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第89話 召喚されし者

我はゴーレムなり。


岩山を削った後は何事もなく、道に沿って普通に進んでいる。


リヤカーが頑丈だからスピードを出しても壊れないことがわかったので、歩いているのではなく、ガンガン走っているんだけどね。馬車なんて目じゃないぜ!


途中の村や町にあった冒険者ギルドで簡単な依頼を受けて日銭も稼いだ。常に鍛えておかないとすぐに身体が鈍るからな。我はゴーレムだから関係ないけど、ハクには適度な実戦を経験させておかないとね。



ちなみに、我らは魔国イクロマを目指している。

魔国イクロマは魔族が集まって出来た国で、魔王が治めているらしい。


タブロイド紙を読んで、魔国イクロマはドビア帝国と戦争中なのかと思っていたが、プトフォッショ領の砦と向かい合うような位置に砦を作っているだけらしい。攻めるというよりは、守りの為の砦なのかもしれない。


戦争中でないなら魔国イクロマに入国できるなと思い、まっすぐに魔国イクロマを目指しているわけなのだ。イクロマでは、いろいろな魔道具を売っているらしいので、鑑定できる魔道具を買いたいのだよね。ハクにそれを装備をさせておけば、ハクが危ない相手と戦わずに逃げられるだろうから。


敵わぬ相手に戦いを挑むのは勇気ではなくて無謀なのだ。





もうすぐ魔国イクロマだ。どんな感じの国なんだろうとワクワクしていると、道の先で戦闘が繰り広げられている。ハクもリヤカーの上に立ち上がって前方を眺めている。


女一人に男二人が襲いかかっているみたいに見える。バンバン魔法を使っているので、目立つこと半端ない。周りに人がいたらいい迷惑だよ。そして、面倒な事にこっちに向かって来ているのだ。


ちょっと関わると面倒な事になりそうだけど、どうしよう。どっちが悪いのかなんてわからない。もしかしたら、女が盗賊かもしれないし。とりあえず、道の脇に避難するか。


我は道から離れたところにあった大岩までリヤカーを移動させる。そして、大岩の上に登り、女と男達の戦闘を観察する。


女はセーラー服みたいな服を身にまとい、男のうちの一人は学生服のような服を着ている。顔も日本人のような顔立ちだし、黒髪だ。もう一人の男はブレザーみたいなのを着ている。でも、ブレザーの男は他の二人に比べると幼い感じがするね。


セーラー服を着た女と、ブレザーを着た男が剣で斬り合っている。ただ女の方がだいぶ強いみたいだ。女が魔法で攻撃すると、学生服を着た男が魔法で防御をしている。


うーん、やっぱり、どちらが悪いのかよくわからないから、このまま放っておくべきかもしれない。


おや、でも戦闘しつつ、大声で言い争いをしているぞ。


「私は日本に帰りたいの! 邪魔をしないで!!」

「ユウキ、そのためには魔王を倒さないと帰れないんだよ!」

「そうだぜ、おとなしく帰ってこいよ!」

「私はあんな王国の言うことを鵜呑みにして従うつもりなんかない! なんで勝手に召喚したようなヤツらのいうことを信じられるのよ!?」

「でも、過去には魔王を倒して帰った人もいるって話だよ!」

「それに魔法を使って悪者を倒すんだ。ゲームみたいで面白そうじゃん」

「私はそう思えないから、あの王国を出たのよ!」


日本と言ったのか、あのセーラー服。もしかするとセーラー服らは召喚された勇者候補なのかもしれん。タブロイド紙に勇者候補が一人行方不明とか書いてたし。むむむ、ということは、あやつらは同郷のものか。


同じ日本人だった者として、仲裁してやった方がいいかもな。我はハクにその場で待つように伝え、セーラー服と学ランとブレザーの前へと躍り出た。もちろん背中からのラインライトもばっちりだ。


セーラー服とブレザーが剣を切り結ぼうとしている間に躍り出たので、我へと剣が振り下ろされてくる。我は手を広げてそれぞれの剣を受け止める。


セーラー服とブレザーは突然の乱入者に目を見開いて驚いている。

離れようとするが、我が剣を握りしめたままなので、離れることができない。


「くっ、離しなさい!」

「なんなんだ、お前!?」


離せと言われて離す奴はいない。しかし、なんなんだと聞かれては教えてやらねばなるまい! ハクにここまで来てと伝え、近くまで来てもらったのを確認し、我は口上を述べる。


