15章 進路
読者の皆様、お待たせで~す(´∀`*) 本当は毎晩、更新したいところなのですが、一応昼間の仕事を持っている身なので、なかなか思うようにはいかんです(>_<)
書くのはホントに楽しくて、時間を忘れてしまうんですが、お陰で寝不足に……。
若い頃と違って翌日に影響するんですが、それでも又、夜遅くまで起きて書いてしまう(* ̄m ̄)
「……白鳥、冬子さん、素敵なお名前ね。 専攻はデザイン科ですね」
新宿にある服飾・デザイン専門学校の事務室の女性が言った。
今、冬子は来年の4月に入学を志望している、専門学校の願書を提出しに来ている。
「はい。」
高校の制服を着け、メイクなしの冬子は、いかにも真面目そうな女子高生に見える。
普段は学校へ行く時も軽く化粧をし、制服のスカートの丈をちょっぴり長くしたり、髪の毛をカールしたりするお洒落な学生で、生徒手帳の“服装、身だしなみ”の規則を、守っているとは言い難い。
しかし、今日は特別である。
進路指導の先生から、『志望校を訪問する時は、きちんと校則通りの服装、身だしなみで、行きなさい』と念を押されたからだ。
この専門学校は伝統があり、創立以来、数多くの有名デザイナーを輩出している。 冬子の母親も、この学園の卒業生で、自宅で趣味と実益を兼ねて、知り合いや親戚に頼まれて縫い物をしている。
そんな影響があって冬子がこの学校を選んだのだが、他にも理由があった。
新宿の学校を選べば、岡崎と会うのに便利だったからだ――。
岡崎の家は、中野にあり、新宿から中央線一本で、すぐだ。 もちろん、彼の音楽活動がその辺りに多いことも理由の一つだった。
けれど、彼に会うのをやめようと決意してからは、それが却って辛かった。
新宿に来れば、いやでも彼のことを思い出してしまうからだ。
しかし、既に進路相談で担任と進路指導の教師、そして冬子の親も交えての面談は終わっている。
これから別の学校へ、と言い出したところで『どうして?』と問われるのがオチで、冬子にはその説明をどうしていいのか、分からない。 更には、冬子はやっぱり、この学校へ行きたかった。
中学生の頃から、自分は服を創ることが好きだったし、お洒落をするのも好きだった。
母から、この学校の指導の厳しさや、それ故に卒業生が成功を収めていることを聞いて、高校を卒業したら、絶対にここへ入る、と決めていた。 今更、そんなヤワな理由で進路を変えたりはできない。
簡単な面接を終え、冬子が専門学校の門を出たのは夕方だった。
筆記試験がないとは言え、やはり緊張した。
下校の時間らしく、在校生たちが、其々に、一抱えもある程の大きなカバンを肩に掛け、思い思いのファッションに身を固めて冬空の下を校門から出ていく。
彼らの個性的、且つ斬新な装いを目で追いながら、もうすぐ自分もその仲間入りをするのだ。
そう思うと心が浮き立ち、岡崎のこともじきに忘れるだろう。
せっかく新宿まで出てきたのだから、ついでに駅ビルのブティクも覗いてみようかな、と思う。
岡崎に会うのをやめようと決心してから、ひと月近くが経っている。 つまり、それ程の間、冬子は大都会のファッション・シーンに触れていないことになる。 雑誌は見ているけど、実際に商品として店内にディスプレイされているのとは違う。 やはり、この目で見て、触れてみたい。
冬子は足を早め、新宿南口へ向かって行った。
駅ビルに入ると、冬子は真っ直ぐにエレベーターに向かった。 昇りと降りのエレベーターが隣り合う形になって階の中程で、交差している。 お気に入りのブティク、“プリンセス・ポイズン”を目指すべく、昇りエレベーターにちょこんと乗ると、後ろから次々に買い物客や会社勤めの人たちが乗ってきた。
この“プリンセス・ポイズン”はレースやリボンをふんだんに使ったガーリーな雰囲気で盛り上げた中に、一種の妖しい“毒気”を秘めている。 確かチーフ・デザイナーは、冬子が志望している専門学校の卒業生で、現在、日本のファッション・シーンの中では、若手デザイナーとして活躍している一人だ。
『それにしても……』と冬子は反対側をいく、降りエレベーターに乗っている人たちを何気なく見る。
『お洒落な人が多いな……。』 冬子の住む街にも駅ビルはある。 けれど、ここにいる人たちとは客層も違えば、服装も違う。 どこがどう、とハッキリ説明はできないが、とにかく垢抜けている、と思う。
中に一際、シックな装いをした女性がいたので冬子は思わず眼を止めた。
カプリーヌと言われる、ツバの小さなウールの帽子を目深に被っている。
すれ違いざまに、その女性が香菜子だとわかるまで1分とはかからなかった。
「……あっ……」冬子が声をあげたのと、香菜子が冬子をみたのは、ほとんど同時だった。
そして、彼女と一緒に岡崎がいたのである。
「……!!」
頭の中が一瞬にして真っ白になった。
振り返って確かめたい気持ちを、ようやく抑え、エレベーターの後ろから来る人たちに押されるようにして、冬子は降り立った。
動悸が激しく胸を打ち、心臓が口から飛び出すのではないかと思い、胸を押さえる。
『……あの人……だった……』
すれ違った時、一瞬ではあったけど、岡崎の眼が冬子を捉えた。
驚いていたようにも、怒っていたようにも見えた、その深い眼が冬子には堪らなく懐かしい。
神様は意地悪だ……。 懸命に忘れようと、会わずに今日まできたのに……。 なぜ、今になって
こんな風に岡崎に会ってしまうとは……。
冬子は呆然として、もう“プリンセス・ポイズン”のことも、学校のことも頭の中からエスケープしていた。
一人になりたかった。 が、駅ビル内の雑踏の中で、それは難しい。
『そうだ、ビルの階段なら……階段なら誰も使わないだろう……』
冬子が辺りを見回すと、“非常階段”と書かれた緑色の矢印が、ぽっかりと通路の上に掲げられていた。
『あそこだ……!』
踵を返すと足早に、人々の歩く方向とは逆方向にある、その階段を目指した。
最後まで読んでくださって、ありがとーデース(´∀`)
物語はいよいよ終盤です。
あ、ところで「スィート・サキセフォンのメモワール」の続編を今、草稿中です(まだ頭の中だけですが)そんで、こっちはR18設定ですので、残念ながら18歳未満の読者様には、申し訳ないですが続編は18歳になってからね、とさせていただきます。悪しからず~。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。♥。