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カカの天下  作者: ルシカ
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カカの天下97「身に染みる汗」

「あー、疲れたー!」


「……はっ……はっ」


 どうも……トメです。


 いきなりごめんなさい。今日はちょっと、疲れてて……


「ふぃー」


「……ふっ……ふっ」


 ベッドにダイブして、そのまま眠ってしまいそう……


「はぁー……布団きもちいー」


「……はっ……はっ」


 あぁ……至福……太陽の匂いのする布団って最高の睡眠薬だと思いませんか? なんせ売ってないんですよ。買おうと思ってもそう簡単には買えない。いくらするんだろうなー太陽。


「……至福……だけど、なんもツッコまれないのがお兄さん寂しいな」


「……はっ、ふう」


 僕の視線に耐え切れずに観念したのか、部屋に入ってきて勝手にベッドにダイブした僕をまるっきり無視していたカカは日課の腕立て伏せを中断した。


「なに、トメ兄。私忙しいんだけど」


「ん、たしかに忙しそうだけど……カカってそんなに熱心に鍛えてたっけ」


「いつもしてるよ」


「いつもより汗の量多くない?」


「いつもどこ見てるのさヘンタイ」


 や、そういうつもりはないが……滝みたいな汗だぞ。


「まぁいいや。それより聞いてくれよカカ。僕疲れてんだよ」


「私はこれからもっと疲れるの」


「なんでわざわざ疲れることするのさ」


「いざというとき疲れないようにするため。トメ兄の愚痴聞くときとかに」


「ああ、愚痴聞くのは疲れるな。それには腕立て伏せするといいのか」


「そうだよ。知らないの? 人の愚痴聞くのには胸の筋肉使うんだよ」


「そうなのか」


「そうそう。ほら、愚痴聞いてると胸がムカムカするでしょ? だからそうならないように鍛えるの」


 ……あぁ、そうか。なるほど。確かにね、うん。


 要はムカムカすること聞かせるなってことかぁ。


「うぅ……兄の心を癒してくれないのかぁ」


「仕方ないなぁ……じゃあ聞くだけ聞いてあげるよ。でも私返事しないからね。次は腹筋するから」


「う……そんなに鍛えるのが大事か?」


「大事」


 ……あれ、なんでだろ。


 なんだかいつもと違う。カカが、真剣だ。


「……わかった、ごめん。邪魔しないよ」


「……もう、仕方ないお兄ちゃんだなぁ」


「あれ、おまえ、今なんかすごい珍しい単語を口にしなかったか!!?」


 そんな風に呼ばれたのは何年ぶりだろうかっ!?


「なぁ、なぁ、もう一回言ってくれ!」


「はいはいわかった。サユカンにもらったこの子あげるから、この子に向かって愚痴っててウザ兄!」


「うざにーって何さ!?」


 僕の抗議は無視され、あっさりと部屋を追い出されてしまった。


 そして手元に残ったのはカエルのぬいぐるみ……これに愚痴ろって?


「げろげーろ!」


 わお、思いのほかスッキリ!


「げろげーろ……」


 涙が出そうなほどスッキリさ……とほほ。


「なにあんた。いつの間にカエルになったの」


「うん、それは昨日の仏滅の日に……ってなんだ、姉か……またあんたは勝手に」


「いーじゃん、我が家なんだし。それで、どしたのそのカエル君」


「僕の心の友……愚痴を聞いてくれる唯一のゲロゲーロさ……」


「そっか。それはそれはゲロゲーロ」


 あ、昨日と言えば思い出した。


「そうだそうだ、お礼言わなきゃならなかったんだった。姉、昨日はありがとな」


「昨日? ああ、火事の」


「僕をわざわざ部屋から外まで運んでくれたんだってな」


「んー?」


「や、僕にも厄介なクセがあったもんだ。今度からはちゃんと起きれるように訓練するよ。ごめんな、ほんとダメなヤツで……ほんっとありがとう」


 ああ、なんか疲れてて元気ないから余計落ち込む……あれ。


 なんで首傾げてるんだ姉。


「そんなに感謝することないよ? あたしは大したことしてないし」


「は? だって僕の部屋は二階だぞ。そこから外まで運ぶなんていくら怪力無双の姉でも大仕事だっただろ。寝てる人間って普通より重いし」


「いやいやいや……あたしが運んだのは玄関から外までだけよ?」


「……へ?」


「二階から玄関まではカカちゃんが下ろしてきたんだよ。あんたの言うとおり寝てる人間ってのは重いからね。そこまでが限界だったんでしょ」


「……………………」


「顔真っ赤にして頑張って玄関から外へ運ぼうとしても、うまくいかなかったみたいで」


 ……あれ、あいつ、昨日なんて言ったっけ。


「そこにあたしの登場。と言ってもそんだけの距離をちょこっと手伝っただけ」


 あいつ、僕のことなんか置いてさっさと逃げ出したって言わなかったっけ。


「あ、考えてみれば騒ぎおさまった後にあんたを部屋まで運んだのはあたしか。それは感謝されることかもねー。あ、でもカカちゃん悔しがってたよ。あんたを助けられなかったこと」


 ……あいつは今、何してた?


 必死で、筋トレ、して、た。


「感謝するならカカちゃんにしなさいな。泣きながら土下座でもしてみ」


「……ん、なんか、ほんとにそうしたくなってきた」


 情けない。


 そしてどうしようもなく温かい。


 というか熱い、目の辺りが……


「愚痴なんて言ってる場合じゃないな……僕も、頑張らないと」


「そうそう、いい妹に応えられるいい兄にならないとね」


「そう、だな。はは、姉にそんなこと言われるなんて変な気分だ」


「そう? じゃ、あたしらしい応援の言葉をおくってあげよう」


「へぇ、どんなだ?」


「げろげーろ!」


「……わー、元気まんまーん」


 ……ほんと、がんばろ。


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