カカの天下88「サユカの任務、手繋ぎ編」
「なんとか会話は達成できた。次のステップよっ」
「あれ、達成できたって言うのかなぁ。他の女の話題で」
「言うなカカしゅけっ」
「しゅけ?」
「……噛んだ」
どもども、カカしゅけと申します。
なにやらヒートアップしているのは我が友達、サユカンです。この間、愛するトメ兄とまとも(?)な会話を果たしたということで、次のターンへ移りたいそうです。ずっとサユカンのターンです。ところでターンってなに?
「具体的にはなにすんの」
「心が触れ合ったあとは身体が触れ合うのよっ」
「やーらし」
「ちがうっ」
ナニが違うんだろうか。
「そういう意味じゃなくて」
「どういう意味?」
「……えと」
「おませさん」
「どっちがだっ」
多分どっちもだ。
「手よっ。手をにぎるのよ。古今東西、身体が触れ合う最初の一歩は手を繋ぐのだと決まっているのよ」
「サユカンてさ、結構少女趣味だよね」
「やかましいわっ。とにかく協力しなさい」
「協力ってなにするの。そこまで言うからには夜も寝ないで昼寝して考えてきたんでしょうね」
「ふふん、甘いわね。夜も寝たし昼も寝たし、なんと授業中も寝たわよ」
寝てばっかりだがや。
「とにかく、私は適当にやるからカカすけも適当にフォローなさい」
「うわー難しい」
そんなわけで。
トメ兄とご対面したサユカンは、いつものごとくガチガチに固まりながらもなんとか会話してる。こないだので自然な会話は克服したって言ってたけど……あんま変わってないんじゃないかな。
さて、それにしてもどうしよう。
……要は、手を握らせればいいんだよね。
「トメ兄、まだサユカンと正しい挨拶してないんじゃない?」
「は? 挨拶ってなんだ今更」
「トメ兄甘いよ、サユカンは前のサユカちゃんじゃないんだよ。サユカンなんだよ? 呼び名が変わったらパワーアップして人格が変わってもおかしくないでしょ。なら改めて挨拶するのがスジってもんでしょ」
「おまえ、相変わらずわけわかんないなぁ」
私もそう思う。
「そんなわけで、ほら。握手握手」
ようやく私の意図がわかったのか、ボーっとしていたサユカンはようやく再起動してあたふたと手を差し出した。
面倒くさがりのトメ兄なら細かいことを気にせず、とりあえずは私の言うとおりにしてくれるはず。
ほら、すんなりとサユカンの手を握った。
これにて一件落着。
「これからもよろしく〜」
ぶんぶんと勢いよく上下に降られる二人の手。いやーラブラブ。
ラブラブ?
なんかサユカンの視線が「どこがどうラブラブなんじゃボケこらわしが望んどるのはこんな繋ぎ方じゃないんじゃガタガタいわすぞコラァ」って言ってる……
なんてわがままな。
「トメ兄、その繋ぎ方じゃサユカン不満みたい」
「そうなのか? どうしろと」
「手の繋ぎ方を逆にしてみればいいんだよ」
トメ兄は少し考えて、一旦サユカンの手を離してもう一度握りなおす。
なんというか、こう、男同士がタッグを組んで「よろしくなっ」って感じにがっしりと。
わかりやすく説明すると、恋人同士の手の繋ぎ方を上側に持ってきた感じだ。わお、ラブラブ、というかパワフルッ。
サユカンが視線でなんか言ってる……でもまぁいいじゃん、繋げたっちゃ繋げたんだしさ。なんだかんだでさっきから頬赤らめて幸せそうじゃん?
……あれ、なんか腹たってきたような。
「あ、ごめん」
「あつううううううう!!!!」
なんとなくトメ兄に向かってお茶をこぼしておいた。
なんとなく、そう、なんとなく。
深い意味はないからね。