『なんなんだ、お前と聞かれたからには答えてやろう』

「なん、なん、やろう」


我は2本の剣を離し、ハクの前へと進み、両手を組んでポーズをとる。


『我はゴーレムなり! 我も元は日本にいたサラリーマンだったが、現在は生まれ変わってメタルゴーレムになった者だ!』

「我、ゴーレム! 我、者だ!」

「ゴーレム? 割れ物?」

「割れそうに見えないけど」


あれ、なんか、割れ物と間違われているぞ。しかし、ここは流れに乗っておくべきところだ。小さいことを気にしているときではない。


『同郷の者だったよしみだ、何を争っているのだ。我が公平な立場で話を聞いてやるから、話してみるがいい』

「同郷、いい」

「どうきょう?」

「何が言いたいんだ? このゴーレム」


しかたない。こうなれば、最終手段だ。我はないわーポーチからノートと木炭を取り出し、文字を書き始める。ハクは我が書く文字を見て、首をひねっている。それはそうだろう。なんてったって日本語だからな!


我は日本語を書いたノートをセーラー服達に見せる。


<我は元は日本人。今はメタルゴーレム。名前はゴーレム>


「ほんとなの? たしかに日本語だけど」

「メタルゴーレムでゴーレムって。ゴーレムって名前マジ? ゴーレム? ぷぷ、ゴーレム?」


ブレザーが呼び捨てにしてきたので、我は思いっきり手加減をしてパシッと頭を叩く。別にバカにされたのが悔しかったわけではない。


パシ。

{ログ:ゴーレムは召喚者ヒデキに75のダメージを与えた}


ブレザーはがくっと倒れる。


「ヒ、ヒデキ!!?」

と学ランが慌ててブレザーに駆け寄る。セーラー服は我を警戒して剣を向けてくる。我はそれを無視して、ノートに文字を書く。


<我の方が年上なのだから、ゴーレムさんと呼ぶこと!>


ぺらっとページをめくり、次の文章を見せる。


<親しき仲にも礼儀ありだ。親しくもないのに呼び捨てにするな!>


「あ、ああ。ごめんなさい。ゴーレムさん」

「ヒデキには、あとでちゃんとゴーレムさんと呼ばせるから、許してやってくれないか」


我はわかればよろしいとうむと頷く。次の質問をノートに書く。


<なんで戦ってたの?>


「それは勇者候補の私がルップア王国を飛び出したから。その追跡者として同じ勇者候補のタカシとヒデキが差し向けられたから、それを振り切るために戦ってたの」


我はふんふんとうなずきながら、次の質問をノートに書く。


<タカシ? ヒデキ?>

「ああ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね、私の名前はユウキ。そこにいる学生服を着たのがタカシで、倒れているブレザーがヒデキよ」


我はハクに自己紹介をするように伝える。ジスポもないわーポーチから顔を出す。ハクは「ハク、ジスポ」と一言だけ名前を名乗った。セーラー服と学ランは「よろしく」と返事をする。


我はこれからどうしたいのか、話を聞く。人生の先輩として相談にのってあげようではないか。


<どうしたいの?>

「私は日本に帰りたい。そのために魔国イクロマに行く必要があるの」


<なんで?>

「えっと、魔国イクロマには帰還石っていうものがあるらしく、それを使えば日本に帰れるらしいのよ」

「でも、ユウキ、それは魔王城にあるから、魔王を倒さないと使えないって言われただろ?」

「タカシ、あんた本気で王国のヤツらが言ってた事を信じてるの? 私たちを魔族と戦わせたいだけよ」


なるほどね。帰還石っていうので日本に帰れるのか。我はゴーレムだから、日本に帰りたいとは思わないけど、召喚されたこの子達は待っている人もいるだろうし、帰りたいよね。


あっ、そうだ、我が手紙を書いて日本で出してもらえば、親への感謝と謝罪を伝えられるよ。まぁ、信じてくれるかどうかはわからないけど。そうとなれば、この子達の帰還に協力してやろう。


