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lost glory  作者: いわし
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第一章

序章


 彼らが生きる世界には、魔法と呼ばれる力が存在していた。


 人々は『魔本』という古代人たちの残した呪文書を用い魔法を構築し、体内で生成される魔力と呼ばれるエネルギーを消費する事によって魔法を行使する事が出来た。

 そしてそんな彼らが生まれる遥か昔には、その魔法の頂上たる魔王と呼ばれる存在が世界を支配していた。魔王は自らの魔法で『魔素』と呼ばれる物質を生み出し、その魔素に侵された生き物『魔獣』と呼ばれる獣を使役し、世界各国で町を、人を、穀物を、家畜を貪り食った。

 当時、その様な状況にも関わらず互いの領地の奪い合いの為に戦争状態に陥っていた帝国、獣人国、神聖皇国、城塞国家と呼ばれる四大国があった。

 その大国のうち、帝国国王がついに魔王の存在を見かね、残る三国に一時停戦、および魔王討伐のため同盟を申し出る。かねてより、四大国にとって魔王率いる軍勢は頭痛の種であったが、当時は戦争の真っただ中、その様な状況下に置いて、帝国国王からの申し出はまさに渡りに船。戦力、兵糧、兵器に充実した三国が手を組めば、いかな魔王の軍勢が強大と言え、打ち倒す事は可能の筈だった。

 しかし、三国はすぐには首を縦には振らなかった。その最も大きな理由は、魔王との決戦で勝利を収めた場合、最初に同盟を持ちかけた帝国に権力、民意を奪われてしまう恐れがあった為だ。

幾度となく帝国国王は交渉の為、三国の国王たちと卓を囲んだ。そしてその度に首を横に振られた。

 そんな日々が続き、いつしか5年の歳月が流れていた。

 当初は淡い期待を抱いていた国王もついには心が折れ、諦めかけていたそんなある日、国王の元に一人の男が姿を現す。それは周囲の召使いや側近の騎士から見れば、異様な光景に映っただろう。眼鏡を掛け、一冊の本を抱えた気弱そうな青年が、貴族すら容易に足を踏み入れる事を許されない謁見の間に、白昼堂々と入って来たのだから。

 青年は呆然とする周囲の人間達の間を抜け、国王の前に跪き、静かに告げた。

 「国王陛下、魔王討伐の為の他三国との同盟に関して、私から申し上げたいことがあります」

 静寂に包まれていた謁見の間に、青年の声が木霊した。

 その瞬間、国王の脇に警護として待機していた二人の側近が青年との距離を瞬時に詰め抜刀。無礼の限りを尽くした青年の首を刎ねようとした。

 しかしその剣は、国王の発した一言によって阻まれた。

 「……面白い。言ってみろ」

 その言葉を信じられなかったのか、側近である二人の騎士は青年の首に剣を突きつけたまま、国王に対し即座にこの無礼者の首を刎ねさせるよう抗議した。

 しかし国王はそれに応じず、青年の話に静かに耳を傾け聞いていた。それは罵声が飛び交う謁見の間の中、まるで国王と青年、二人だけしか存在しないような不思議な光景だった。

 青年の話を聞き終えた国王は静かに青年に名を問い、彼は自らの名をクロロ・カルナバルと名乗った。

 国王はクロロを自らの相談役に任命し、その数か月後、再び三国の国王と交渉を試みる。

 クロロは国王の相談役として交渉の場に共に参加し、彼らに自分たちは権力や地位に興味は無い、我々が望むのは国の、世界の平和のみであると断言し、三国の代表たちに同盟賛同の契約書を提示した。

 当然、その様な言葉を三国の国王が鵜呑みにする筈もなかったが、その直後、クロロが取り出したものを見て、全員の顔色が変わった。

 それは魔法の力が込められた、一枚の誓約書だった。

 内容は以下の通り。


一つ、我々は戦争に勝利した暁には、この同盟を三国が一斉に申し出た事とする。

二つ、戦争で多大な被害を負った国には、我が国の全ての力を持って援助する。

三つ、この同盟が存続する限り、我が国は他三国に対し、一切の戦闘行為を行わない。

四つ、戦争で得た利益を、我が国は全て放棄し、他三国に譲渡する。

五つ、以上の誓約を一つでも破った場合、署名者はその命を持って償うこととする。

帝国国王 アレクサンドラ・ヴァルシュタイン


 この誓約書を見た他三国の国王たちは驚愕を隠す事が出来なかった。そこに帝国の利益に繋がることが一切書かれていなかっただけならば、一笑に伏すことも出来ただろう。しかし何より最後の一文の持つ意味が重かった。

 従来、この魔法で作られた誓約書は他者に対し一方的に不利な条件を飲ますためにしか用いられることの無い物だ。一度この誓約書にサインしてしまった場合、署名者は如何なる理由があるにせよ、絶対遵守しなければならない。

 つまり、この誓約書にサインした人間が国王であった場合、誓約書に書かれた内容を反故すれば国王はその命を持って償わなければならない。つまり、死ぬということだ。

 当然の様に困惑の表情を浮かべる国王たちに向かい国王は静かに、厳かに、告げた。

「大事なのは、国ではない。最も大事なのは民達の命なのだ。頼む……」

 頭を深く下げる国王。今まで、幾度となく戦場で会いまみえ、血を流し、殺しあった相手だ。その男が、自分たちに向かって頭を下げる事がどれ程の屈辱かは、語るまでも無い。

 しかし、彼の顔には屈辱や恥と言った感情は見えない。そこにあるのは、純粋に国民の命を守るために戦おうとする男の姿だけだ。

 最早、不平を漏らす様な無粋な人間はその場にはいなかった。

 「……御顔を上げて下さい。ヴァルシュタイン殿」

 静かで、物腰の柔らかい男性が、帝国国王に声を掛け、別途用意された同盟賛同の誓約書にサインをした。

 男性の名はフィル・グラナート。当時、『慈愛のフィル』と呼ばれた神聖皇国の皇帝を務めていた男だった。

 グラナートが筆を手に取るとほぼ同時に、城塞国家、獣人国の二国の国王たちも手早く誓約書を手に取った。

 そして、グラナートは書き終えた誓約書を帝国国王、アレクサンドラ・ヴァルシュタインの前にさしだし、静かに彼の肩に手を置いた。

 「……勝ちましょう。全ての国民の為に」

 こうして、後に歴史に残る『四国同盟』は成され、その数か月後、全ての人類の存亡をかけた戦争の幕が切って落とされた。

 戦争は苛烈を極めた。どの国も例外なく国土は荒れ、数え切れないほどの死者も出た。何年も何年も、戦争は続いた。

 そうして、さらに5年の月日が流れ、四国同盟軍は苦戦の果て、魔王を打ち取った。

魔王は死に絶えたが、その後も魔王の生み出した魔素、魔獣たちは世界に散らばり、各国はその対応の為、各地に自国の部隊を配置し、魔獣を監視する事によって、世界に束の間の平和が訪れた。

 戦争後もアレクサンドラの相談役を任されたクロロの提案により、同盟国である他三国にも魔本図書館を建築。その魔本図書館を中心に、若い世代に早い段階から魔法の基礎技術を教授する為の魔法学校を設置した。


 この物語は、その戦争からさらに100年の時を経て、一人の少年が生まれた事から始まる。

その少年の名は、クライス・ヴァルシュタイン。

 戦闘に置いて魔法が全てとされる世界に生まれながら、体内で魔力の精製を行う事の出来ないと言うハンデを背負って生まれてきた、36代帝国国王の息子。

通称――『黄昏の剣聖』



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