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第83話 依頼をこなす

我はゴーレムなり。


ただいま我は絶賛駆け足中である。2頭の馬がひいている馬車がかっぽ、かっぽと我の前をゆっくりと進んでいる。ふっふっふ、速度の違いを見せつけやるのだ! 我は道を少しはみ出して颯爽と抜き去って行く。


我は今、昨日買ったばかりのリヤカーを引いて魔物退治へと向かっているのだ。リヤカーの荷台にはアスーアとハクが毛布を座布団代わりに敷いて座っている。ハクにとっては初めての実戦なので、体力を温存させておくためにリヤカーに乗せている。


「あらあら、ゴーレムちゃんはすごいわね」

「すごい!」


アスーアとハクの我を称える声が聞こえてくる。ふっふっふ、20%増しのスピードで駆け抜けてやるぜ!


今日はワルイドボアの退治という依頼を冒険者ギルドで受けてきた。


近くの村でワルイドボアが作物を荒らすという悪さをしているらしい。去年くらいから被害が出始めたらしいのだが、今年はワルイドボアの繁殖がうまくいったためか、去年の比ではないくらいの被害が出ているそうだ。村人も畑に柵を作り、作物を荒らされないように努力しているが、被害が減らないのだそうだ。


我らは村に着き、村長からワルイドボアについての情報をもらう。山の中に入る必要があるので、アスーアには、村に残っておいてもらうことにした。


「心配だわ」とアスーアが呟いていたが、我にはアスーアが山歩きに付いてこれるのかどうかが心配だったのだ。なんとか、我らに任せてもらった。


被害のあった畑に案内してもらう。畑の一角が根こそぎ食い尽くされていた。


これはひどい。


ワルイドボアが作物をおいしくいただいたようだ。これは、何としてもワルイドボアを美味しくいただくしかあるまい。


ハクはクンクンとあたりの臭いをかいでいる。犬っぽいから臭いとかで追跡できたりするのかな。まさか、そんな能力はないと思うんだけどね。


さて、足跡でも追っていくかと思っていたら、ハクが「こっち」と言って山の中へと進んでいく。えっ、わかるのと思いつつ、我はハクの後ろからついて行く。村の者達は、「子供と変な人形で大丈夫だべか?」と心配そうに話し合いながら、我らを見送っていた。


それからはハクが順調にワルイドボアを発見しては狩っていく。ある時は、風の精霊魔法でワルイドボアの足を傷つけて動きを止め、すれ違いざまにナイフを脳天に突き刺して仕留めていた。ある時は、遠くにいたワルイドボアを先に見つけ、こちらにやってくるワルイドボアを木の上で待機しておき、飛び降りつつ仕留めていた。ひょっとして前に狩りの経験があったのだろうか。


我が『前に狩りの経験があるのか?』と確認したら、「はじめて」と答えてくれた。初めてでよくこれほど狩れるものだ。


その後も我の手助けは特に必要なかった。


仕留めたワルイドボアは血抜きなどの処理をした方が良いのだろうけど、やり方がよくわからない。しかたないのでハクには新しくリヤカー用に買った魔法のカバンに、仕留めたワルイドボアをそのまま入れてもらうようにした。ちなみにリヤカーはアスーアと一緒に村に置いてきている。



ハクは順調にワルイドボアを狩っていく。


そりゃ、これだけいたら、村の畑の作物を食べないとやっていけないだろうと思ってしまうくらい大量にいた。途中、他のイノシシより一回り大きいイノシシもいたが、ハクは問題なく仕留める。


仕留めた血の臭いに誘われたのか、狼の群れも一度現れた。ハクにやれるかと聞いたら、「大丈夫」と言って、狼の群れに飛び込んでいく。風の精霊魔法を上手に使いつつ、狼の群れの半数ほどを倒すと、狼は逃げていった。ハクは集団戦もちゃんと出来るようだ。なかなかやるではないか。


