カカの天下89「タケダVSサユカ」
ごぶさたしてるな皆! そう、俺さ。カカ君をひたひたと追い続けるタケダさっ!
……む? どこからともなく「ひたひたってストーカーちっくだなー」とか「自分で名乗るのに苗字なのはどうなんだろー」とか聞こえたような気がする。気のせいかな。トメさんの声に似てたような……まぁいいや。
とにかくだ、由々しき事態が進行している!
俺の好きなカカ君に悪い虫がついているのだっ!
俺はカカ君のクラスをそっと覗き見る……そう、四年生になる際に俺とカカ君は離れ離れになってしまったのだっ。これぞまさに運命の悪戯……なんて悪戯小僧なんだ運命というやつは。小僧のくせに。
ん? 「相変わらず無駄に難しく考えるなー」と聞こえた気が……気のせい気のせい。
とにかくとにかくだ!
あれだ、そう、今まさにカカ君とサエ君に話しかけているあいつ、サユカとかいう女だっ。
なんなんだあいつはっ。やたらと偉そうに二人と会話して……あれが世に言うアゲカツとかいう類なんだろう。なんだかおいしそうでもあるが。
……はて、「難しい言葉知ってる割にカタカナ系弱いなー」と誰か言ったような……やはりトメさんかっ。壁に耳あり障子に目あり、割れ目にトメさんだ。
……っと、危ない危ない。どうも焦りすぎて話がそれまくってしまう。
急いてはことをし損じる。慌てない慌てない、一休み一休み、年寄りに冷や水。
よし、最後のだけ意味わからないが落ち着いた。
さあ、行こう。
不良退治だっ!!
「たのもー! カカ君!」
「たのまれない誰あんたまぁいいやどっかいけ消えろ」
あ、相変わらず隙のない弾幕だ……!
だがしかし、それに怯んでいる場合じゃないのだ!
カカ君を助けなければ!
「そこの君! サユカ君と言ったね」
「なによ君。しょぼい顔だね」
「しょ……! ま、まったく本当に口の悪い不良だなっ! 俺はな、カカ君のためを思って注意しようとして来たんだ」
「注意? って、なによ」
「いいかい? 君のようながさつで」
がん!
「口が悪くて目つきが悪くて」
がん! がーん!
「女らしさも可愛げも欠片もないやつがカカ君に近づくなっ!!」
がーーーーーーん!!
でかでかとそんな言葉をバックにしてショッキングさを表している彼女は、俺の言葉に打ちのめされたらしい。ふ、ざまーみろ。
「さあカカ君。こんな不良は相手にしないで――」
「なんてこと言うのこの名無し!!」
「そうだよ名無し!」
「な、なんだよカカ君もサエ君も……というか名無しとはなんだ! 聞きようによっては名前に聞こえるが字で見るとすごくせつないぞっ 俺の名前は」
「わけのわからないことをほざくな下郎! あんたね、今の言葉撤回しなさい」
「そうだよ名無し。今のはいいすぎー!」
「な、何をだよ」
「サユカちゃんより私のほうががさつだよ!」
「カカちゃんのほうが口も目つきも悪いよ!」
「え、そこなの!?」
カカ君が自分で言うのは百歩ゆずっていいとしてサエ君ひどくないかっ!?
「それにね……あんたの目は節穴? そうだね節穴なんだね。この節穴名無し」
なんですかその声に出して読めば一応ありそうな名前!! ふしあなって苗字にななしって名前!?
「あれを見ろっ」
カカ君の指差す先には……蹲っているサユカ、君?
「………………………………………………………………ぐずっ」
「普段強気なのに意外と打たれ弱くてすぐ泣いちゃう! こんなかわゆい子を捕まえてあんたは何を言ってるの!?」
……う、うう……なんとなく言い返せない……!
「これぞ萌えー」
あれ!? なんかサエ君がフシギな発言しませんでしたかっ!?
「というわけで、節穴名無しが言ったことなんて全部間違いなんだよ、サユカン」
「そうそう、サユカちゃんは可愛いよ? だから泣き止んで……あ、これが邪魔なんだね」
ん? これって……サエ君の目線の先は……俺?
「カカちゃん」
「うん、これね」
「排除」
「了解」
……なんですかその簡潔すぎる会話こわすぎ――
ドス、メキャ! ボコ!! ボキッ!!!!
チーン。
タケダは死んでしまった。
「おお、タケダよ。死んでしまうとはやっぱり情けない」
「やっぱりとか言わないでくださいトメさん!」
天から降ってきたトメの言葉で突っ込むために自力で復活。
しかし目を開いたときには教室には誰もいませんでしたとさ。
るーるーるー。
がんばれタケダ。