第86話 気づかれぬ襲撃
4人の男が豪華な丸いテーブルの周りに座っている。男達の背後には、それぞれ2人の護衛らしき者たちが立って、互いに警戒し合っている。
「おい、お前さんらはこのまま黙っているつもりなのか!!?」
「落ち着け」
「俺たちが仕切っていたマーケットを荒らされて落ち着いていられるものか!?」
「もう一度言う、落ち着け」
「そうだ、そんなにいきり立つな」
「ちっ、フヌケになっちまったのかよ、お前さんらは」
「違う。ただ、今回は相手が悪い」
「あぁ? 相手が悪い? そりゃ、襲撃してきた相手に対して言うセリフだろ。俺たち、四死商を相手になめたことをしてくれやがったんだから」
「お前は、銀色のゴーレムの噂を聞いたことがないのか?」
「ザイカルタのヴィディー王国、ジョーイサの迷宮都市クワードロスの件で話題に上り始めた」
「あと、クカノの黄泉の門の解決にも、銀色のゴーレムが関わっていたらしい」
「一体なんのことをいってやがる?」
「銀色のゴーレムを相手に敵対をしない方がいい」
「下手をすれば、いや、下手をしなくても、関わるだけで、我らは壊滅に追い込まれる可能性があるからな」
「ああ、あれは話を聞く限り異常だ。今回も船を沈めきらなかったのは、警告のつもりなのだろう」
「お前らに相談した俺がバカだった。もっと、骨があると思ってたのによ!!」
ガンとテーブルをたたき、一人だけ怒っていた男はイスから乱暴に立ち上がる。そして、護衛の者と一緒に部屋から出て行った。
「あいつは、銀色のゴーレムに仕返しに行くんだろうな」
「一度ああなったら、話を聞かないからな」
「新しく四死商に迎える者を探しておくか」
部屋に残された3人の男は、互いに顔を見合わせた後、静かに席を立ち、部屋から出て行った。
◆
我はゴーレムなり。
最近はまたアスーアが、我とハクの魔物狩りについてくるようになった。「やっぱりついていかなきゃダメね」と笑っていたが、別に2人でも大丈夫なのに。一応、ジスポを入れたら2人プラス1匹いるのにね。
近くの村までワルイドボアを狩りに行った帰り道で、我らは初めて盗賊に襲われた。盗賊達は、いきなり遠くから矢を射かけてきたのだ。リヤカーを引いていた我はノー防御でカンと矢が頭に当たった。ハクが風の精霊魔法で矢をそらしたおかげで、ハクとアスーアにも被害がない。
それにしても我にとって初めての盗賊の襲撃だよ。ふふふ。
物語だと、へらへらと笑いながら、「命が惜しければ、どうたらこうたら」としゃべってくるヤツがいるものだが、実際は違うようだ。本物は実にプロ意識が高い。彼らはそろいの黒い衣装に、覆面までかぶっている。そして、決して口を開こうとはしない。
そりゃそうだろう。わざわざ目撃者を生かしておくよりは、きちんと始末してから金目のモノを奪った方がいいだろうからな。本物はやはりひと味違う。実に勉強になる。
ハクに任せようか。いや、ここは我が相手をするべきだ! 我がひとりでかっこよく相手をしたら、アスーアも我への評価を改めるかもしれない!
