カカの天下866「サユカの任務、必要以上に二人きり編」
こんにちは、サユカですっ! 今日はわたしとトメさんの誕生日! 二人の運命の日っ!
「あ、サユカちゃん。誕生日おめでとう、と、おはよう」
だから今日は、二人でお出かけなのですっ!
きゃーッ!!
きゃぁー!!
っきゃああああああああ!!
はっ!? テンションが上がり過ぎたわ。
「トメさんっ! 誕生日おはようございます!」
テンション上がり過ぎて混ざったわっ。
「うん、おはよう」
トメさんってばツッコむことなくスルー!? 冷たいっ、でもそれはそれで快感っ。
「じゃ、行こうか」
「はいっ」
今日は二人っきりになれるといいなっ。
――商店街に、着いた。
ひゅーるりー、と寂しい風が吹く。
「誰も、いないぞ」
二人っきりだっ!!
じゃなくてっ。え、なに? なんでいつも賑わってる商店街に人っ子一人いないの!?
「……人類が滅んだ未来に迷い込んだ、なんてことはないよな」
「それはそれで」
「え、サユカちゃんなんて言った?」
「いいえ、なんでも」
わたしたちがアダムとイブに、なんて思ってませんよ。ええ。
「でも、本当に誰もいませんねぇ」
「とりあえず歩いてみようか」
「はいっ」
トメさんと仲良く探索開始。
「……静かだね」
カサカサ!
「……ですね」
カサカサ!
「……でも、なんか」
カサカサ!
「……人の気配はするような」
カサカサ!
「……なんか、かつて無い勢いで避けられてるような感じじゃないだろうか」
わたしもそんな気がしてきた。街の皆が隠れてる。わたしたちに見つからないように。全員が揃いも揃って。
「よし、店に入ってみよう」
「そうですねっ」
試しに喫茶店に入ってみた。さてさてどうなるのかしら。もし誰もいなかったら勝手にケーキとか食べてやるんだからねっ。
カランカラン、と来店を告げるベルが鳴る。
お客さんはいない。
店員さんは……いない?
「いらっしゃいませ」
いないのに声がしたっ!
「お、お好きなお席へどうぞ」
「そこの店員。なんでカウンターに隠れてるんだ」
トメさんがその姿を目ざとく発見したみたいだっ。カウンターの影かな? 覗きこむと確かにウェイトレスさんが。でも、なぜか縮こまってフルフルと震えている。怯えてるの? 何に?
「お客に対して失礼じゃないか?」
「そ、そのぅ」
そのとき、ハラリと床に落ちた紙。それを見て私たちは全てを理解した。周りの人々が姿を見せない――いや、見せないほどにわたしたちに近づかない、その理由。
トメさんの背中からはがれ落ちた紙には、大きくこう書かれていた。『この人、うんこたれ。逃げろ』と。
「ひぃ! や、やっぱりたれるんですか!?」
「誰がたれるかぁ!! ていうかやっぱりってなんだ!!」
「きゃあああああ! たーれーらーれーるー!!」
「人聞きの悪いことを叫ぶなぁ!! こんな冗談みたいな貼り紙を真に受けてんのか、この商店街の住人は!! しかも全員!?」
「だってたれるんでしょう!?」
「たれねーよ!!」
いま、街の人々はこんな感じで怯えているのね……ん、ハラリとまた紙が落ちたわ。同じもの、ってわたしにも貼ってあったの!?
「こんなことするのは誰か、なんて考えるまでもないわよね。カカすけっ、サエすけっ!」
案の定、ひょっこりと現れる二人。
「なに、サユカちゃん。やっぱりたれるの?」
「たれないわよっ!」
「だからなんでやっぱりなんだ!?」
「あははー、トメお兄さんさんてば今にもたれそーな顔してるー」
「怒ってんだよ!!」
わたしは怒りをかみ殺しながら、ゆっくりと聞いた。
「なんで、こんなこと、したの?」
カカすけはハッキリと答えた。
「二人きりになりたいと思って」
「ありがとう!!」
「お礼言うの!?」
ごめんなさいトメさん。二人きりになりたいと思ったのはわたしなんです。それを二人は叶えようとしてくれた……だからお礼は言わないと。
「喜んでもらえてよかった。これが今回の二人への誕生日プレゼントだよ」
「存分にたれてねー?」
「たれないって言ってんだろがあああああ!!」
……まぁ、うん。色々と歪曲してる気はするけど、祝ってくれてるのはわかる。かろうじて。だから感謝。
今日でまた一つ、歳が増えました。トメさんに見合う大人へと近づけたかな? いや、もっと大人にならないと。このくらいのイタズラはスルーできる大人に!
……と。
「あー、なんだよ。たれないのか」
「おーい皆、たれないんだってさー!!」
なーんだ、と胸を撫で下ろしてわらわらと姿を現す大人たち。
大人たち。
「おまえらバカだろ」
「バカですね」
思わず同意したわ。
すると大人たちは声を揃えた。
『オゥイエ!!』
こんな大人にはなりたくないわ。
おめでとう二人とも!
そう、何気に二人の誕生日なのです。しかし毎回この日は感動的な展開はありえないですなぁ。まぁこんな感じがサユカにとっては一番幸せでしょう。多分。
多分。