カカの天下895「スーパーは万能です」
こんにちは、トメです。もう薄暗くなる夕時タイム、僕らは買い物にスーパーへ来ていたのですが。
「トメ兄、お腹すいたねぇ」
「すいたなぁ」
僕とカカは今、行列に並んでいます。何のかというと……何のかわかりません。
「もう二十分は並んでるよぉ」
「あれ食べたいって言ったのはカカだろ」
「そうだけどぉ。こんなに時間かかるなんて思わなかったんだもん」
「大体この先には何があるのさ」
「わかんないよ、人が並びすぎててわかんなかったんだから。でも美味しい匂いはした! 食べたい!」
つまりは野次馬根性とノリだけで並び始めたわけです。
「うーん……あの、すいません」
勇気を振り絞って、前に並んでいる女性に声をかけてみた。
「はい?」
「あの、これって何の列なんでしょう」
「わかりません」
わからんのかい。
「匂いに釣られまして……」
皆同じか。
「あなたもお仲間ですかぁ。これで売ってるのが食べ物じゃなかったらどうしましょう」
「匂いの発生源を殴って終わりでしょう」
「ですよねー」
ですよねーでいいんだ。
「ん」
くい、くい、と引っ張られる服のすそ。
「どした、カカ」
「あのね、ナンパはそのくらいにして」
「してねぇよ!」
「いやん」
「照れるなそこの他人!」
「そうだよ他人」
「そ、そこまで言わなくても……」
「面白くない他人は放って置いてさ、もっと面白いものがいっぱいあるんだよ」
「どこにだよ。ここはただのスーパーだぞ?」
「うん、スーパーだと思って侮ってた。結構、面白い人いっぱいいるんだね」
あれ見て、とさすカカの指の先には……
「あーれーたーべーたーいー!」
「ダメ! 帰るの!」
ダダをこねる子供、それを引き摺る親という定番の組み合わせが。
「普通じゃん」
「あーれーたーべーなーいーとーこーろーさーれーるー!」
「誰に」
普通じゃねぇ。
と、そこに通りがかった親子がこんなことを喋っていた。
「あんた好きや思てリンゴ買ったら重いのなんのって……けいちゃんのおでこみたいやわぁ」
けいちゃんのおでこ、どんだけ重いんだ。
更に通りすがりのカップルのうち、男が女に怒鳴っていた。
「だって高いパンツじゃないとまずいだろ!?」
なにが?
「ごめんなさい!」
謝らなくていいよ彼女さん、多分だけど。
「ね? ここには面白い人だらけだよ」
「本当だ」
「だからこの女の人は面白くないよ」
「本当だ」
「そんな素直に頷かなくても!」
「ここはスーパーだからなんでもあるんだね。きっと面白い人も笑いを売ってるんだよ」
「なるほど」
「つまりこの女の人は笑いを売れないから、きっと売れ残りなんだよ」
「なるほど」
「確かに売れ残って行き遅れてますけど納得されると腹が立ちます」
「ごめんなさい」
「私もごめんなさい」
「そんなに素直に謝られると許すしかないじゃないですか!」
どうしろと。
「ところでおねーさん」
「な、なに? お嬢ちゃん」
「ここまで仲良くなったんだから自己紹介しようよ」
「は、はぁ。別にいいですけど。私の名前は」
「じゃあだ名をつけてあげるね」
「本名聞く前に!?」
カカはそういうやつだ。
「笑いを売れないんだよね。ノー笑いだよね。一般人だよね。イッパンジン……略してノーパンでいい?」
カカはそういうやつだ。
「絶句です!」
「絶句してないじゃん」
「絶句を通りこして叫ぶほどビックリしたんです!」
「変なノーパン」
「そのあだ名やめてください! とてつもない文章になってますよ!」
「あ、列が進んだよノーパン」
「まるで私が列の先にパンツを求めてるみたいな言い方やめてください!」
「求めてるのは食べ物だっけ。パンツ食べるの?」
「どっ、はっ、ひゃえ!?」
「おぉ、びっくりしすぎて変な声になってる」
しばらくノーパンさんで遊んでる内に列は進み、僕らは無事に目的地へとたどり着きましたとさ。
あったのは最近よく見る移動販売車ってやつだ。売ってたのは手羽先、買ってその場で食べたけど、たれが濃厚で美味しかった。
「スーパーって色々あるね」
「そだな」
今度からは『笑い』の売り物にも着目してみよう、と思う僕でしたとさ。めでたしめでたし。
ノーパンさんはいつの間にかいなくなってた。きっと下着売り場に行ったんだろう。めでたしめでたし。
お久しぶりです! もー毎回毎回更新に間が空いて嫌になるんですけど、どんどん忙しくなってるので勘弁していただきたい。
で、そんな仕事の中で仕入れたネタがこれら。わりと大半実話だったりしたりしなかったり。
もーちょっと仕事に慣れて余裕出てきたら更新も増やしたい……ので体力作り頑張ります。ごっつー寒くなってきてますが、皆さん体調管理に気をつけてくださいのー!