我はボールペン程度のラインライトを発生させ、盗賊達の足を狙って撃ち抜く。何人か避けたようだが、まだまだ甘い。我のラインライトを避けた盗賊には一人あたり10本のラインライトを追加でプレゼントした。別に避けられたのが悔しかったわけではない。初撃でくらっておけば、そんなに痛くなかったのにね。
こういう時には、伏兵みたいなヤツもきっといるものだ。今回のようなプロ意識の高いヤツらならなおさらだろう。我は念のため、周囲にもボールペン程度のラインライトを空から雨のように降らせる。
なぜかアスーアから、やり過ぎと叱られた。解せぬ。
足を傷つけた盗賊達を縛ろうと思い近づくと、盗賊達はいつのまにか自害していた。奥歯に毒でも仕込んでいたのかもしれない。
アスーアの意見も参考にして、盗賊達の死体を魔法のカバンに入れて、冒険者ギルドに持って行く。どうやら、今回の盗賊達は手配されてはいなかったらしい。プロ意識の高いヤツらだったからな。今まで完璧な仕事をしてきたのだろう。
また一つこの世から悪を無くせたようだ。
◆
また討伐の帰り道に襲われた。
アスーアが「なぜ、トロールがこんなところに。しかも5体も」と驚いている。
あのでかい魔物はトロールというらしい。初めて見た。我が4体を相手取り早々に仕留める。そして、残りの1体をハクに相手をさせた。鉄のナイフでは、トロールを傷つけることは出来るが、致命傷を与えられないようだ。トロールは傷の再生ができるみたいなんだよな。
もっと攻撃力の高いナイフを買うべきだろうか。いやいや、最初からいい武器を持たせるのはどうなんだろう。でも、ハクが自分で稼いだお金で買えるものならいいか。うん、新しいナイフを機会があれば買いに行ってみよう。
長いこと戦って、ようやくハクがトロールを倒すことができた。持久戦に持ち込まれる前に、相手を倒せるようにならないとだめだね。ハクの課題のひとつだ。
我らはトロールの死体を魔法のカバンに入れ、冒険者ギルドで売り払った。
◆
その後も討伐の帰りに、我らを狙ったかのように、この近くにはいないという魔物に襲われ続けた。アスーアが「おかしいわ。こんなことあるはずがない」と呟いている。
我は、右手の人差し指を立て、ちっちっちというジェスチャーとともに、助言をする。
『アスーア、現実から目をそらしてはいかぬよ』
「アスーア、現実」
ハクが、アスーアと現実しか言わなかったので、アスーアには意味が通じなかったらしい。でも、我のジェスチャーから、なんとなく意図を察したのか、その日の我の勉強の課題が増やされてしまった。
おそるべし。おそるべしアスーア。
◆
魔物から襲われ続けたある日、今度はドラゴンを従えた盗賊たちに襲われた。今度の盗賊達は以前の盗賊ほどプロ意識は高くないようだ。
小太りの男が、「よくもマーケットを荒らしてくれたな」とよくわからないことを言っている。ひょっとして人違いをしているのかもしれない。
我は市場を荒らしたことなどない。
きちんとハクにも買い物をした後は代金を払うように指導しているし、大量の買い込みはマナー違反だとも教えている。だから、我は大人買いなどしたことはない。誰もが気持ちよく買い物をできるように気を付けているのだ。そんな我らにマーケットを荒らしたなどと因縁をつけてくる者がいるとは考えづらい。
しかし、ドラゴンを従えて因縁をつけてくるようなヤツらだ。間違いを間違いと認めないだろう。我ら以外の者が間違えて因縁をつけられていたら、殺されてしまっていたかもしれない。
うむ、目の前の盗賊たちがうっかりさんでよかったぜ。
ハクにドラゴンと戦ってみるかと聞こうとしたら、アスーアが「あのドラゴンはゴーレムちゃんが相手をしなさいよ」と釘を刺してきた。我は当然だと頷き、ドラゴンを相手にする。
ドゴン!!
{ログ:ゴーレムはフライングマッドドラゴンに300のダメージを与えた}
{ログ:フライングマッドドラゴンは息絶えた}
ドラゴンがやられるとは思っていなかったのだろう、小太りの男は「ど、ドラゴンが。あれほどの大金をつぎ込んだドラゴンが一撃だと!?」と驚愕している。
我はボールペン程度のラインライトで、盗賊達の足を撃ち抜き、動きを止める。やはり、今回の盗賊達は前回のやつらほどプロフェッショナルではない。毒による自害などもせず、うめくだけだ。我は一人ずつロープで縛り上げ、冒険者ギルドに連行した。
今回のヤツらも手配された盗賊ではなかった。ただドラゴンの死体が結構いい値段で売れたので、ちょっとうれしい。我はなぜか引きつった顔をしているギルドの受付嬢に手をふり、冒険者ギルドを後にした。
それ以降、討伐帰りに襲われることはなくなった。ハクにとってのいい訓練になっていただけに残念だ。
◆
3人の男が豪華な丸いテーブルの周りに座っている。
「やはり、ツヤミは失敗したようだ」
「だからあのゴーレムには手を出すなと忠告したのにな」
「しかたあるまい、あいつは所詮成り上がりだ」
「空いた席には、イダサを迎え入れようと思うが異論はあるか」
「ない」
「俺もない」
「では、イダサを迎え入れて、新たな四死商とする」