カカの天下86「サユカの任務、会話編」
「考えてみたんだけど」
「なにを? サユカン」
ちわ、カカです。
今日はサエちゃんが用事があるということで、いつもの三人ではなくサユカちゃんと二人でIN我が家です。
「わたしってさ、トメさんとまともに話したことないのよね」
どうでもいいけど呼び方は「トメさん」に落ち着いたみたいだ。今までいろんな呼び方してたけど。
「やっぱり自然に会話できるようにならないと始まらないわよねっ」
「そうだね。トメ兄の前だとサユカン壊れるし」
「だからさ、カカすけ。なんかトメさんとうまく会話できる話題ってないかな」
「……話題?」
「君、いつもトメさんと暮らしてるんだからさ、話しやすい話題とかすぐ出てくるでしょ?」
そんなこと言われても……いつも一緒にいるんだからどんなことを話そうか、なんてわざわざ考えたこともないしなぁ。いつも自然に思いつくまま話してるだけだし。
「じゃあさ、トメさんの好きなものってなに? それをヒントに話題探すわっ」
「トメ兄の一番好きなものはわかってるけど」
「お、さっすが! なになに?」
「私」
「却下」
うわ、即決。
「そんなタワゴトはいいから、はい、次」
「サユカンも結構容赦ないね……サエちゃんも最近そんなだし。あーあ、なんで私の周りはこんなんばっかかな」
「あんたが一番容赦ない性格してるくせに何言ってんの。はい、他にトメさんの好きなものは?」
「枝豆かな」
「え、枝豆? そんなのが好きなの?」
「たまーにビールと一緒に幸せそう食べてるよ」
「そっか……ふむふむ。他には? よく話題にすることとか」
「んー、会社にいる同僚のおじいちゃんの話はよく聞くかな」
主に愚痴だけど。
「ふむふむ……他には?」
「んー……私ってこう見えて思いつきで喋る人だからよくわかんないんだよねー」
「こう見えるも何も見たまんま、カカすけはわけわかんない星の適当類、破天荒目、私が天科の生き物じゃないのっ」
なにその分類。私って地球の哺乳類のサル目のヒト科の人間というイキモノじゃないんでございましょうか? というか私が天科ってなに。
「とにかく……ありがと。これらのヒントを元に、とりあえず突撃してみるっ」
「おー、がんばってー」
ひらひら手を振って見送って……なんとなく気になってついていってみる。
居間を覗いてみると、サユカンが必死にトメ兄に話しかけていた。
「枝豆っていいですよねっ、皮をむく瞬間がたまりませんよね!」
「そうか? 僕は単にビールとの相性いいから好きなだけなんだけど」
む、ビールの味がわからない私らお子様には不利な話題だ。サユカン、話題転換だっ。
「そ、そういえばトメさんはフサフサのおじいさんとツルツルのおじいさん、どっちが好きですか?」
「え、いや、どっちも別に……」
「じゃあ可愛いおじいちゃんと格好いいおじいちゃんは!?」
「は? いや」
「ビューティフルなおじいちゃんとデンジャラスなおじいちゃんと不敗無双のおじいちゃんは!?」
すごい、おじいちゃんパラダイスだ。
「おじいちゃん系は基本的に苦手だなぁ……あのじじぃ思い出して」
あ、トメ兄の顔が歪んでサユカン困ってる。質問も質問だしなぁ……ああ、そっか。見た目平静を装ってるけど実は中身は壊れてきてるな、サユカン。
用意した話題がことごとく役に立たないとわかり、窮地に立たされるサユカン。
と、そこでサユカンは切り札を出した!
「と、ところでカカすけなんですけど……」
「なに、あいつまた何かやらかした?」
「いえ、何かといえばいつもやらかしてますけど……」
おい。
「だろうなぁ。今日は何した?」
「えっとですね、先生の口にちりとりを――」
「まったくあいつは――」
私の武勇伝を聞いて、呆れながらもペラペラと喋りだすトメ兄。やっぱ私が大好きなんだなぁ、この兄は。いつまでも妹離れできないんだから。やれやれだ。
や、別に嬉しくないよ私は。
うざいだけだし。ほんとほんと。
こほん……サユカン、会話できて目的は達せられたのに釈然としない顔してる。
まぁ、仕方ないよね。話題は私だし。
恋愛って難しい。
……ある意味、私の恋愛のほうが難しいけどね。
はぁ……サエちゃん。