがな」


勇者候補たちは互いに顔を見合わせている。学ランは、魔王に続けて質問をする。


「あの、帰還石に文字を彫ることは誰にでも可能なのですか?」

「我らがお前達をだますために彫ったとでも言いたいのか?」

「いえ、そうではないですが」と学ランが気まずそうに口ごもる。

「帰還石や召喚石などのキューブを加工できる者はいない。どうやって作られたのか、いつ作られたのかすらわかっていないのがキューブなのだ。傷つけることすら不可能な代物だ。壊せるのであれば、召喚石を壊すために、人間の国に攻め込んでおるわ」

「そうなんですか。教えていただきありがとうございます」


勇者候補達は考え込み、その場の空気が沈んでいく。何を考えることがあるのだろう。7人揃って帰らないとちゃんと帰れないのなら、7人揃って帰ればいいだけなのだ。


『何を考える必要がある?』

「何を、考える?」


ハクの言葉を耳にし、勇者候補たちが顔を我とハクの方へ向けてくる。


『7人揃って帰ればいいだけだろう』

「7人、帰る、だけ」

「そうだけど、他の4人の勇者候補達は王国にいるし、中にはとても強い男もいるんだ。とてもおとなしく来てくれるとは思えないよ」

「そうよ、悔しいけど、イケメンのヤツが強いのよね」

「ああ、あいつはちょっと強さが違うよな」


『我が王国に行って連れてきてやる。力ずくではなくとも、連れてくることができるだろう』

「我、連れて、くる。力ずく、できる」

「えっ、ゴーレムさんなら、たしかにできそう」

「うん、ゴーレムさんが力ずくでやってくれるなら、間違いないよ」


あれ、なぜか我が力ずくで連れてくることになった。連れてくるという結果は一緒だけど、過程が全然違うよ?


そして、我は魔王の方を向く。


『我が召喚石を壊してきてやろう』

「我、召喚石、壊す」

「いや、召喚石は壊せない。キューブは傷つけることすら不可能だ」


魔王が我の言葉を信じてくれない。まぁ、こんな愛らしい姿のゴーレムにそんな力があるとは思わないだろうから、しかたないね。


「魔王よ、ゴーレム様が壊すというなら、キューブですら壊せる」

「しかし、黒竜様、キューブを壊すなどと信じられませぬ」

「いや、壊せる。というか、実際に余はゴーレム様がキューブを壊すところを見た」

「えっ?」


黒いドラゴンは恐ろしい記憶がよみがえってきたのか、身体をブルリと振るわせる。


たしかに黒いドラゴンの前で、たくさんあった立方体のうちの何個かを壊してしまったことがあったな。一応あの時は周りにいたドラゴンたちに謝ったら、ドラゴンたちは気にするなと言って許してくれたんだよね。


魔王はまだ訝しんでいるが、黒竜の様子を見て「わかりました」と納得してくれた。


『それじゃ、我と一緒に誰が召喚者を連れて来る?』

「一緒、誰、来る?」

「「「えっ?」」」


えって我は召喚者の顔を知らないから、誰か一緒に来てくれないと困るんだけどね。いや、3人とも来るつもりだったのかもしれない。それを一人だけと言ってしまったから、驚いているのだ。


『みんな来る気だったのだな』

「みんな、来る?」


ゴクリとつばを飲み込み、勇者候補達は円陣を組んだ。


「タカシとヒデキの二人で行ってきなさいよ」

「ええ!? ユウキは行かないの?」

「私は失踪したんだから、今王国に戻るのは得策じゃないわよ」

「いや、タカシだけでいいんじゃないか?」

「ちょっと、待ってよ、ヒデキ!」

「そうね、魔国に一人で残っているのも心細いし、タカシだけでいいかもね」

「だろ?」

「だろ、じゃないよ!」

「タカシならできる!」

「そうよ、あんたならできるわ!」

「みんなで行こうよ!」

「タカシ、あんた民主主義って知ってる?」

「えっ、何?」

「そうだな。民主的に多数決で決めるか」

「私もそれがいいと思うわ」

「ちょっと待って、その流れだと」


なにやら勇者候補達は喚いている。セーラー服とブレザーが同時に手を上げた。


ふむ、そうか。


学ランが残って、セーラー服とブレザーが一緒に来たいということか。了解した。立候補するとは、二人ともやる気があるな。本当は一人で良かったんだけど、来たいと言うのなら、一緒に来るがいいのだ!


学ランはおとなしそうだから、仕方ない。本当は、学ランも、もっとアグレッシブに行動した方がいいと思うんだけど、今回は魔国でお留守番だ。


「そんなぁ」と学ランがうなだれているが、もう遅い。こういうのは早い者勝ちなのだ。後から、来たいと行っても遅いのだ。世の中はそんなに甘くないのだよ。


我は魔王の方を向き、『学ランの世話をみてやってくれ』と頭を下げて頼む。「学ラン、世話、みて」とハクも一緒に頭を下げる。魔王は任せろと快く引き受けてくれた。黒いドラゴンが「変な気を起こすなよ。もしも、その召喚者を亡き者にしたら、国が滅びるということを忘れるなよ」と魔王と中庭を囲んでいた者達に釘を刺していた。


なんという脅迫。我もたまには黒いドラゴンのように、交渉の際に相手を脅してみても良いかもしれない。そんなひどいことはしないけどね。


黒いドラゴンには召喚された勇者候補がいるルップア王国の王都近くまで運んでもらうことにした。善は急げなのだ! 我らが乗りやすいように黒いドラゴンが頭をさげてくれる。


ハクが最初に黒いドラゴンの背中に乗った。「えええ」と残念がっている学ランは残し、我はセーラー服とブレザーの手を取り、一緒に黒いドラゴンの背中に乗る。


「ちょ、ちょっと待って!?」

「なんで、俺たちが!?」

とセーラー服とブレザーが口走っている。我は首をひねりつつ、二人へと言葉をかける。


『立候補してたよね?』

「りっこうほ、した」

「「えっ」」と二人は驚き、動きを止めた。


我はそんな二人の様子に、さらに首をひねる。まぁ、いいだろう。とにもかくにも今はルップア王国を目指そう。


我が黒いドラゴンの背中をポンポンと叩くと、黒いドラゴンは空へと舞い上がり、ルップア王国を目指し飛び始めたのだった。




「あ、あの魔王様、しばらくの間お世話になります。よろしくお願いします」

「ああ、ゆっくりしていってくれ。何かあれば直接、我に話をせよ」


魔王は、召喚者に視線をやり、問いかける。


「お前は、あのゴーレムを鑑定したことがあるのか?」

「はい、1度だけ鑑定させてもらいました」

「その時のステータスの数値を教えてもらえるか?」

「マナー違反になりますけど、ゴーレムさんならいいですよ。知ってどうにかできる次元の話ではありませんから。むしろ、信じてもらえないかもしれないですけど」


魔王は召喚者からゴーレムのステータスを教えてもらう。不可思議という聞き慣れない言葉を召喚者が使うので、どういう意味かを説明してもらい、魔王はもうゴーレムについて考えることをやめにした。

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