14章 決意
いつも読んでくださり、ありがとーです。
ちょっぴり忙しく、文章がまとまんなかったので、すぐに次作投稿できなくてすみませーん。m(._.)m
が、今日、やっと原稿があがりました。 よかったぁ~! 読者の皆様、どうぞ続けてお読みくださーい。
それにしても、あれは何だったんだろう……。
冬子は東京湾を望む埠頭で、あの夜、岡崎から情熱的なくちづけを受けた。
眼を閉じると、今でも彼の甘く、爽やかな香りに包まれた、あの抱擁と唇の感触が蘇る。
『はぁーっ……』 冬子の口から、つい、溜息が漏れる。
冬子と冴子は『アース、ウィンド&ファイアー』のアルバムを聴いていた。
そのR&Bのバンドの曲は、よくディスコやクラブで掛かっていて、週末になると二人は遊びに出掛けたものだった――が、それは冬子が岡崎に熱を上げるに従って、足が遠のいていた。
「前は、よく行ったよねー。」 冴子が冬子の顔を見た。
「うん」 ヘア・ドライヤーでマニュキュアを乾かしながら返事をする。 この頃、冬子はディスコへの興味は、とんと薄れている。
「でさ~、ふうちゃん、今も会ってるの?」
冴子は岡崎に二度ほど、会っている。 一度目は冬子たちが、バイト先の大学生に連れられて行ったクラブで、二度目は、酔いつぶれた冬子を、岡崎がおぶって冴子の家まで来た時である。
冬子が、この頃、めっきり付き合いが悪くなったのは、今もまだ岡崎に会っているからなのを冴子は知っている。 あえて訊いたのは、話のきっかけを作るためだった。
「……もう会うの、やめた方がいいと思うよ」
「どうして?」 冬子はドライヤーのスイッチをカチっ、と切った。
冴子は美里同様、中学からの友達だ。 高校は別々の所へ通っているが、アルバイト先は一緒である。
同じ高校生といえど、男性経験がそれなりにある彼女は、冬子の恋の相談、と言っても片思いの切なさを語るだけなのだが、それによく乗ってくれてい、理解があった。
なのに今更、何を言い出すのだろう。
「ふうちゃん、あの人は大人なんだよ?」
「わかってるよ、そんなこと」
「ふうちゃんが思ってるほど、簡単にはいかないよ。 彼女だっているんしょ?」
「そんなこと、わかってるよ」
「このまま、どーすんの?」 どうするのか? と訊かれても答えなんかない。
答えのでない恋というのもあるだろう。
「まぁ、Forever 片思いってとこかも」 他人事のように言う。
「……それって、マジ?」 驚き、呆れる、といったところか。
無理もない。 冴子は、お互いの気持ちを確かめ合い、深い仲になって初めて“彼氏、彼女”になると思っている。 ただデートするだけなら友達とでもできる。 まして冬子の場合はデートと言うより、単に岡崎のライブを観に行っているだけである。そんな時間と、お金の無駄遣いばかりしていて何になるんだろ?
「まあね。」
「もったいないよ。 ふうちゃんに気がある人って結構いるんだよ。 穂積さんなんてずーっと前からふうちゃんのコトが好きなんだって」
穂積というのは冬子と冴子がバイトしているファミリーレストランで同じく働いている大学生だ。
「ふーん……」
そういえば思い当たることがある。 バイト中に冬子がミスをしたり、客に文句を言われたりすると、それとなくカバーしてくれたり元気づけてくれる。 それだけなら他のバイトの子にも、やってやりそうだが、こと冬子に関しては、自分の仕事がどんなに忙しくても、わざわざ厨房から出てきてまで、フォローしてやったりする。 ちょっと以前には「付き合っている人とか、いるの?」と、訊かれた。
岡崎とは時々会うけど、“付き合っている”というのとは違う。 あの埠頭でキスした後も、二人の間柄はそれ以前と変わらない。 ライブの後、居酒屋でチューハイを飲んだり、コーヒー・ハウスに入ったりするだけだ。 だから冬子は穂積に「いない」と答えると、付き合って欲しいと言われた。
もちろん冬子は断ったが、そんなコトはすっかり忘れていた。
「このあいだだって、ふうちゃんと話したいって……ほら、覚えてるでしょ?」
「ああ、桃陵高校の……」 バイト先のファミリーレストランに3,4人でツルンで来る男子生徒だった。
頻繁に来るので顔も覚えていた。 その中の一人が、どうやら自分に熱を上げているらしい。
接客をしたのは冴子だったが、ちょっと話したいから冬子を呼んで来てくれ、と頼まれた。
しかし、そのどちらにも興味がない。 もしこれが岡崎に出会う前だったら、軽い気持ちで、それに応じて今頃、結構楽しんでいたかもしれない。
そして、今みたいに切ない片思いをしなくても済んだろう――。
何処へも行くあてのない恋……。
それは胸の奥にしまっておき、ひとりの時は、そっと取り出して、キャンディーでも舐めるようにその甘さに浸ってみる。 実際に彼に逢えば、そのトキメキと同じくらいに切なさが胸に押し寄せて、近頃ではそれに押し潰されそうになる。
だったら逢わなければいいのに、そうせずにはいられない……。
あたかもアルコール中毒患者が、医者から禁酒を勧告されてい、自らもそれを肝に銘じているのに、つい酒に手が伸びてしまうように。
「もう、会わない方がいい」 と、冴子が言うのはもっともなのだ。
ただ、それに耐えられるか。 問題はそこである。
いっそ、彼の方から“もう会わない”と言ってくれたら……。 そうすれば自分は納得せざるを得ないだろう。 生半可、会うからいけないのだ。
もちろん岡崎が冬子に「もう、ライブに来るな」という理由は何もない。 酔いつぶれて、冴子の家に送らせるハメになっても怒らず、「誰だって酔いつぶれることくらいはある」と、言っただけだった。
彼にしたところで、ファンの子一人くらい失ったって、どうということはないだろう。
気まぐれにライブに通い続けてくれていた女の子がピタリと来なくなった。 それで終わるのだ。
『それで、いい……。』 冬子は決心すると、ベッドの脇にあるランプの灯りを消した。
冬は、もうそこまで来ていた。
季節もそろそろ秋っぽくなってきましたね~。 小説の方はちょっと早めに、
秋から冬への変わり目くらいで、今回の章を終わらせました。
わたしは海外に住んでて、四季の変化とか、あまりないので日本の気候がなつかしいです。