カカの天下907「ホワイトデーは相手の誠意がわかります」
超お久しぶりです! 5話分くらい前から続いてる話なのであしからず!
カカです。いきなりですがピンチです。なんとなく容赦なくお酒飲ませてみたらトメ兄が襲いかかってきたのです! なんで!? 私、悪いことにしてないのに! え、お酒飲ませた? そんなの可愛いイタズラじゃん。てへぺろ♪
「か、カカ、はぁ、はぁ」
てへってる場合じゃなかったー! 耳元で息の荒い兄! 怯える妹! 襲い掛かる兄! 抵抗しながらも満更でない妹! ただれた関係! 次々に壊れる友人関係! 堕ちるところまで堕ちて、それでも私、幸せでした――違うし! 喜んでないし!
「はぁ、はぁ」
「妹にハァハァするな!」
ヤバイ。何がヤバイのかわかってるようでわかってない微妙なお年頃の私だけどヤバイのはわかる。
「ね、ねぇトメ兄? どうしたの?」
「カカ」
耳元で囁かれる。
どうしよう。
心臓が跳ね上がる。
「冗談だよね? てへぺろだよね?」
「吐きそう」
「てへげろ!?」
マジどうしよう心臓が跳ね上がる。
ヤバイ。何がヤバイって誰でもわかるくらいヤバイ。
「うっ」
「ちょちょちょちょちょ! 私の耳の穴にでもそそぎ込まれるおつもりで!?」
はなしてーはなしてーと暴れてもしがみつく兄は離れない。マジでgeroする五秒前。
なにか! この事態を打開する策はないのか! 私は周囲を見渡して――いいものを見つけた。
「トメ兄、はい!」
必死で手を伸ばして掴んだそれをトメ兄の口元に突っ込む。
「おえええええええ」
「セーフ」
顔の近くでゲロっぱされてるのは宜しくないけど、最悪の事態は回避した。
その後、トメ兄はふらふらしながらも袋を片付けて、うがいとか顔洗ったりとかしてベッドに戻った。意識は朦朧としていてもその辺は染み付いているらしい。これがプロの呑んべぇか。
「疲れた……」
もういい、寝よう。私もなんかクラクラしながら布団に入った。
「…………」
なぜだろう。
寝れない。
さっきまで、これ以上ないくらい近くにあったトメ兄の顔がちらつく。
なんでだろう。
や、なんでもないし。ゲロのせいだし。
翌日。
寝れてない。今日はホワイトデー、待ちに待ったイベントだ、けど。
「なんかやる気なくなっちゃったな」
仕切る気満々だったはずが、どうでもよくなっていた。なんでだろ、こんな楽しそうなイベントに私がやる気がないなんて。
「おはよ……」
「お、はよ」
トメ兄だ。なんかドキっとした。
む、なんで顔を逸らしたの私。
おかしい。
むぅ、いや、なんでもないし。別に色々どーでもいーし。ゲロのせいだし。
気を取り直して! 今日はトメ兄に彼女を作るイベントなんだよ!
トメ兄に。
彼女。
……できても、私のこと構ってくれるのかな。
あれ、なんかさらにやる気なくなってきた。
「んー」
いいや。
しーらないっと。
「む」
トメ兄を見た。
ブサメンがいた。
「トメ兄、どしたのその顔」
「僕の顔がどうした」
「ぶさいく」
正直な私。
「今日はホワイトデーだよ? 男の正念場だよ、ニコニコしないと」
「最近、女の子たちがニコニコしながら酒瓶を口に突っ込んでくる夢ばっかり見るんだ」
「…………」
「泣いても許してくれないんだ。飲まされるんだ」
「……えっと」
「そしてなぜか体調が悪いんだ」
「えと」
「ものすごく」
「学校いってきまーす」
しーらないっと。
こんにちわ、トメです。頭痛いです。気持ち悪いです。でも頑張ってクッキー作りました。僕えらい。
「とりあえず順番にお返ししてこ……」
カカは皆集めてジャッジするとか言ってたけど、更には一人だけにとか言ってたけど、なぜか何も言われなかったし勝手に返してっていいよね。
それにしても、あのバレンタインのときの答え、本当に言わなきゃいけないのかな。正直、気が重い。
でも皆、誠意を持って言ってくれたんだ。僕も誠意を返さなきゃ!