<セーラー服、我らも魔国イクロマに行くから手伝おう>

「セーラー服って私の事? ユウキって名前があるんだけど」


我が伝えたいのは手伝おうってところなのだ。セーラー服はあだ名みたいなものじゃないか。我はノートの手伝おうというところを指さす。


「でも、あぶないかもしれないから、簡単に手伝ってなんて言えないわ」

<我は強いから心配するな! 攻撃力も防御力も255もあるんだぜ!>


我は自信満々でセーラー服にノートを見せる。

セーラー服はそのノートを見て表情を曇らせる。


「255って……。私の物理攻撃力や物理防御力は3000だから、言いたくないけど、あんまり強くないんじゃない?」


えっ、今、なんて言ったこのセーラー服。攻撃力や防御力が3000だと!?

わ、我の10倍以上のステータスがあるというのか!!?


うそだろ!? 信じられない!!?


我ってすごい強いって思ってたけど、やっぱり上には上がいるのか!?

勇者とゴーレムでは越えられない壁があるのか!?


我はがっくりとうなだれ、地面をドンドンと叩く!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}


クレーターが出来てしまった。落ち着け、我。もしかするとブラフかもしれない。セーラー服が我をだまそうとしているのかもしれない。


確かめるためには全力で攻撃してみるしかない。


我は顔を上げ、セーラー服の方を向く。ちょっと引いているセーラー服がいる。くっ、255でそんなに自信満々だったなんて滑稽ねって言いたいのだろう。たしかに3000に比べれば、255なんてゴミみたいなものだ。


我はセーラー服の方を向き、拳を構える!


セーラー服は後ずさる。すると学ランが間に入ってきた。


「ストップ、ストップ! ゴーレムさん!! 落ち着いて! 何をしようとしているの!?」


『試しの攻撃』だと我が告げると、ハクがすかさず代弁してくれる。

「試し、攻撃」


セーラー服は剣を構えて怯えている。学ランが慌てて話しかけてくる。


「待って! ちょっと待って!! そんな力で攻撃されたら、僕らは死んじゃうよ!」


我は首をひねる。ステータスで10倍以上の差があるのに、死ぬとはどういうことだ? 学ランは我に鑑定してもいいかを尋ねて、鑑定してきた。セーラー服が私もと言って鑑定してくる。くっ、こやつら、我のステータスを見て、ぷぷって笑う気なのかもしれない! 我は大人だから、笑われたって気にしないけどね!!


{ログ:ゴーレムは鑑定された}

{ログ:ゴーレムは鑑定された}


鑑定をした瞬間、学ランは固まって、セーラー服は「なんでステータスに漢字が表示されてるの?」と呟いている。


「ねぇ、タカシ、不可思議って見えるんだけど、どういうこと?」

セーラー服の問いかけにも学ランは固まったままだ。


我のスキルにも称号にも【ふかしぎ】なんて読める漢字はないんだけど、このセーラー服には何が見えているのだろう。


「ねぇ、聞いてる? タカシ。5不可思議や2不可思議ってどういうこと? 頭の良さを表すところにはその文字がないけど。ねぇ、聞いてる!?」


セーラー服が学ランの襟をつかみ、がくがくと揺すった事で学ランがようやく正気に戻ったようだ。セーラー服の首根っこをつかみ、後ろを向いてこそこそと何かをしゃべり出した。


「ええええええ」と大声でおどろくセーラー服。青い顔をしたセーラー服と学ランが我らの方にようやく向き直った。


「あ、あの、ゴーレムさん。さっきのは私の勘違いだったみたい。ゴーレムさんはすごい強いわ。多分バグキャ、ふが」


セーラー服がしゃべっている途中で、学ランがセーラー服の口を押さえた。何をしているのだ。


「すいません、ゴーレムさん。あのユウキと一緒に、僕とヒデキも連れて行ってもらっていいでしょうか?」


我はもちろんだと大きく頷く。こうして、我らは3人の勇者候補を仲間に加え、魔国イクロマを目指すことになった。





途中で目が覚めたブレザーが何かをわめいていたが、セーラー服と学ランが押さえつけて、何かを告げると途端におとなしくなった。


我がハク経由で『仲良くな』というと、ぶんぶんと3人そろって首を縦に振っている。なかなか息はあっているようだ。


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