それになんだか、ワルイドボアや狼を倒せば倒すほど、ハクの動きが少しずつ良くなっている。きっとハクのレベルが上がっているのだろう。


日が沈む前に村に帰れるように、我とハクは狩りを切り上げ、村へと帰る。


村に帰るとアスーアと村人が出迎えてくれる。ハクが狩ってきたワルイドボアを魔法のカバンから取り出すと、村人達はその量に驚いていた。


「これは2人で狩ってきたのだか?」

「私、1人」

「お嬢ちゃん一人でこれほどのワルイドボアを。小さいのにすごいんだべな」

「ホント、ハクちゃん一人で半日でこれだけ狩れるならたいしたものよ」

「たいした、こと、ない」


ハクは我の方を指さして「ゴーレム、もっと、すごい!」と我を立ててくれることも忘れない。なんて良い子なのだ! 我は背伸びをし、手を伸ばしてハクの頭をなでる。


ジスポがないわーポーチから顔を出す。ジスポはその様子を見て、ぎりぎりぎりと音を立てながら歯嚙みをして悔しがっていた。


その後は、村人からワルイドボアやウルフの血抜きの方法と毛皮の剥ぎ方を教えてもらった。時間が経っていたので、血抜きはあまり意味がなかったかもしれないけどね。ワルイドボアとウルフは大量にいらないので、ワルイドボアを1頭だけ持って帰ることにして、他のワルイドボアとウルフは村で処分してもらうことにした。


「毛皮とか、魔石とかをもらってもいいんだべか?」と信じられなさそうに聞いてくるので、我はこくりと頷く。ハクも我と同じようにこくりと頷いた。


ギルドへの討伐した証拠の提出のために、ワルイドボアとウルフの両耳だけは切って持って帰るようにとアスーアから教えてもらい、耳だけ切り取った。


こうしてハクの初めての魔物退治は終わった。ハクの初めての報酬は大銀貨1枚だった。





次の日は、アスーアが用事があるということで、町の近くで戦闘訓練を行う。やっぱり、ワルイドボアを狩ったから、前よりもスピードや体力が上がっている。


さすがはファンタジーと思わずにはいられない。





我らは毎日、ワルイドベアの討伐や、ブラッディスネークの討伐、ゴブリンの群れの討伐などを請け負っていく。我がリヤカーを引いているので、移動にかかる時間がかなり短縮されているのも大きい。他の冒険者が数日から1週間かけて完了する依頼を、我らは1日、長くても3日で完了させていった。


おかげでハクはあっという間に2つ星冒険者になった。我のブラックカードには星がないので、星が増えていくハクのダンジョンカードがうらやましい。


そんなハクの成長ぶりにアスーアも驚きを隠せないみたいだ。


「うーん、ハクちゃんはほんとすごいわね。これだけの急成長を見せるなんて」

「たいした、こと、ない」

「いいえ、たいしたものよ。一人でよくこれだけの討伐をこなしていると思うわ」

「ゴーレム、もっと、すごい」

「まぁ、ゴーレムちゃんは規格外だから基準にしちゃだめよ。いえ、ゴーレムちゃんが基準だから、これほど急激に力をつけていってるのかも」

「もっと、強く、なる!」

「でも、ゴーレムちゃんを見習っちゃダメだからね」


我を見習うなとはひどい言われようである。我は常に努力を怠っていないのに。


我は何も考えずに、ただリヤカーを引っ張っていた訳ではないのである。


我はリヤカーを引き続けることで、このリヤカーの能力を徐々に把握していたのだ。どの程度のスピードであればスムーズにコーナーを曲がれるかとか、どのあたりでブレーキをかければ対象の前にかっこよく止まれるかなど色々と試しているのだ。


かっこよく止まれるかを試していたら、あぶないとアスーアに怒られたこともあった。そのため、かっこよく止まれる練習はアスーアが乗っていないときでないとできなくなってしまった。そのような制約の多い環境の中で、我はリヤカーマスターを目指しがんばっているのだ。是非とも、ハクにも我のように努力をし続けてもらいたいものだ。





