カカの天下899「あくしゅー」
「や、どうもカカです」
「知ってるけど」
どーもどーも、と気さくに握手を求められた僕はトメ、そして求めているのは名乗った通りカカです。
「どうもどうも」
「はぁ、どうも」
とりあえず握手。にぎにぎ。
「で?」
「失礼しました」
「終わりかい」
行っちゃった。なんだったんだろう。あ、ちなみに現在は何の変哲もない夕方。そろそろ夕飯の準備かなーと思ったところにカカがやってきたわけです。
「じゃじゃん!」
「今度はなんだ」
「カカ、登場!」
「そうですか」
「どうもどうも」
「何がしたいの」
とりあえず握手。にぎにぎ。
「さらば」
あ、また行っちゃった。なんだろう。今までの経験上で言うと、この二回はフェイク。三
度目あたりで手に何か仕込んできて僕に握らせる、というイタズラがありうる。
「私がカカだ」
「ほらきた」
「褒美に握手してやろう」
「なんの褒美だ」
「いつもありがとう」
「あ、はい。どうも」
改まって言われると照れるね。そして握手――と、そうはいかない。
「てい!」
「あぅ!?」
チョップでカカの手を払ってやった。案の上その手には……あれ、何もない。
「……えぅ」
なんか捨てられた子犬のような表情のカカ。
「ご、ごめん」
「……ん」
「あ、うん。握手な。ほら、あくしゅー」
「……ん」
なんだ、本当の握手してほしいだけか。甘えてきてんのか。なんでだ。
よし、名探偵(カカに関してだけ)トメ、登場。
推理しよう。
カカは握手したいだけ。
握手、つまりは手を握る。手を握りたいだけだとしたら?
理由を予測。一、ただの気分。二、心境が不安定。三、最後に何か企んでいる。
前後の状況を確認。出現が唐突――いつものこと。しかし手を払った後の反応が若干弱気なことから解答『二』が有力候補。まだ手を離さずにしょんぼりしてることからも説は補強される。あとこれ少し可愛い。
精神的に不安定になっている原因を予測。カカの心を揺さぶる点において、最近イベント等が少ないことも考慮し単なる人間関係の悪化が最有力と考える。家族関係の問題に関しては真っ先に僕の耳に入ってくるはず、教師関係についてはおそらく違う。カカは中学ではおとなしくしているし、教師AだかBだかの話を聞く限りだと周囲のウケはいいらしい。つまりは友人関係が怪しい。またかよ。
なんだかんだで大人への階段を踏み出しているカカが恥を忍んで僕に甘えてくるということは、よほど落ち込んでいると見ていい。サエちゃんかサユカちゃんの親友連中関係だろう。ではどちらか、と考えると……
「サエちゃんとケンカでもしたか」
「なんでわかったの!?」
当たりだ。サユカちゃんは時折暴走するものの空気を読むのが結構上手い。どちらかというと個性の強いカカとサエちゃんの方がぶつかりやすかったりするのだ。
「トメ兄、すごい」
「はっはっは、これは綿密な推理によって」
「ま、こんなの直感ですぐわかるよね」
「え、あの、僕はちゃんとした推理で」
「サユカンにも『誰でも君の顔見ればわかるわよ』って言われたし」
「えと、その……そだね」
僕の長考はなんだったんだろう。
「ケンカの理由は?」
「ん……大したことじゃないんだけど」
「そっか。じゃ買い物いってくるわ」
「えぇ! 話聞いてくれないの!?」
「大したことじゃないんだろ。だったらちょっと待ってろ。美味いもん作ってやるから、食いながら話せばいい」
とりあえず元気を出すのが重要だろう。
「買い物、一緒に行くか? 手、繋いで」
「そんなキモいことしないよ」
「おまえさっき何してた」
「握手してただけですけど?」
……そうですか。人が気を利かせたのに。
や、考えてみれば恥ずかしいな。やっぱしないでよかった。
「じゃ、いってきます」
「トメ兄」
「なんだ、やっぱ行くか」
「行かぬ」
固い意志が感じられる。
「でも、帰ってきたら、また握手して」
「あいよ」
なんだかね、ここまで可愛い妹って他にいるのかね……オイそこのおまえ、いまシスコンがどうとか思っただろ。違うからな。
「何作るかなー」
辛いもんでも食わせて渇入れてやるかね。
握手って便利ですよね(ぉぃ
さて、あざとい発言から始まりました。どうもお久しぶりのルシカです。順番でいくと新年の話を書くところ……ですが、今回は普通の話にしました。なぜなら次はカカラジ、そこで各キャラの新年特集をしようという魂胆だからです。おたよりについては更新停滞のこともあり、紹介できそうな数が限られているので。もちろん掲載までに投稿があれば考えますが。
今回の話の続きは一話飛び越えてまた書きまっせー。少々お待ちを。