カカの天下87「ドロドロジュースを作ろう」
「どろり濃厚ジュースが飲みたい」
「……は?」
こんにちは、トメです。
まぁ説明するまでもなくいつものことですが、カカが唐突にそんなことを言いました。
「ほら、昔飲んだことあったでしょ?」
「……ああ、なんか姉が「最近の流行はこれだ! きーえるひこーきーぐもー♪」とか言って持ってきたやつな」
「それが飲みたい」
「買ってこいよ」
「売ってないの、だから作って」
「勝手なやつだ」
「ねぇそれシャレ? 『買って』と『勝手』」
「うるさい」
言ってからしまったと思ったさ、くそぅ。
「カカって本当にさ」
「あ、またシャレ?」
「どこが」
「カカって、か『かって』」
なんて答えよう。
A 揚げ足とるな。
B よく気づいたな。
C バルサミコ酢。
なんだこのCの選択肢。
すごく気になる。
よし、じゃあCで――
「まぁそれはいいとして」
時間ぎれかよっ!!
見たかったのに……バルサミコ酢。
「どろり濃厚ジュースつくって」
「どうやって作るんだよ」
「ジュースをどろりと濃厚にするんだよ」
「……いや、それはわかるが」
「どんな手を使ってもいいから作って、楽しみにしてるよ」
「……わかりましたよ。お嬢さま……」
一作品め。
「ほい、どうぞ」
取り出したるは濃厚というわりには色が薄めのオレンジジュース。
「これ、ほんとにどろり濃厚?」
「試しにコップ揺らしてみ」
言われたとおりコップを揺らしてみると、オレンジの水面はひどく鈍重に波をつくる。確かにどろりとはしていそうな感じ。
「……なに入れたの?」
「サラダ油」
「却下」
「どんな手を使ってもいいって」
「罰としてトメ兄が飲みなさい」
「ちょ、ま、まてなにす――がぼっ」
二作品め。
「ほい、どうぞ」
取り出したるはピンク色のジュース。中には小さく果肉が混じっていて、わりと正統派? なジュースに見えなくもない。
「これはどんなオチがあるの?」
「オチとか言うな。さっきのと違って今度のはわりとマジメに作った」
こんなジュースを作ろうとしている時点でマジメという言葉からは程遠いような気もするが気にしてはいけない。
「まぁ飲んでみろって」
言われたとおり口をつけてみるカカ。
「あ、結構おいしい」
「だろ」
「あんまりどろどろしてないけど」
「そうか? うーん……やっぱそれってコップじゃなくて、もう少し大きい器でフォークやスプーンで果肉と一緒に飲むのがいいんだろうなぁ」
「これ、なんなの」
「ん? ああ。牛乳の中に苺と砂糖を入れてな、苺をフォークで潰すんだよ。苺は柔らかくなって牛乳吸い込んでおいしいし、牛乳も苺の果汁を吸い込んでおいしくなるという素晴らしい技だ」
子供のころに僕が好んでいた食べ方だ。
「でもあんまどろどろしてない……」
「希望に添えなかったか?」
「そうだ! 砂糖じゃなくて佐藤君を潰して入れれば!」
「誰だよその可哀想な佐藤君!!!」
「隣のクラスの男子。最近さ、「おまえ生意気だぞ、潰してやる!」ってケンカ売られたから」
「や、だからって潰して食べるのは」
「きっとドロドロだよ?」
たしかにドロドロにはなるけどさ! いろんな意味で!!
なんだかんだ言いながらも美味しかったらしく、カカは結構ご機嫌だった。