カカの天下873「かわいい妹?」
……ふう。
あぁ、いきなりため息ですいません。トメです。いえね? ちょっと思い出してたんですよ。昔を。
あれは何年前か……八年前くらいかな。あのころのカカは本当にちっちゃくてなぁ。おにーちゃんおにーちゃんと僕にひっついてたもんだ。あ、誤解しないでくださいよ。そんな時代もあったなぁって懐かしんでるだけです。
そうして懐かしんでいるのにもきっかけがあります。そのきっかけというのが……
「おにーちゃーん」
座って本を読んでいた僕の背中におんぶ状態でひっついてるカカ(12歳現在)なのです。
「……頭ん中だけタイムスリップでもしたか」
「どしたの、おにーちゃん」
「そっちこそどうした」
確かに僕ら兄妹は仲がいい。しかしここまでひっつかれる程のスキンシップはなかなか取らない。
「そういう気分のときもあるんだよ」
「どうした、なんか嫌なことでもあったのか」
「何かないとくっついちゃいけないの」
「もういい歳なんだから」
「あ、胸があたってドキっとしたとか? やーん」
「そんなものはない」
「……ちょっと待てトメ兄。そんなものとは如何なるものを指しての言葉か」
それはドキッとした事実か、胸か、それとも両方か。
胸だな。
「なんだとぅ!?」
「うぇ? 口に出してたか僕」
「雰囲気でわかった」
さすが密着してるだけはあるな。普段より兄妹のシンクロ率が高い。
「ていうかさ、可愛い妹がくっついてるんだから嬉しいとかないわけ? ていうか嬉しいんでしょ、ねぇ。照れてるだけだよね」
「僕って正直者だし」
「えー」
「乗っかられたとき、背中が結構痛かったし」
「えー」
「ぶっちゃけ重いし」
「えー」
「回されている腕でいつ絞められるか恐いし」
「えー」
「その腕先の服に汚れを見つけて洗濯したくなってきたし」
「えー」
「おまえ歯ちゃんと磨いてるか? 近いからかな、なんか口臭らしき」
「それ以上言うとぶん殴る」
「おまえなぁ、もう少し女らしくしろよ」
「なら女扱いしてよ! 重いだの臭いだの!」
「言ってないだろ!」
「言ってるようなもんじゃん!」
「ほんとだ!」
「とめにーのバカ! たまにはイチャイチャしたいなぁって思った妹の気持ちがわかんないの!?」
「普通は妹がそんな気持ちになるなぞ思わんわ!」
「じゃあ思ってよ! イチャイチャしたいの!」
「イチャ!」
「イチャ!」
「はい終わり」
「トメ兄ってそんなにボケ役だったっけ!?」
おお、ほんとだ。僕ってばボケてる。
「……無意識にならたまにボケれるんだよなぁ。意識的にボケるとヒドイ内容になるけど」
「とにかく」
「あーはいはい。よしよし」
手を背後に伸ばす。適当に手探りで……よし、頭めっけ。背中にひっつかれたまま頭を撫でてやる。
カカは不貞腐れた顔をしながらも、ぎゅっとさらにひっついてきた。
「ま、たまにはいっか」
「うん」
「今日は久々に一緒に寝るか?」
「うん」
「……なぁ、本当にどうしたんだ?」
「うん。こんなイチャイチャをサユカンが見たらどう思うかなーと思って」
「思って?」
「やってみたわけで」
ふと後ろを振り返る
なんか般若とか夜叉とかそんな感じの顔の女の子が立っていた。
手にはなぜか包丁。
「……なぁカカ。僕、おまえになんか悪いことしたか?」
「こないだ私のおせんべ食べた。だからひどいめにあえ」
「判定厳しいなオイ!?」
えっと、うん。
ひどいめにあった。
可愛い妹には裏がある。
んー。
や、裏がないのも書きたいな。
よし書こう。