カカの天下882「あなたも見ましたか? この夢を」
こんにちは、トメです。今日も今日とてカカとサエちゃんとサユカちゃんは我が家の居間でくつろいでいます。まだ夏休みだもんな。え? いや、まだ夏休みの時期だよ。うん。
「ところでさ。眉毛がありえないくらい生えて、それを必死に剃り続ける夢を見たんだけど」
カカよ、その話題をいきなり振ってどういう反応を期待してるんだ。
「カカちゃん。私はヒゲだったよ」
「それはひどい!」
うん、この会話はひどい。
「サユカちゃんは何の毛だったー?」
なんで毛の夢が前提なんだ。
「恥ずかしくて言えないわよっ」
見たのか。なんで三人とも欠かさず見てるんだ。
「じゃあトメ兄は何の毛?」
そしてなぜ当然のごとく僕に話が回ってくるんだ。
「毛の夢なんか見てないよ」
ま、当然だな。
「おっくれってるー」
「サエすけ、トメさんの何が遅れてるっていうのっ?」
「発毛」
「待てぃ」
「育毛?」
「待てというに」
「ていうかトメ兄はもうハゲだよね」
「なんで夢見てないだけでハゲ呼ばわりされにゃならんのだ」
「毛が無いから」
「文章足りない! 『毛の夢を見たことが無いから』だろ!」
「ハゲはダメだってさ。じゃあトメ兄はなんて呼ぼう」
「ツルペタはどうかなー」
サエちゃん、なぜそのような単語が出てくる。親か、親の影響なのか。
「トメ兄はツルペタ」
「なんでその設定で決定みたいな言い方するの!?」
と、そのとき。いきなり玄関のドアが開いた音がした。
「ちっす。なんか愉快な話題が聞こえたから来てみたぜぃ」
「あ、お姉だ」
「なんでこんな話題でわざわざ寄ってくるんだよ」
「毛の話題といえばあたしだ」
「毛深いのか」
「細いんだよ」
知らねぇよ。
「カツコさんはどんな毛の夢を見たんですかっ」
「もちろん胸毛で剛毛よ」
あんた今細いとか言ってなかったか。
「サユカちゃん、君と一緒で胸毛の夢だぜぃ!」
「キャー! バラさないでくださいっ」
「イケてるねーサユカちゃん」
もうやだこのツッコミどころわかんない人たち。
「これからは二人そろって胸毛ボンバーズだね、おめでとう」
「カカすけ。わたしその名前は全力で嫌」
「あたしは気にいったけど」
姉もう黙れ。
「じゃあトメ兄と二人で胸毛ボンバーズ」
「トメさんとお揃いならいいわっ」
でも胸毛だぞ。
「いっそのことー。胸毛夫婦でいいんじゃないかなー」
「それいきましょうっ」
でも胸毛だぞ。
「結婚式にはブーケの代わりに胸毛を投げるんだね」
「素敵!」
しつこいようだけど胸毛だぞ。なんでその部分だけスルーしてるんだ。相当インパクトあるだろ胸毛。
「あたしの負けだよ……この胸毛も持っていきな!」
「カツコさん、あなたの胸毛はムダにはしない!」
「あげたってことはムダ毛じゃないのかなー」
「これから有効活用するからムダじゃないんじゃない?」
「カカちゃん何に使うのー?」
「私じゃないよ、サユカンとトメ兄が使うんでしょ」
は? 僕と、サユカちゃんで?
「何をどうしろと」
「結婚式に胸毛交換」
どこの民族の儀式だ。
「もちろん三ヶ月分の胸毛なんだよねー」
「ほっほぉう! 汝、笠原トメはぁ、何時如何なる時も、胸毛を愛すると誓いますかぁ?」
「誓いますっ!」
「なんでサユカちゃんが勝手に誓ってるの!?」
「だってトメさんとの結婚ですものっ」
「だからなんで胸毛のフレーズだけ綺麗に抜けてるのさ!?」
その夜。
僕はありえないほど生え続ける胸毛を必死に剃る夢を見た。
なぜかサユカちゃんと二人で協力して。
「二人で初の共同作業です!!」
なんかやかましい姉も登場したので胸毛を投げつけてやった。
あなたは何の毛ですか?(なんちゅー質問だ)
ちなみに冒頭のカカの夢は、私が実際に見た夢です。実話です。
しかしくそー、日付が変わるまでに帰ってこれなかった……まだまだ更新は続きますよ!