カカの天下98「牛丼と滋賀県」
「いらっしゃいませー」
いらっしゃいましたートメです。
今日は夕飯をつくるのが面倒だったので妹のカカと二人で牛丼屋へやってきました。
「ご注文よろしいですかー」
「並、つゆをだくだく、たまご」
「並、つゆをはくだく、たまご」
「かしこまりましたー」
……あれ、カカなんか違うこと言わなかったか? まぁ、いいか。
「ねえね、なんで牛丼ってこんなに流行ってるのかな。隣のカツ丼屋さんが寂しそうだったよ。お客少ないし、従業員少ないし、髪の毛少ないし」
「そりゃ牛丼のほうが安いしな。作るほうも簡単だし」
「カツより牛?」
「そうそ」
「だよね、まさしく日本人」
「……どのへんが?」
「頑張って人生カツよりギューっと周りにしめつけられながら暮らすほうが簡単だもんね」
「また子供に似合わない小難しいことを」
ちょっとうまいと思ったが。
「あれ、姉だ」
カカの視線の先をたどると……ほんとだ。ちょうど姉が店に入ってきたところだった。
「おー! なんか見知った顔を発見! 可愛い顔と貧乏な顔だ」
「誰が貧乏な顔だ」
「じゃあトメ兄に可愛い顔を譲るよ。私貧乏でいい。えっと……ぼんびー!」
それ言えば貧乏な顔ですか。
「大体な、貧乏な顔ってどんな顔だよ」
「やっすい牛丼屋しか利用できない貧乏な人の顔」
返す言葉もございません。
姉はでっかい口をあけて笑いながら僕の隣に座った。
「ご注文よろしいですか?」
「特盛り、それとキミ」
店員さんを指差してたわけたことをおっしゃる我が姉。
「ご注文は」と聞かれて「君」と答えるなんて……古臭いネタを。店員さんもあきれ返って、
「かしこまりました」
ない!? え、かしこまったの? 出てくるの? 牛丼の上にあの店員さんが!? 特盛りで!!? とすれば特盛りってどこの部分が盛り上がりなのさ!?
「なに発情してるのトメ兄」
「そういう言葉の使い方はやめなさいっ」
「なに考えてるさ弟。あたしはキミって言ったんだよ。黄、身」
……ああ……なるほど。紛らわしいことを……
「そういやお姉。こんなところに来るってことはお姉も貧乏な顔なの?」
「いやー、そんな貧乏でもないけど節約したほうがいい顔だね」
そんな微妙な顔ってどんなだ。
さて、とりあえず注文の品がくるまで雑談でもしますかね。
「ね、トメ兄って牛丼とカツ丼どっちが好き?」
「ん? 牛丼かな。普通に好み」
「お姉は?」
「カツ丼だね。肉だし、豚だし。豚っていいよね。鼻が」
たしかにあの鼻は世界が生んだ芸術品だと思う。ビバ豚鼻。
「多分姉につけたらピッタリだと思うんだ、豚鼻」
「おうおうおう、それはどういう意味ですかぃ弟さんよぅ」
「お姉が丸いって言いたいんじゃない?」
「んだとぅ! 人が気にしてたことを!!」
「や、昔より多少丸くなった今のほうがいいと思うぞ。昔のは痩せすぎ、というかムキムキすぎ」
百戦錬磨の怪物だったからな。何の百戦錬磨かという詳細はノーコメントだ。捕まる。
「そ、そっかな……」
外見がよくなったという意見は普通に嬉しいらしい。姉は照れたように頬を染め、
「そうそう。ゴリラが豚になったみたいな」
怒りで頬に赤色を上塗りした。
「あたしが豚だとぅ!?」
「お待たせしましたー」
「ほれ姉。牛丼きたぞ」
「あんたはあたしを牛と言いたいのか!?」
「は? いや、牛丼だよ飯だよメシ。めしが」
「しが……滋賀!? 今度は県!? どんだけでっかいんだあたしは!!!」
……や、その発想力がある意味でっかいが……
「腹立たしい!! かえる!!」
「げこげーこ」
「か、え、る!!!」
おー……カカのとどめで見事に怒り狂って帰っていった……なんか久々にここまでわけわからん姉を見たなぁ。
「ねぇトメ兄。姉ってすごいね」
「ああ、なんせ滋賀県だからな……どした?」
「姉の分の牛丼、空だよ」
「は!? いつの間に食ったんだあいつ!?」
「さすが滋賀県……」
「滋賀県って摩訶不思議」
「……ま、食べるか」
「そだね」
「……姉のやつ。金払ってないな」
「……そだね」
あ、滋賀県民さん勝手に県を使ってごめんなさい。