カカの天下90「トメ兄死なないで(笑)」
「トメ兄ってたばこ吸わないんだね」
「ん」
こんちわ、トメです。
風呂上りにビールと枝豆というなんともオヤジくさい幸せに浸っていた僕は、同じくお風呂あがりのカカにそんなことを言われました。
「なんだよいきなり」
「や、なんかさ、お酒とたばこってセットなイメージがあるから」
まぁ子供にとっては似たようなもんか。酒、たばこは二十歳からとかいう文句もよくあるし、どっちも子供には無理だというのは変わらないし。
「んぐんぐ。でさ」
「ってーおまえさんは何を飲んどるんだがやっ!?」
「泡麦茶」
「どこのオヤジの返し方だ!? っていうかさらに僕のビールをあおろうとするなっ」
「えー。おいしいのに」
おいおいおい……小学四年生からビールはまずいだろーっていうかおいしいってホントかよー大抵はじめてビール飲む人ってまずいって言いつつ飲んでるうちにおいしくなっていうくっていうのが定番なのに……!
「小学生にはまだ早い!」
「えー、お姉のやつは小一から飲んでたって」
「あれは人間じゃないからいいんだ! カカ、おまえは人間だろう」
「そのつもり」
「じゃ、あんなのを見習っちゃダメだ。人間じゃなくなるぞ」
「じゃ姉ってなんなの」
「化け物とか悪魔とか人外とか夜叉とか般若とかオークとかゴブリンとかサイボーグとか未確認阿呆物体とかそういう類だ。カカも後ろ指さされたくはないだろ? 人としてちゃんと見られたいだろ?」
「……ん、それは、まぁ、そだね」
「わかってくれてお兄さん嬉しいよ。ちなみに姉はいま言ったうちのどれだと思う?」
「オークかな」
ふむ、いいチョイスだ。オークという言葉が指すものは歴史をたどればいくつかあるのだが、もっとも多く知られているのは『人の姿をしていて創造ができず破壊しかできない存在』だろう。ゲームとか物語で出てくるやつだ。
ちなみにオークとゴブリンは語源を辿れば単なる別名で、ゲームでは分けられることが多いが実は同じ存在のことを言う(豆知識)
「うーん……あれだな、生産的なイメージまったくなくて攻撃的なイメージしかないとことかぴったりだな」
「……トメ兄も言うことに容赦ないよね」
「おまえらの兄弟だからな。んで、最初の話題はなんだっけ」
「トメ兄はたばこ吸わないんだなってこと」
「ああ、あんな身体に悪いもん吸えるか」
お金かかるし。
「よかった……あれ、吸いすぎると死んじゃうんだよね」
「まぁな。簡単には死なないけど」
「私、トメ兄が死んだら、困るよ……」
おっ、なんか、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
「トメ兄が、もしいなくなったら……」
おおお。瞳を潤ませて可愛いことを言ってくれるじゃないか!
「稼ぎがなくなる」
可愛くねぇじゃねぇか!! そりゃそうだけど!
「あ、あのさカカ。他になんかもっと、ないのか?」
「あ、ツッコミがなくなる」
「ぅおーい……」
「あ、そうそう。いくらツッコミだからってさ、誰彼構わずにテレパシーでツッコむのやめてよ」
「おまえは何の話をしているんだ」
「ん、ちょっと作者――じゃなかった、んと、なんか上の人の話」
「上ってなんだ上って」
「読し――コホン。んでさ、たばこ吸わないでよ。私あの煙キライなの」
「煙キライって……誰か身近に吸ってる人いるのか?」
「サエちゃん」
「うそっ!?」
ま、まさかまさかそんな!?
あのおとなしい子がそんな不良行為を……まさかそんなはずは。いやいやしかし今の世の中何が起こってもおかしくないぞ「あの人があんなことするだなんて信じられない」なんていうことはよくある話じゃないかでもあの子に限ってそんなううでもカカは結構前から嘘つくのやめたしそう簡単に嘘をつくはずないしむむむむ……
「なぁ、カカ。その話は本当か?」
「嘘だよ」
「嘘なのかよっ!?」
「サエちゃんを疑うなんて……トメ兄の人でなし」
「疑わせるような嘘をつくのはどうなんだコラ」
「や、私とサエちゃんどっち疑うのかなーと」
「子供のくせに高尚な実験するな! まったく……もう嘘つかないと思ってたから油断した」
「大丈夫。トメ兄にしかつかないし」
「……それもどうなんだ」
信用されてるのかどうでもいいと思われてるのか……
「どうでもよくなんかないよ」
「うあ心を読むな!」
「だってトメ兄がいないと」
「いないと?」
「稼ぎがなくなる」
……そこ戻るのかよ。