カカの天下871「タケダにがんばられた」
ちわ、カカです。何事もなく過ごす中学校生活ですが、やっぱりそこは子供。ちょっとした刺激は必要なのです。今日も今日とて、そんな刺激を探索中。
「カカ君!」
「誰だ!」
「タケダだ!」
「ヤツは死んだはずだ」
「なぜだ! 俺はこうして生きている!」
「私が確かに殺した!」
「なら本望だ!」
「なら殺しなおす」
「待て待て待て! なぜ殺す!」
「暇だから」
「暇つぶしに殺される程度の存在なのか俺は!」
「じゃあ他の暇つぶしを見つけてよ」
タケダは少し考えてから口を開いた。
「じゃあ」
「時間切れ。しね」
「判定厳しいだろう! いいからこれを見たまえ!」
いきなり目の前に突きつけられたのは開かれたメモ帖。そこには漢字が書いてあった。
「さぁ読むのだ」
「叩け」
いて。タケダごときにポカリと叩かれた。
「ふ、ひっかかっ」
「なにする」
「ふごぉ!!」
とりあえず鳩尾を蹴り上げてやった。
「な、なにお」
「こっちのセリフだよ」
「いやいや! 自分で言ったのではないか、叩けと!」
読めといわれて読んだだけ……ああ、そういう遊びね。
「じゃあこれ読んで」
私はタケダのメモ帖を勝手に使い、付いていたペンでその文章を書いて渡した。
「む……これを読めと」
「そう」
そこにはこう書いた。『ボディブローをかましてください』と。
「はっはっは、こんなわかりやすい文章を読むわけが」
ボディブローをかました。
「ぐ、ごお……な、なぜ」
「読めなかった罰」
「な、なんと」
「はいもっかい。読んでみ」
「ボディブローをかましてください」
言う通りにしてあげた。
「ひー……はー……」
「イエス、ヒーハー!」
「まるで俺が興奮しているように言うのはやめてくれ! 苦しんでいるのだ!」
「ふざけたことしたお仕置きだよ」
「お仕置きなら最初の蹴りですんだだろう!?」
「あれはあれ」
我ながらよくわからない理屈である。
「あ、あんまりだ……くそぅ、俺も男だ。いつまでも黙っていると思うなよ」
「うん、もう少し黙ってよ」
「うがー! 決めた! 復讐してやる! 覚えてろよカカ君!」
そう言い捨てて、タケダは去っていった。
それにしても、復讐? タケダが私に? 珍しい。中学生になって少し男らしくもなったのかな。あんまり想像つかないけど……何する気なんだろう。
翌朝。普通に中学校へと登校したんだけど……
「いて」
廊下の曲がり角でタケダとぶつかった。
「おっと、すまんなカカ君。それとおはよう」
「もしかしてこれが復讐? ちっさいなぁ」
「君はどれだけ俺を過小評価しているのだ! 本番はこれからだ!」
そっかぁ。まー楽しみにしてるよ。
「しかしカカ君は可愛いな」
…………。
……は?
「では失礼」
去っていった。何言ってるんだろあいつ。
「おはようカカちゃん」
「あ、うん。おはよう」
通りすがりのクラスメイトさんだ。
「今日のカカちゃんは可愛いね」
「へ?」
「じゃ、またね」
なんなんだ一体。
「あれ、おはようカカちゃん。なんか可愛いね」
「おお、今日の笠原は可愛いな」
「可愛いカカちゃんおっはー」
「可愛い可愛い」
「きゃわゆいきゃきゃちゃんおっひゃー!」
なんだコレ。確かに私は可愛いしサエちゃんにもよく言われるけど、出会う全員が言うなんて異常だ。や、最後に言語が異常な人もいたけど。
「カカちゃんだ、おはよー」
「カカすけ、おはよ」
「あ、サエちゃんサユカン。おはよう。聞いてよあのね」
「カカちゃん、今日は一段と可愛いねー」
「カカすけ、悔しいけどあんた可愛いわっ」
「なにこれー!!」
さすがの私も恥ずかしいんですけど!
「ほらほら、席につけー。出席とるぞー。えーと一番は飛び越して可愛い笠原カカ君!」
「は、はい!?」
思わず立ち上がる私。
なぜか巻き起こる拍手。
顔が熱くなっていく。
「え、えぇと、なんで、みんな、何を企んでるの?」
「可愛いね」
「可愛いなぁ」
「ちょー可愛い」
「う、あ、うう、その、あの、そんなに言われると照れてしまうというか、いたたまれなくなるというか、小さくなってしまうというか、その、とても申し訳ない気持ちになってしまうのですけど、あぅ。なんだろう、私はどうすればよいのですか?」
混乱しながら視線をさまよわせ、しどろもどろに、らしくないことを言いまくる私。
恥ずい。
顔を上げてられなくて、俯いた。
するとそれを見つけた。
『とことん私を可愛いと言いなさい』という紙が私の腹に貼りついているのを。
「あ、やっぱり気づいてなかったんだー」
「え、本当にっ!? てっきりわざとやってるのかとっ」
ふ、ふふ。
ふふふふふふふ。
やってくれたねタケダ。これ以上ないほどの屈辱を与えてくれた。
見てろよ。
「ていうか皆、ノリすぎ」
「一番ノリのいい人が何言うのー」
ともかくリベンジだ!
がんばられた話の次はがんばる話です。
どうなるタケダ〜
いやしかし照れさせるのは楽しい。もっとやろう。