13章 埠頭
うっは~! 今回はちょっとスティーミーな場面を書いて、R15で大丈夫かなぁ、って思うんですが……。 まぁ、キスだけなんですけどねー。 岡崎さんが結構スゴくて、書きながら、どうやって表現しようかなぁ、と、その辺りで何度も校正したんですけどねー((´Д`;)) ハッキリ言って一番苦労した章でした。
岡崎はさっきから黙って冬子の話を聞いている。
話というのは、件の、冬子の親友が妊娠し、やむを得ず中絶費の一部を負担したというやつだ。
ライブに二度、続けて来なかった理由を尋ねると、冬子は重い口をやっと開いたのである。
「なんでオレに相談しなかったんだ?」
埠頭を吹き抜ける風に髪を乱されるままにして岡崎は静かに言った。
ドックに入っている何隻かの大型貨物船が巨大なクレーンに寄り添うように停泊している。 その対岸に石油コンビナートの煙突が、都会の灯りを背に受けて林立している。
「岡崎さんには関係ないと思ったの……」
小さな家ほども大きさのある、貨物船の積荷を保管するコンテナに、冬子は背中を凭せ掛け、膝を抱えている。
「オレはお前の友達と男のことは知らない。 でもお前が、中絶費をカンパしたってのは悪いことだ」
いつになく真剣な口調だった。
「……仕方がなかったんだよ……」 自分でも、充分承知していることを指摘されるのは辛かった。
「本気で、そう思ってるのか?」 突き放すような冷たい口調だった。
「……わかんないよ。 だって美里は、あたしと同じ高校生だよ」
「でも、その男は大学生なんだろ? もう大人じゃないか」
「そうだけど……。」 冬子が言葉に詰まっていると、岡崎は続けた。
「その大人が、女を不本意に孕ましたからって、堕ろさせる……。 しかも女の友だちに中絶費をカンパさせるなんて、とんでもない野郎だ!」 そう吐き捨てるように言ってから、
「大学辞めて働けば、そんなの何とかなんだろ? 好きな女の子供を殺すこと考えたら、そのくらいできんじゃねーか」
“子供…” 確かにそうなのだ。 身ごもる女の立場から言えば、それは当然なのだけど、そうでない男からすれば、単に、新しい細胞の塊のようにしか受け取られないことだってあるのかもしれない。
米本が中絶の時期や、費用について、まるで車の修理の相談でもするかのように冷淡だったのも、そのせいなのか。 だからと言って許されるものではないけど、それが男女の性の、決定的な違いであるかもしれない。
しかし岡崎は、それでも“子供”と、ハッキリ言った。 その命がどんなに小さなものであっても
『守るべきもの』と、言ったのだ。 冬子は胸を突かれた思いがした。
「あたしだって、いやだった。 いくら小さくても、せっかく授かった命を奪うなんて……。 でもね、助けたかったんだよ。 美里のこと……親友だもん……。」 終わりの方からは涙声になった。
面識もない美里に宿った小さな命を、こんな大切におもってくれる岡崎の優しさが、一層、冬子を悲しくさせた。
「泣くなよ……バカだな」 言葉は悪いが、その口調は優しかった。
岡崎は泣きじゃくる冬子の肩を抱いて、その胸に引き寄せ、子供をあやすように冬子の髪を撫でた。
広く温かい、その胸に額を押し付けると冬子は堰を切ったように嗚咽を上げた。
けれどその悲しみは、小さな命を奪うという罪に加担してしまった、という罪悪感から、すぐに全く別の痛みに変わってしまった。
『……この人のせいだ……』
微かに甘く、爽やかな彼の香りに刺激され、切なさが一気に込み上げてきた。
『この胸はあたしのものじゃない。 どんなに好きでも、この人はあたしのものじゃない……』
ならば、お願い……今だけそうさせて……。 ほんの少しでいいから……。
冬子がその愛しい胸に手を当てたときだった。
不意に岡崎が冬子の濡れた頬を両手で包んだ。
「んっ……」彼の唇が冬子のそれに覆いかぶさった――。
「……!」自分が今、どうゆう状況にあるのか、考える余裕すら与えられなかった。
あるのは“これは夢じゃない”というリアルな感覚だけ。
全身の神経が唇に集中するからなのか、頭の中は徐々に空っぽになっていく。
岡崎は遠慮なく、冬子の唇を自分ので包むと、熱情に絆されたように吸い付いてきた。
『目眩がしそう……』
両頬を手で挟まれているので、身動きがとれない。 もっとも拒む理由など、なにもないのだけど。
彼の舌が冬子の皓い歯をこじ開け、絡みついてくる。
次第に意識が遠くなり、もう、どうでもいいや。 と投げやりになって彼に身を任せる覚悟ができると、彼の唇は頬から耳たぶ、そして、白く滑らかな首筋への愛撫と移動していった。
新鮮なペパーミントの香りのような息が、肌にかかるのと柔らかな唇の感触が、冬子に今まで経験したことのない心地よさを与えた。
「……ふぁっ……!」 ただ、くすぐったいのとも違う……背筋がゾクゾクするような感覚に襲われて、思わず声を上げてしまう。 岡崎はそれに構わず、再び冬子の唇へ愛撫を重ねた。 今度は、それを幾度も、軽く唇の先で挟むように口づけたり、優しく咬んだりする。
もう、頭の中が溶けてしまうんじゃないかと思ったとき、岡崎が唇の動きをとめ、離れた。
冬子はそこで、やっと眼を開けた。 まるで雷にでも撃たれたような痺れが、体の隅々に残っている。
それはファーストキスと呼ぶには、あまりに衝撃的、且つ刺激的すぎた。
「ゴメン。 やりすぎた……」 自分の体から冬子を解き離すと、岡崎は今しがたまで夢中になっていた行為を詫びた。
体中から少しづつ痺れた感覚が引いていくのを感じた。
やがて、通常の感覚が徐々に戻ってくると『何が起こったんだろう……? いや、何故そんな行為に至ったんだろう?』 という疑問が頭をもたげて来た。
「……あ、あのさ……」 今のは何のつもりなのか、そう問いたかったが、
「よかった?」
ギグの後の感想を訊くような軽さで岡崎がふっ、と微笑んだ。
岡崎には2年越しの恋人がいて、自分もそれを承知している。 なのに、なんでこんなことになったのか……?
『わからない……』
ファーストキスが、どんなものなのか。 男性に免疫のない冬子が経験したのは
結構ハードなやつで、たまにはこうゆう軌道を外れたようなのも悪くないかな~
(*´∀`*) ちょっとビックリですけどねー。
皆様に読んで頂けて、ありがとうデース。