老人がしばらく、ギルドに泊まり込まなければならない仕事が入ったらしい。アスーアも用事があって家を離れることができないそうなので、初めて我とハクだけで狩りに行くことになった。


ということで、今回は少し離れた村ーー我の足で片道1日ほどかかる距離ーーからの依頼であるオーガ退治に向かうことにした。村の猟師が山奥でオーガを発見し、オーガが段々と村に近づいてきているらしいのだ。村に被害が出る前に討伐して欲しいということだった。


我とハクはアスーアに見送られ、港町を出発する。村までの道中は何事もなく進んだ。物語で定番の盗賊との出会いもない。


村に着くと、ひっそりとしている。


家の外に出ている者はいない。我らは一番大きい家の扉を叩き、依頼を受けた冒険者であることを伝えると、ほっとしたような顔をして家に入れてくれた。その家は村長の家だったらしい。すぐにオーガを発見したという猟師が呼ばれてやってきた。


我とハクはその猟師に案内してもらい、オーガを発見したという場所まで向かう。そこには確かに1匹のオーガがいた。しかし、猟師が言うには、前に見たオーガと色が違うらしい。


ハクが遠距離から風の精霊魔法でオーガの周囲の落ち葉を巻き上げる。ハクは慌てているオーガの背後に素早く近づき、心臓をナイフで突き刺した。


その様子を見て「すげぇ」と猟師が驚きを隠せないでいる。我は猟師と一緒にハクのもとまで向かう。やっぱり、猟師が前に見たオーガとは違うらしい。


「道」


とハクが突然、呟いた。我はどうしたとハクを見やると、ハクはさらに山の奥の方を指さしている。そこには確かにハクがいうように道らしきものがある。


猟師はあんなところに道はなかったという。獣道とも違うらしい。仕留めたオーガを魔法のカバンに入れて、我らは念の為に道の先を確認しに行くことにした。不安そうな猟師だが、先ほどのハクの腕前を見て我らのことを多少は信頼したのだろう。道の先へと一緒についてくるようだ。





道の先にはオーガたちが砦のような物を建設中であった。こんなところにオーガが砦を作るなんて、と猟師は驚いている。猟師が言うには、砦を作ろうとしているオーガはすべてオスらしい。集落であれば、メスのオーガもいないとおかしいのだそうだ。


『どうする? あの砦は壊滅させるか?』

「どうする?」

「いったん、戻ろう。ギルドに依頼をしてきちんと調査をした方がいい。もしかすると、オーガ達の中に王が生まれたのかもしれない」


戻るのか。ハクも猟師もいるから念には念を入れた方がいいだろう。我は、了解したと頷く。もしかするとさっきのオーガは見張りだったのかもしれないな。


『さっき殺したオーガは見張りだったのかもしれない』

「さっき、オーガ、見張り」

「さっきのオーガが見張りっていいたいのか。そうかもしれないな。だからこそ、今は急いで戻ることにしよう」


我らはいったんその場を離れ、村へと戻り始める。途中で、さきほどオーガを仕留めた場所に立ち寄った。ラインライトで血の痕を消して、周りの落ち葉をかぶせ、カモフラージュをしてから村へと戻る。


村に戻ると、村長らにオーガを1体仕留めたこと、オーガが砦を建設中であることを伝える。


村長は我らの方を見て、他の冒険者や領主の兵士が来るまでの間、村の警備を引き受けてくれないかと頼んでくる。断る理由もないので、我とハクはしばらくの間、警備のために村に滞在することにした。


そして、村長はすぐに冒険者ギルドと領主に報告と今後の対応を依頼するための使者を向かわせたのだった。老人とアスーアに、我らはしばらく戻れそうにないことを伝えるために手紙を書いたので、使者の人に託す。


ちなみに、文面を考えたのが我で、実際に手紙を書いたのはハクである。


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