カカの天下877「暑さゆえの過ち」
こんにちは、トメです。今年の夏はすごいですね。何がすごいかって? いやもぅ皆様お分かりの通り。
暑すぎる。
「ぐったりー」
そんなわけで妹は今で寝そべりながら、力が全く入っていない手足を無造作に放り出しています。言葉の通りぐったりポーズなのでした。
「ぐったりー」
かく言う僕も同じポーズなんだけどね。
「とめにぃ、マネしないでよ」
「仕方ないだろ、僕だって暑くて身体が動かないんだから」
「そか、そりゃぐったりの音も出るよね」
なんだ、ぐったりの音って……あぁ、ぐったりーって言ったあれか。
「カラカラカラ」
「喉が渇いた音か?」
「トメさん正解」
「やったね。正解者にご褒美くれよ」
「うむ、冷蔵庫からジュースを取ってくる権利を与えよう」
「いやおまえが取ってこいよ」
「トメ兄にもジュースあげるからさ」
「この家にある飲食類は全て僕のお金で買ったもののはずだ。おまえにそんな偉そうなことを言われる筋合いはない」
「えらえらえら」
「偉い音か」
「うむ、私は偉い」
「うん、今日はえらく暑いな」
「えらいねぇ、あついねぇ」
グダグダだ。所詮ぐったりしているときの会話なんてこんなもんである。
「がんがんがん」
「今度は何の音だ」
「や、なんかガンガンうるさくない? 外で工事でもしてるのかな」
「そういや僕も聞こえる」
でもなんでだろう? 外からっていうよりは……
「ていうか頭痛くない? トメ兄」
「……痛い」
あれ、もしかしてこの音……頭痛の音?
「なぁなぁカカさんや、もしやこれは」
「うむ、トメさんや。世に言う熱中症というやつではなかろうか」
水分だ、水分を取らなければ!
「……! げ、やばい」
「何してるのトメ兄、はやく命の水もってきてよ」
「身体が動かん。いやマジで」
「そこをなんとか頑張ってよ!」
「おまえが行けよ!」
「私はさっきから手足に力が入らないんだよ! だからジュース取ってきてって言ったんじゃん!」
「その時点で末期だったか!!」
やばい、これはヤバイ。熱中症で死人が出ることもあるご時世でこの状況はやばい。
「で、電話だ。電話で助けを求めよう」
幸い携帯はそばにある!
「わかった、愛しのサエちゃんにかけるね」
「おお、家もそんなに遠くないし、妥当な人選だ」
とりあえず水さえ飲ませてくれるなら誰でもいい!
「……あ、もしもしサエちゃん?」
『カカちゃんだー』
電話越しからサエちゃんの間延びした声が僕の耳にも聞こえてきた。
「あのね、今ちょっと助けてほしいんだけど」
『ちょっと待ってねー。ちゅー』
「サエちゃん!? もしかしてチューしてる!?」
んなわけなかろう。
『違うよー、美味しいジュースを飲んでるんだよー』
「ふざけるな!!」
カカは携帯をぶん投げた。
「……おい、身体動かないんじゃなかったのか」
「あぅぅ、私はサエちゃんになんてことを。乾きまくった口と身体が嫉妬して勝手に……恐るべき熱中症」
愛しのサエちゃんは何を思っただろうか。
「や、とりあえずそれは置いとこう。僕らの水分問題が何より先決だ」
「そ、そうだね」
カカの携帯は手の届かないところでバラバラになってしまっているが、幸い僕の携帯が手元にある。
「あ、もしもしサユカちゃん?」
とりあえず助けを求めるのがこの子、というのが情けない気はするが、なんかピンチと聞いたらありえない速さ駆けつけてくれそうだからかけてみた。
『ひほへはん! はふへひょーは!』
「何語だ」
『んっぐん! ごめんなさいトメさん、アイスがつべたくてっ!』
「くたばれ!!」
叩きつけるように電話を切った。
「……は!?」
「気持ちはわかる、わかるよトメ兄」
あろうことか僕は、サユカちゃんに殺意を……
「恐ろしい、恐ろしいぞ熱中症。こうして人の心も壊していくのか」
「とめにぃ……そろそろヤバイ」
「あぁ、僕も。頭がぐらんぐらんしてきた」
これが最後の電話だ。
「こうなったら姉だ、姉に頼もう」
「なんでもいい……」
姉にコール……繋がった!
『もしも――』
「死んでしまえ!!」
携帯を投げつけた。
「しまったぁ! なんか声聞いた瞬間ムカついてしまったぁぁ!」
「とめ、にぃの、ば、か……がく」
あぁ、何も、見えなくなって――
「なぁぁぁんだとぉぉぉぉぉ!?」
最後に、なんか聞こえた。
この後、いきなり死んでしまえ呼ばわりされた姉と、突然罵倒されたサエちゃんサユカちゃんが来てくれたおかげで僕らは一命を取り留めた。
事態が事態だったので三人とも許してくれたけど……本当に危なかった。皆も熱中症には気をつけよう。
お待たせいたしました。
夏休みの宿題を発表します。久々にどれだけ連続更新できるかご覧あれ!
にしてもあっついねー。異動して移動販売車動かすことになったんですがこの暑さで車内で揚げ物とか地獄です。水分補給を怠った瞬間カカたちのようになりそうです。皆さんも気をつけてね!