「あ、サラさん」
「トメさん!?」
「これ、お返し」
「ごめんなさいごめんなさい先日の話はなかったことにいいい!」
「へ? あ、どこいくの」
「ごめんなさいいいいいいい! ご近所の目がああああ!」
え、なんか泣きながら逃げてかれたんですけど。そんなにご近所から見て恥ずかしいのかな僕。ええと、誠意……
「と、トメお兄さん」
「あ、サエちゃん。実は」
「ぷいっ」
え、なにこの反応。
「サエちゃん」
「ぷいー」
あからさまに顔を背けて遠ざかる、しかも自前の効果音つきという、ガン無視を上回る無視。なにこれ傷つく。
「サエちゃーん?」
「ぷーいー」
結局まともに目を合わせてくれないまま去っていってしまった。えと、誠意……
「んだよ、トメじゃねぇか」
「あ、テン! いいとこにきた!」
くじけるな、頑張れ僕!
「あん?」
「これお返し。クッキーなんだけど」
「お返し? なんのだ」
「え、あのさ。今日」
「今日なんかあったか?」
「……あのさ、こないだの飲み会のとき」
「あーあれな。飲み過ぎて記憶とんじまって大変だったわ」
「えーと、覚えていらっしゃらない?」
「なにが」
「……とりあえず、これ」
「よくわかんねーが、もらえるもんはもらっとく。さんきゅ。じゃーな」
せ、誠意……
呆然とする僕、しかし背後から新たな登場が!
「トメさんっ」
「サユカちゃん!」
僕の傷だらけの心に君の誠意こそが必要だ! とりあえず話だけでもまともに聞いて、お願いだから!
「サユカちゃん、これ――」
「ちょっと待ってくださいっ」
「ん?」
サユカちゃんはごそごそと何か取り出した。
「これを小学生が手に入れるのは、すっごくすっごく大変で、こんなに時間がかかったけどネットで評判だったからきっと喜んでくれますよねっ」
「なんのこと?」
「皆がこれをトメさんにあげる話をしてたので……はいっ、飲んでみてくださいっ」
「殺す気だぁぁぁぁぁ」
あれ?
口が勝手に動き、身体も勝手にその場から逃げだしてしまった。
誠意……! 最後には僕の誠意が……! でもなぜかサユカちゃんの持っていた酒瓶を見た瞬間、全力で拒否反応が起こったんだ。ニゲロニゲロと。
背後からサユカちゃんの悲痛な声が聞こえる。
でもごめん、身体が勝手に逃げるんだ。
なぜか。
家に帰った。
散々だった。
体調は激悪、知り合いに嫌われ、最後には自分で相手を裏切る始末。
僕、そんなに悪いことしたのかなぁ。何したのかなぁ。凹む。
「あ、カカ」
「トメ兄おかえり」
「うん、ただいま……」
「今日、どうだった?」
「踏んだり蹴ったり」
「そっか」
「うん」
「……トメ兄、チョコ食べる?」
「え」
「先月、あげてなかったし」
「……もらう」
「ほい、どうぞ」
「カカ」
「ん?」
「あんがと」
「へへー。うん」
……元気、少し出た。
「カカ、このクッキー。皆に渡してくれないかな。今日、渡せなくてさ」
「ん、わかった」
珍しくカカは理由を聞かない。
疑問には思ったけど、打ちひしがれた僕には助かるので、どうでもいいことだった。
彼女とか、実は真剣に悩んだりしてたんだけど。
やっぱりしばらくは、妹を守ることを第一に考えよう。
「カカ」
「ん?」
「一緒に食べるか」
「うん! お茶いれてくる」
おまけ。
「あれー? わたしの出番は」
バレンタインイベントの面子で忘れられてたかもしれないサカイさん、しかし後からしっかりとカカからクッキーが届けられましたとさ。
改めまして、皆様お久しぶりです。ずいぶんと長い間を空けてしまいました……ぶっちゃけ転職したり結婚したり離婚したり、わっちゃわちゃだったのですが、ようやく落ち着いてきたので投稿再開した手前でございます。
最新話まで読んでいただいていた読者様からすればえろいシーン、もといえらいシーンで止まってたところですが、今後は不定期ながらまたちょこちょこ更新しようと思いますので、どうか宜しくお願いします。
次回は、このトメの悲惨ぶりの裏話の予定です。
てゆーか、ほんとこんなに長い間ごめんなさい! 見離されてないことを祈りつつ投稿ボタンを押します!




