カカの天下94「サユカンち」
「サユカンちって結構大きいんだね」
「そうかな? カカすけの家と似たようなもんでしょ」
「や、こっちのほうが大きいって」
「いやいやー」
「私の家よりは小さいねー」
「……わたしらが謙遜してるのに君一人だけ自慢かいサエすけ」
「私の立ち位置ってそんな感じじゃないかなーと最近思うのー」
「どんなよ」
「なんかこう、遠くから面白がって見つめて、おいしいとこだけ持ってく狐みたいな?」
「……ああ、サエちゃん、すっかり汚れてしまって」
でも好きだけど。
毎度こんにちは、カカです。
今日は三人でサユカンの家にお邪魔しています。
「や、しかしわざわざ家にご招待なんてよほど私たちを友達と認めてくれたんだねサユカン」
「はっ!? べ、別にそういうわけじゃないわよ。ただ、勉強教えてもらうのにこっちからお邪魔するのも悪いから……」
「サユカちゃんて変に律儀だねー」
「変ってなにがよっ。何よ、文句あるなら言ってみなさいよ」
私とサエちゃんは互いに目を合わせ、ふっと笑った。
「基本的にケンカごしで強気な喋り方なのにねー」
「かわゆいとこあったりねー」
「礼儀正しかったりねー」
「好きな人の前で壊れたりねー」
「優しかったりねー」
「えーと……とりあえずあんたら、わたしを馬鹿にしてるよね?」
「してないしてない」
「愛してる愛してる」
「えーいうるさいわっ! さっさと中入れ!!」
サエちゃんと二人で騒ぎながら逃げるように玄関へ。実は家に入っていなかったのだった……ところでサエちゃん、その愛してるって冗談だよね? だよね? だよね……うう、聞けない。勇気ない私。
「それで正解だぞ」
……あれ? またかトメ兄。テレパシーでツッコむのはなんか人知越えててムカツクからやめろとあれほど――
「あ、猫だ」
「猫!?」
サエちゃんの呟きに反応して、私はテレパシートメ兄から意識を現実に戻した。
猫が玄関先で寝ころがっている……目が合った。
「おー、猫だー。サユカン、どこから盗んできたの?」
「なんで真っ先にそういう結論に達するかなぁっ!」
「サユカちゃん、この猫、いつ食べるの?」
「食べるかっ!? 君らわたしのことどう見てんのよ!?」
「「おもちゃ」」
「声そろえてショックなこと言うなぁ!!」
サユカンに追い立てられてきゃいきゃい騒いでいても、猫は我感ぜずで寝転がっている。こっちを興味深そうに見てはいるけど……
「はぁ、はぁ……このペースで話してるとキリないわ。さっさと部屋行って勉強はじめましょ。そこの階段あがってすぐ左だから先行ってて」
「「はーい」」
追いかけられるうちに家にお邪魔していた私とサエちゃんは二人で階段を登る。
と――
「さ、ミカンちゃん。ちょっとあっちいってまちょうねー」
ピタリ、と。
なんかいろいろ静止した。
私とサエちゃんがぐるりんと首を振り返って、猫を抱きかかえているサユカンを見る。
サユカンは「しまった……」と冷や汗を垂らして固まっていた。
「ミカン、ちゃん?」
「赤ちゃん、言葉?」
サユガス爆発。
「うっさいうっさいうっさい!! いいから部屋いけー!!!」
「だって。いきまちゅか、サエちゃん」
「いきまちょうか、カカちゃん」
「#&%”@!」
言語化できない奇声を上げながら追いかけてくるサユカンから、爆笑しながら私たちは逃げ回る。
あー、おっかし。
勉強できないねー。
「しろよ」
うっさい黙れテレパシートメ兄。
「……あれ、いまどこからかトメさんの声が」
あ、サユカンの怒りが静まった。たまには役に立つねテレパシートメ兄。
なんかいろいろツッコむところあるような気がするけど、とりあえず思うことは一つ。
愛の力って偉大だなぁ。